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妖艶なる吸血

淫らな吸血鬼と倒錯した男女の織りなす、妖しいお伽噺・・・

かえり道。

2015年02月09日(Mon) 07:46:22

家に帰る途中、連れの五十男の仲間に行きあった。
男は竹ノ内よりも少し年上の三十代くらいで、たしか小さな息子が二人いるはずだった。
「よう、宮成さん。久しぶりだね」
三十男は五十男を苗字で呼んで、親しげに手で会釈した。
「このごろうちに寄ってかないって思ったら、この人かい、あんたに若いお嫁さんを世話したのって」
五十男――宮成が「まあ、まあ」とはぐらかしたのは、竹ノ内に気を使ってのことだろう。
あまり気を使わせちゃわるいな・・・と思った竹ノ内は、「どうも」とはっきりした声色で、三十男に挨拶を返した。
「ああ、もう平気なんだね」三十男は初めて、竹ノ内に打ち解けた態度を示した。
「都会から来た人は、こんな習慣ないだろうから、面くらうよね。でもまあ、慣れてくれてよかった。あんたがたのほうからふつうに考えたら、ぞっとしないだろうね――嫁さんを吸血鬼に喰われちまうなんてさ」
さいごのひと言はさすがに露骨だったと思ったのか、三十男はあわてたように言った。
「ああ、うちもお宅といっしょだから。このおやっさんも、うちの女房のお得意さん」
あはは・・・と笑う乾いた声に、邪気はなかった。


妻と宮成との初めての逢瀬も、たしかこんなふうに寒い午後のことだった。
あれはたしか三回目だっただろうか。
社内で上司に呼び出され、奥の会議室で初めて宮成に血を吸われて――それからたしか二度ほど、宮成は竹ノ内を訪ねて来社していた。
別れ際宮成は、「帰り道の途中に、公園あんだろ。奥の雑木林のなかにベンチあるの知ってる?そこで待ってる」
そんなふうに言って、まだ勤務時間が終わらない竹ノ内を残して、悠然と立ち去っていった。
寒気に支配された帰途に寄り道をするのはおっくうだったが、竹ノ内は律儀に公園の雑木林を訪ねていった。
そのときの光景は、忘れない。

白のタートルネックのセーターに、地味なグレーのパンツスタイル。
見慣れた服装に身を包んだ妻の美佳子は、虚ろな表情を凍りつかせて、ベンチにあお向けになっていた。
その顔を覗き込むようにして、宮成は美佳子の首すじに唇をまだ圧しつけたまま、頬に血のりを光らせていた。

悪いですね。
そういって起き上がる宮成の頬を。
竹ノ内は二度、三度と、平手を見舞っていた。
向かってくるかと思った相手は、何事もなかったような顔をしていた。
竹ノ内は初めて、負けた、と、思った。

家に帰りましょう。手伝ってください。
男の言うなりに、男に負ぶわれた妻の背中をさすりながらたどった家路は、いつもと違った景色に見えた。

家に着くころには妻は息を吹き返し、送ってもらったことにしきりに恐縮していたけれど。
始終手を伸べて気にしていた首すじには、もう消すことのできない疼きが、肌の奥深くにまでしみ込んでいるはずだった。
それは、竹ノ内自身が、宮成の牙を通して体験済みのことだった。
そんなに召しあがっていらっしゃらないんでしょう?初めてだとしても、申し訳なよね?
妻はそう言いながらいそいそと寝室の奥に入っていって、箪笥の抽斗からワンピースを取り出してきた。
こちらに赴任する前、よそ行き用に新調したものだった。

まだ袋に入ったままのワンピースを胸にあてて男に見せ、
「こんな服でお相手しますが、よろしいですか?」と訊き、
男が「すみませんね、気を使わせちゃって」というと、
「じゃあちょっと用意してきますので」と、そそくさと座を起っていた。

夫婦の寝室に伸べられた、せんべい布団のうえ。
花柄のワンピース姿を仰向けに横たえた妻は、首すじに迫る唇を目にすると、それに応じるように目を瞑った。
自分が着替えている間相手をしていた夫が、失血で身動きできなくなっているのをみとめると。
伸ばした手で夫の手を握りしめ、大丈夫、というように軽く揺すった。
差し伸べられた掌は、夫の掌のなかでじょじょに力を消していって・・・
やがて夫の掌を払いのけると、のしかかってくる吸血鬼の背中に、腕をまわしていった。

