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妖艶なる吸血

淫らな吸血鬼と倒錯した男女の織りなす、妖しいお伽噺・・・

登校前の儀式。

2015年02月15日(Sun) 07:34:16

シャワーからあがると真新しいブラにショーツをつけて。
そのうえから、白のブラウスを身に着けて。
それから、重たるい濃紺のプリーツスカートを、腰に巻きつけて。
お気に入りの濃紺の、ワンポイント入りベストを、頭からかぶって、
やっぱり重たるいジャケットを、ばさっと羽織って。
生徒手帳は胸ポケットに、夕べから残ったまま。
いけねえ、型崩れするとやだなあ・・・って思ったり。
でもあたし胸ないから、ちょうどいいや・・・って思ったり。
Dカップみたいなかっこに型崩れするわけないでしょう・・・って、
しっかり者のミチコに叱られたのを思い出したり。
そんなことは、どうでもいいんだけど。

枕元に畳んでおいた濃紺のハイソックスにちらっと目をやりながら。

ほんとに、もうっ!

わざと口を尖らせて、頬ぺたをふくらます。
それは、自分を勇気づけるための、ひとつの儀式。
箪笥の抽斗のなかに手を突っ込んで、黒のストッキングのパッケージを切る。

ストッキングを穿くのは、苦手。
穿いている最中に破けちゃったことも、一度や二度ではない。
足首から脛へ、脛からひざ小僧へ、それから太ももへ。
ぐーんと伸びる薄手のナイロンが、太ももをじんわりと淡く染める。
ゆるっとした束縛感が、ほのかな暖気とともに、足許を包む。
ふーっ。今朝は破かずに、うまく穿けた・・・

階段を降りると、母さんが背中で、おはよう、って言った。
あたしも横っ面で、うんおはよう、って答えた。
ちょっと、出かけてくるねー。
さりげなく言ったつもりでも。
隠しきれない声の震えで、行先を悟ったらしい。
気をつけてね~。
母さんの声色は、いつもと同じく穏やかだ。
こちらに向き直って、真向いで、だいじょうぶ?って言われた時は、さすがに嫌で。
露骨に顔しかめて以来、母さんはこちらを向かなくなった。
母さん、ゴメンね。
心のなかでちらっと呟くと、黒のローファーを墨色に染まったつま先で引っかけた。
スクールバッグを肩にドアを開けると、まだ薄暗く肌寒い、朝の空気。

公園までは、歩いてすぐだ。
もっと距離があればいいのに、と思う。
そうすれば、少しは身体もあったまるだろうから。
でもやっぱり、公園は近いほうがいいと思う。
破けたストッキングで街を歩くのは、やっぱり羞ずかしいから。
人目のないこの時間帯でも、だれも通りかからなければいいって問題じゃない。
乙女心はもう少し、フクザツなのよ。

黄色く塗られた車止めをすり抜けて、鍵に折れて、
いちばん奥の雑木林の傍らに、目指すメンチはあった。
ペンキ塗りたてになったときには、往生した。
それでも公園に来ないわけにはいかなかったから、
ブランコに揺られながらとか、
すべり台のいちばん下に腰かけてとか、
ちょっとやりにくい格好で、脚を伸ばした。
幸い、もうベンチのペンキはとうに乾いている。

小父さんは先に来て、待っていた。
相当早くから、あたしのことを待っているみたいだった。
どれくらい待ったの?って訊いても、教えてくれない。
2時間だの3時間だのって答えたら、あたしが引くと思っているらしい。
小父さんは、いつも黒いマントを羽織っている。
逢ったあと具合が悪くなって、家まで送ってもらったことがあるけれど。
古くさいマントは、街のたたずまいとぜんぜんなじんでいなかった。
公園のなかにいても、そこだけがことさらひっそりと、不吉な空気を漂わせている。
それじゃあ、生きづらいだろうね。小父さん。

小父さんはいつも、よう、って顔をあげてあたしを迎える。
あんまりハッキリした声で存在を認められるのは、いい気がしない。
あたしだって、人目を忍んでここまで来るのだ。
そんな想いが、台無しになるじゃない。
今朝の小父さんの声は、いつもよりも低くて小さかった。
喉渇いているんだ・・・そう感じると、あたしはとっさに身を固くする。

穿いてきてあげたよ。ほら。
ベンチの隣に腰を下ろすと、
あたしは脚を伸ばして、黒のストッキングに染まった脛を見せびらかした。
うふふ。綺麗だね。公園に入って来るところから、ずっと見ていた。
知ってるよ。わかっているよ。
小父さんのやらしい視線には、とげがあるもの。
そのとげが、歩いている時から、チクチク刺さって痛いんだもの。

