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妖艶なる吸血

淫らな吸血鬼と倒錯した男女の織りなす、妖しいお伽噺・・・

約束どおり。 ~婚礼の帰り道~

2015年02月16日(Mon) 07:50:34

かっ、・・・勘弁してくださいっ!
壁ぎわに追い詰められたその若い女は、うろたえながらも慈悲を乞う。

これから友達の結婚式なんです。
ストッキング破かれたら、すごく恥ずかしいです。
お願い、恥ずかしい思いをさせないで!

どうやらこの娘は、ルールをわきまえているらしかった。
うろたえかたからすると、実際に襲われるのは初めてのようだったが。

首すじを咬まれて生き血を吸われ、貧血でふらっ・・・と姿勢を崩すともうそれまで。
穿いているストッキングに舌を這わされ、ブチブチと咬み剥がれてしまう。
そんな不埒なルールを、この街の住民の多くが聞き知っている。

すでに咬まれてしまった首すじを、抑えながら。
早くも舌を這わされ始めた足許から、息遣い荒く迫ってくる男の劣情を、必死になって遮ろうとしている。
思うさま舌で舐めくりまわして、よだれをたっぷりとなすりつけてしまってから。
男は残り惜しげに、女を放した。
女のしんけんさに、毒気にあてられたかのように。

いいだろう。じゃあ約束だ。
帰り道にはかならず、この道を通ってくれ。
夕方の6時なら、ゆっくり間に合うだろう?

女はしんけんな顔をして、こくりと頷いた。
ありがとう。必ず寄るから。約束守りますから。
悲壮な顔をしてそういうと。
よだれのしみ込んだストッキングの足取りを、駅に向かって急がせていた。


ばっかじゃないのお・・・
着飾った女友達らは、宴席のテーブルに自堕落にひじを突きながら梨恵の話を聞くと、
こぞって梨恵を嘲笑った。
それであんた、約束守って咬まれにいくの?
じゅーぶん貧血になったじゃない。約束破ったって、それでもうおあいこだよ。
さ、二次会行こ。男あさり男あさり・・・
披露宴が終わるのもそこそこに、女どもはばたばたと騒々しく席を起つ。
梨恵はそんな友人たちを見あげながら、控えめな声でいった。
やっぱりあたし、約束守る。


ばーかだよねえ。あの子。ほんとうに帰ったんだ。
一見目を惹くその横顔は、けばけばしい厚化粧をいつも以上に塗りたくられている。
彼女の相方も行儀悪く脚を組み、男が席に寄りつかないのを察してバッグから煙草を取り出しながら応じていく。
ほんとだよねー、なに考えてんだろ。
でもさー、正解かもしれない。梨恵。
どーして?
女はひじを突いた格好のまま額に手を当てて、呟いた。
あたしも約束破ったことがあるんだけど・・・あとで見つかって、半死半生の目に遭わされた・・・
そお。
相方はさして同情するふうもなく、タバコに火を点けた。


6時を10分まわっていた。
息せき切ってやってきた梨恵は、そこにあの時と同じ黒い影を見出すと、
来ました、あたし。
やっとの思いで、そういった。
遅れてごめんなさい。
ばか律儀に、頭までさげて。

ほんとうに来たのだな。
男は感心したように、女をみた。

こんなことだから、いっつも損ばっかりするんですよね。ばか正直だから・・・

女はべそを掻いているらしい。
それでも男を受け入れる用意があるのか、真新しい黒のストッキングの脚を、スッと差し伸べてゆく。
済まないね・・・
婚礼のテーブルの下、自分のよだれがしみ込んだストッキングを、この女はまといつづけていた。
不埒な想像が淫らな劣情を伴って、男の舌先を滾らせた。
男は女のひざ小僧を押し戴くようにして抱きすくめると。

にゅるっ。

見せつけるような露骨さで、舌を這わせた。

・・・?

男はちょっと首を傾げ、女を見あげる。

わざわざ家に戻ったのか?

わかるの・・・?

女は薄ぼんやりとした目で、男を見おろす。
舌先をよぎった薄手のナイロンには、昼間に出会ったときとおなじくらい、よごれもひきつれも認められなかった。

くたびれたものを穿いていたら、悪いと思って・・・

そういってうつむく女の肩を、そのすぐ傍らに起ちあがった男は抱き留めている。

もうすこしだけ、すまんね。

首すじに吸いつけられた唇のすき間から、尖った牙がにじみ出てくる。
すこし吸われると、楽になるぜ。
男の言い草を、ずるい、と感じながら。

ちゅーっ。

自分の血を吸い取られてゆく音に、うっとりと聞き惚れていた。

いいわよ、もう。

宴席のお酒が、いまごろまわってきたのか・・・
ほんのりと頬を染めながら、這い寄ってくる男のまえ、
真新しいストッキングのつま先を、含み笑いしながらすべらせてゆく。

あー、ひどいわ。ひどいわ・・・

女はわけもなく口走りながら。
くまなく唾液をしみ込まされた薄衣が、見るかげもなく咬み剥がれてゆくのを見守って。

無作法だわ。礼儀知らずだわ・・・
口だけは相手を非難しながら、男が自分の脚を吸いやすいように、角度を変えてやっている。

すまないね。すまないね・・・
男はしきりとわびながら。
それでも女の脚に魅せられたように、舌を慕い添わせ続けていった。


あとがき
吸血鬼との約束を、ばか律儀に守るぶきっちょな女。
そんな女に甘えてゆく男。
甘々な話も、好きなのです。^^
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吸われる彼女。
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6時。

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