侵入者の太ももは丸太ん棒のように太く、毛むくじゃらだった。
そのごつごつとした脚に、白蛇のように巻きついた妻のすらりとした脚は、チリチリに引き剥かれた肌色のストッキングを、まだひらひらとさせていた。
破けたナイロン生地が虚空に揺らぐ様子が、まだ竹ノ内の網膜から離れない。


帰宅した竹ノ内にかわって、宮成が訪いをいれると、美佳子はおずおずと家のドアを開けて顔を出す。
すでに訪問が予告されていたのか、きょうは紺のスーツに黒のストッキング姿だった。
運動部出身で上背のある美佳子は、夫とさして背丈がかわらない。
もともとしぐさも言葉遣いも男っぽかった美佳子は、日ごろパンツスタイルで通していたが、
この街に来て吸血鬼に襲われるようになってからは、スカートで脚をさらすことが多くなった。
しなやかな筋肉に覆われたふくらはぎは薄手の墨色のナイロン生地に覆われて、充実したシルエットをきわだてている。
いちど奥さんが、黒のストッキングを穿いているところを襲ってみたくてね。
宮成はにんまりと、人のわるい笑みを泛べた。
どうぞ・・・
人目をはばかるように妻は声を潜めて、ふたりを家のなかに入れた。

あ~・・・
白のブラウスの肩を真っ赤に染めて、妻は顔をしかめていた。
巻かれた逞しい腕はわが物顔に妻を抱きすくめ、猛禽類が獲物を貪るように、その首筋を咬んでいる。
黒のストッキングに透けたつま先の周囲の床に、赤い斑点がぽたぽたとしたたった。
「へへへ・・・」
宮成のなかでは、骨抜きになっただんなのまえでは、なんでもありらしい。
美佳子をソファに投げ入れると、すくめた脚を抑えつけ、黒のストッキングのうえから露骨に舌を這わせてゆく。
思い切り血を抜かれてじゅうたんの上にころがされた竹ノ内はただ、なりゆきを見守るしかなかった。
二人の熱いところ、たっぷりお見せしますよ。
宮成は竹ノ内にニヤッと笑いかけると、素早くシャツを脱いだ。
下着を着けない逞しい胸が、黒々とした剛毛に覆われている。
宮成は、美佳子のブラウスをこともなげに引き裂いた。
チャッ、チャッ・・・
ブラウスの裂ける音が、女の悲鳴のように、部屋に響いた。

胸もとの歯形が、痛々しい。
かすかに血をあやし、その周りには唾液が光っていた。
熱病にうかされたように悶えながら、美佳子は足許をいたぶられてゆく。
しなやかな墨色のナイロン生地は、男の舌のいたぶりに耐えかねたように、じわじわと裂け目を拡げていった・・・


うふーん、似合うじゃないの♪
いつも出勤前には、スーツを着るのを手伝ってくれる美佳子だったが。
今朝はとりわけ、ウキウキとしている。
竹ノ内が身にまとっているのは、美佳子自身の服――
濃いピンクのジャケットに、黒のスカート。足許は、黒のストッキング。
しっかりとした肉づきのふくらはぎは、男らしいごつごつとした輪郭をまだ保っていたが、
柔らかなナイロンに縁取られて、不思議ななまめかしさをかもし出している。
背丈がほとんど変わらないことが、幸いしたのか、不幸だったのか。
女のかっこうで、初出勤ね。
悪戯っぽく笑う美佳子は、会社で宮成の面会を受ける夫のことを想像しているらしい。
貴男の顔をしたわたしが、会社で宮成さんに襲われているみたい。
妻の奇妙な言い草が、なぜかしっくりと胸に響く。
外気に初めてさらした、女の姿。
いってらっしゃい♪
妻の声を背中に受けて踏み出した足取りを、ナイロンストッキングのゆるやかな肌触りがぬらりと滑らかに包んでいた。


あとがき
カテゴリは、「女装」でもよかったのかもしれないですね。^^;
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