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妖艶なる吸血

淫らな吸血鬼と倒錯した男女の織りなす、妖しいお伽噺・・・

ストッキング地の靴下。

2015年02月09日(Mon) 06:42:23

丸芝ちゃん、竹ノ内さん。お客さんだよ。もてなし部屋・・・いや、応接室。
分厚い眼鏡がなおさら無表情にみえる重光次長が、向こうの扉を開けて部屋に入って来るなり、いつもの手短でてきぱきとした口調でそう告げた。
竹ノ内は、やれやれ・・・と思った。
斜め向かいの席の丸芝は、いつものことだといわんばかりにすぐ席を起つ。
一瞬もたもたした竹ノ内に重光は畳みかけるように、「竹ノ内さんもだよ」って、声をかけてくる。
高飛車な口調のわりに、重光は人懐こそうにニマニマと笑いかけてきた。
自分もさっきまで、その応接室・・・いや「もてなし部屋」にいたのだろう。ちょっと蒼い顔をしていた。
「もてなし部屋」。
社員のあいだではもっとストレートに、「吸血部屋」と、呼ばれていた。

ひと足さきに部屋に入った丸芝は、ソファのまん中に腰をくつろげていた。
ソファは四つ。
部屋のまん中の低いテーブルを四方から囲むように、しつらえられてあって、竹ノ内は丸芝の向かいに腰を下ろした。
客人はどこにいるのか、まだ姿をみせなかった。
部屋のドアから重光次長が顔をのぞかせて、
「きょうはお客さん、多いから。会議室は満杯なんで、きょうは会議は無しね」
そういって、ドアを閉めた。
さっき通ってきた打ち合わせ用の個別ルームも満室のようだった。
そこはきっと、女子社員の応接用に使われているのだろう。
この部屋もそういう用途に供されることもあるらしく、背の高い衝立がいくつも、部屋の隅に並んでいた。
そういえばきょうの事務所には、やけに女子社員が少なかったな・・・竹之内はぼんやりと思った。

「竹ノ内さんとこは、もう済んだの?こっち来てもうひと月になるよね?」
四十男の丸芝が、さえない顔色をしながら、話しかけてきた。
「ええ、もう、とっくですよ」
竹ノ内は苦笑しながら答えた。
「そうだよねえ。お宅の奥さん若いもんねえ」
丸芝は露骨な言い方をしたが、竹ノ内は腹が立たなかった。

みんな同類項だもの・・・
初めて訪れた夜が明けて、腫れぼったい顔をして出社した時に。
あの無表情で謹厳そうな重光次長はそんなふうに言って、彼に対して初めてにまっと笑った。
いかつい顔に似合わない、人懐こい笑みだった。
竹ノ内持ついつり込まれて、笑い返してしまったくらいだった。
さっきまで。
夫婦ながら畳にころがされて、吸血鬼に生き血を吸われて。
あまつさえ妻などは、凌辱まで受けてしまっていたというのに。
丸芝が「もう済んだの?」と訊いたのは、街に棲み着いている吸血鬼の訪問をもう受けたのか?という問いだったのだ。

ドアがあわただしく開け放たれると、男がふたり、なだれ込むような勢いで入り込んできた。
一見してどちらも、社員ではない。
特に丸芝のほうに向かっていった男は目が寄っていて、酔っ払ったみたいに千鳥足だった。
薄汚れたコートを着込んだその男は、禿げた頭をてかてかと真っ赤にテカらせていた。
禿げ頭の周囲を取り囲むように、抜け残った白髪がいじましそうにチリチリととぐろを巻いている。
「丸芝ちゃん、いつも悪いね」
男は妙なしゃがれ声でそう呼びかけた。
「ああ、いいからいいから。待ってたよ」
明らかに「ラリっている」感じのその男に、丸芝は手をあげて男に応じた。
いつもの不愛想な態度とは打って変わって親しげな態度だった。
紺のスラックスを片方、予防注射のまえに腕まくりするみたいに、たくし上げている。
黒革の革靴の足首が、薄地の濃紺の靴下に透けてみえた。
ちょっとずり落ちていた丈長の靴下を、丸芝がひざ下まできちっと引き伸ばすと、
禿げ男は自身の千鳥足に耐えかねたように、丸芝の足許にへたり込んだ。
「丸芝ちゃん、ふだんの俺のこと知ってるよね?」
哀願するような口調だった。
いまの自分の異常な風体を、じゅうぶん認識しているらしかった。
きっと本人にとっても、不本意な状態なのだろう。
「知ってる知ってる。朝から晩まで律儀に働く、腕の良い職人さんだ」
丸芝の口調は、とりなすように優しい。
「いったいどうしてそんなになるまでガマンしたの」
「だってサ。いつも世話んなってる高校や中学に通ってる女の子たちが、そろって受験なんだもの」
「ああ、そうだね。いまごろはそういう季節だよね」
「お母さんたちがサ、気ぃ遣ってくれて。ちっとはよけいに吸わせてくれるんだけど、どうしても足りなくって」
「そうかそうか、おっちゃん優しいからな」
吸血の習慣を持つこの禿げ男は、年頃の少女たちをお得意さんに血を吸っていたが、受験シーズンに入って遠慮しているうちに血が足りなくなって、おかしくなってしまったらしい。
「ほれ、早く吸いなよ。俺は構わないからさ」
丸芝は気前よく、スラックスをたくし上げた脚を差し伸べた。噛んでいいということなのだろう。
突き出されたふくらはぎは、ストッキング地の長靴下に染まって、男のそれとは思えないくらいなまめかしく映った。
飢えた唇がヒルのように、薄いナイロン生地のうえを這った。