小父さんはあたしのことを抱き寄せて、
首すじに熱い吐息を迫らせた。
そうっと咬んで。
あたしは予防注射の直前みたいに身を固くして、目を瞑る。
注射だって大嫌いなのに・・・
首すじに露骨にぬめる唇は、生温かいよだれにまみれていた・・・

ちゅうっ。
露骨なおとがあがった。
周りに聞こえるほどの、大きな音に、あたしはいつものように縮みあがる。
咬まれた首すじから、血液がスッと引き抜かれ、くらっとめまいがする。
悪いね。強すぎた?
小父さんはいちおうの気遣いはみせたものの、
もういちど唇を吸いつけて、あたしの血を吸った。
くらあ・・・っ。
目のまえに真っ黒なスプレーを噴きつけられたみたいに、
めまいが幾度も、炸裂した。
喉渇いているんだ・・・身体でそう感じながら、とっさにあたしは身を固くする。
引き抜かれてしまう血が、一滴でも少なく済むようにって思いながら。

頭を抱えてうなだれるあたしを、小声でなだめながら。
小父さんはやっぱり、あたしを放してはくれなかった。
あたしの前に、しゃがみ込んで。
黒のストッキングのひざ小僧を、いじいじとさすりながら。
ふくらはぎにじんわりと、唇を添わせてくる。
黒く染まった脚の輪郭をなぞるように、にゅるーっと這い上がり、這いまわされてくる唇に。
あたしはただただ、頭を抱えながら、かぶりを振りつづけていた。

黒のストッキングは、式典のときだけ穿くことになっていた。
終業式とか、卒業式とか、そういう大事なときだけのはずだった。
登校前に待ち合わせた公園で。
吸血鬼の小父さんに迫られることは、大事な式典のひとつなのだろうか?

悪いね。咬むよ。
引導を渡すみたいな言いかたをされたった、どう答えれば良いのだろう?
好きにして。
あたしはやっと、それだけ言った。

ぱちっ。

薄手のナイロンがはじける、かすかな音――

ブチブチブチッ・・・

小父さんは牙の切っ先を器用に引っかけて、
あたしの穿いているストッキングを、むざんに咬み破っていく。
裂け目が太いすじになって、脛をあらわにさせていって・・・
つま先からスカートの奥にまで、その太いすじは拡がってゆく。

うひひひひひっ。

本性もあらわに、あたしの制服の一部を、よだれで濡らしながら咬み剥いでいった。
泣いたり嘆いたりはしないけど。癪だから。
でも頭を支えるために顔を当てた掌を、あたしは外すことはなかった。
そのかわり。
指のすき間から、いたぶる舌が見え隠れするのを、無理に視界から追いやろうともしなかった。

おいしかった。助かるよ。
別れぎわ、ふらふらになったあたしのことを、しっかりと抱き留めてくれた。
あたしの首すじを残り惜しげになぞる指には、
ほんの少しだけど、ぬくもりが宿っているようだった。
もう、行くから。
目を合わせようとしないで、あたしは公園を出た。
小父さんの目線が追いすがってくるのも、無視した。
ふり返って手ぐらい振ってあげれば、かわいい子なんだろうけれど。
もう少し時間をくださいね。まだ、そこまで器用にはなれないから。

お帰りぃ。
家を出るときと同じく、割ぽう着を着けた母さんは。
家を出るときと同じように、背中であたしに声をかけた。
ただいまぁ。
家を出るときと同じく、あたしは横っ面で、返事をした。

あらあらまあまあ、派手に破けたわねえ。
母さんのストレートな言いかたに、あたしはやっと緊張が解けて。
そお?って。
あたしは脚を伸ばして、ストッキングを伝線させた脛を見せびらかした。
縦の太いすじをいくつも走らせながら。
真新しかったストッキングは、けなげにもまだ、持ち主の脚にへばりついていた。
まあまあ、この子ったら・・・

あたしの留守中、母さんの血を吸わないでね。
わざと口を尖らせて、頬ぺたをふくらませて。
吸血鬼の小父さんに願ったことは、きっとかなえられないのだろう。
白の割ぽう着に、見え隠れしながらも。
首すじにつけられた赤黒い斑点は、きのう咬まれたばかりの痕跡をとどめている。

母さんの身代わりに吸われるほど、けなげな子じゃない。
母さんも、娘に自分の身代わりをさせるほど、冷酷じゃない。
けれどもどうして、母さんの血を吸わないでって願うのだろう?
憎ったらしいあの小父さんが、良い思いをするのを、すこしでも邪魔したいだけなのだろうか?
それが嫉妬だということを、幼かったあたしは、だいぶあとになって知る―――


あとがき
少女になり切って、描いちゃいました。 ^^;
長い割に、内容がなかった・・・でしょうか・・・?
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6時。
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帰宅。

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