竹ノ内のほうに寄ってきた男は、顔見知りの五十年輩の男だった。
草色の作業衣はやはり薄汚れていたが、こちらは丸芝の相手の男ほど、おかしな状態ではなかった。
「お仕事ちゅう、すいませんね」
男は尋常に頭を下げると、お向かいの男と同じように竹ノ内の足許にひざをついた。
竹ノ内がたくし上げたスラックスの下は、ひざ下丈の靴下だったが、普通に厚い生地だった。
「薄い靴下のほうが、よかったですかね・・・」
向かい合わせのソファで、女みたいなストッキング地の靴下に嬉しそうに舌をなすりつけている吸血鬼を横目に、竹ノ内はぼそっと言った。
あの見慣れない薄い靴下は会社から支給されていたが、どうにも気色が悪くて履く気になれなかったのだ。
「いや、気にせんでええですよ。女子高生の紺の靴下のつもりでいただきますから」
男は丁寧な言葉つきをのみ込むと、入れ替わりのように口の端から尖った犬歯を覗かせた。
素早くすりよた男がぶつけるように足許に顔を圧しつけてくると、
ふくらはぎの一番肉づきのよいあたりに、チクッと刺すような微痛が走った。

どれほど時間が経っただろうか?もう30分ほども経ってしまっただろうか?
目のまえがかすんでいるような気がする。
男はまだ竹ノ内の脚に取りついて、血を吸いつづけていた。
咬み傷は浅く、ひと口ごとに吸い取られる血は微量だったが、長いこと許していたのでもうかなりの量を抜き取られてしまっていた。
男は、初めての夜妻を組み伏せていった相手だった。
恐怖の色を泛べる妻の首すじに、やおら牙を突き立てて、
失血で身動きもままならない竹ノ内の目のまえで、生き血を吸い取っていった。
かなり喉が渇いていたんだろうな・・・そんな感想をあとで持ったのは、夫婦でなん人もの吸血鬼の相手をした後のことだった。
妻がわざわざ着込んだ、新調したばかりの花柄のワンピースの胸に、
吸い取ったばかりの血潮をわざとぼとぼととほとび散らせると、
こんどは足許にかがみ込んでいって、
肌色のストッキングがくしゃくしゃになるほどふくらはぎをいたぶって、
挙句は、唾液に濡れたストッキングをむしり取るようにして、咬み破っていったのだった。

セックス経験者の女性は、覚悟しなけりゃいけないよ。
あいつら、血を吸った女のことをその場で好きになって、セックスしたがるんだから。

その晩を迎えるまえ、退勤間際にそんなことを耳打ちしてきた課長補佐は、
「もしそうなっても、気にすんな。うちもそうだし、ほかのもんもみんなそうなんだから」
と、言ってくれた。
あの耳打ちがなかったら、頭がおかしくなっていたかもしれなかった。

向かいの丸芝も、正気を失いかけていた。
「参ったなあ・・・困ったなあ・・・今夜うちの女房のパンストも、あんたにこんなふうに擦り剝かれちまうのかなあ・・・」
スラックスの下の薄い靴下は、幾すじも裂け目を走らせていた。
裂け目からにじみ出た、男にしてはやけに白い膚が、丸芝の妻が今夜受ける恥辱を連想させた。
参った、困った・・・と愚痴りながら、丸芝のなかでもそれはもう、既定路線なのだろう。
一対一だと女房のやつ気づまりだっていうから・・・と。
丸芝が迎えた初めての夜は、乱交の場だった。
経験済みの同僚の奥さんたちと連れだって三人で、同時に三人の吸血鬼に襲われて・・・
申し合わせたように肌色のストッキングをまとった三対の脚が、薄手のナイロンを咬み散らされながら侵されてゆくのを、
丸芝はいまでも鮮やかに記憶している、という。
おおぜいのなかの一人・・・みたいな、取るに足らない存在として。
自分の妻が生き血を吸い取られ、三人の男に同時に犯されてしまうのを目の当たりにして。
以来「頭の中身が入れ替わってしまった」という丸芝は、彼らの催す乱交の宴にしばしば妻を伴ったと言っていた。

とてもそんな勇気はないけれど。
今夜もどうやら、二人の熱いところを見せつけられてしまうんだろうな・・・そんな予感に慣れ始めた自分が、怖い。

貧血でふらつく足取りで、早めの退勤をした。
傍らには妻目当ての五十男が、自分から吸い取った血をまだ口許に光らせている。
事務所の玄関を出るときすれ違った相手に、竹ノ内は危うく声をあげるところだった。
「は~い♪」
胸を大きくはだけた白のブラウスに、黄色と黒の大ぶりなスカーフを巻いて。
真っ赤なミニスカートの下は、濃紺の薄手のパンティストッキング。
どこの飲み屋の女?と思ったその相手は、同僚の吉井だった。
もちろん、男の同僚だった。
「女房が相手の男に買ってもらったやつ。あいつ大柄だから俺も着れるかな?」って。
そういえば。
女装して出勤してくる社員が、毎日きまって数人はいた。
吉井とどんな会話を交わして別れたのかは、よく憶えていない。
ただ記憶しているのは。
男もののストッキング地の靴下が気持ち悪くて履けなくても、
いっそ女の姿になってしまえば、いまの相棒をストッキング地の靴下で愉しませてやることができるのかな・・・って、薄ぼんやりと感じたことだけだった。
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