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妖艶なる吸血

淫らな吸血鬼と倒錯した男女の織りなす、妖しいお伽噺・・・

大雪で半休

2015年03月07日(Sat) 10:14:56

1.

事務所の外は、真っ白だった。
大粒のボタ雪が、ガラスにまだらになって貼りついている。
季節外れの大雪に、そのガラス窓の向こうに切れ切れに覗く街なみも、雪に埋もれたかのようだった。

これでは、仕事にならんな。
窓の向こうをいっしんに見つめていた営業所長が、分厚い眼鏡の奥から目を光らせた。
はい、一同集合。
軽くあげた両手に動きを合わせるようにして。
わたしたちは全員、所長のまえで起立した。

きょうは大雪で、仕事になりません。帰り道も危ないので、所長の判断により半日休業とします。
なるべく早く帰宅して、家の雪おろしなどに精出すように。

営業所長は簡潔にそういうと、自分も帰り支度を始めていた。
そのまえに、電話を一本、かけていたっけ。
相手はどうやら、この街の顔役の一人のところのようだった。

あ~、もしもし、〇〇物産ですが。ええ、はい。はい。きょうはこの大雪でしょう・・・それで、半日休業させてもらいますので。

どこの会社でもありがちな、ごあいさつ。
しかしそのあとのひと言だけは、よその会社とは決定的に違っていた。

はい、はい・・・人の生き血をご希望のかたは、社員の自宅にご照会ください。個別に対応いたしますので・・・


2.

人はいろいろな理由で、それまで自分が日常を過ごしてきた世界から、逃れざるを得ない立場に追い込まれる。
そうした人たちが口コミを頼りに、集まる会社。
そうはいっても、「社長がひと目で見抜く」という奇妙な適性検査の合格者でなければ、入社することはできなかった。
たしかに、適性のあるなしは、うちで勤めるにはかなり重要な要素のはずだ。
業務らしい業務は、なにひとつない。おまけに高給。
ただし、ここは吸血鬼と共存する街。
訪ねてきた吸血鬼に求められたら、血液を提供しなければならない。それも妻子もろともに――
この地に赴任してくるものはだれもが、50前後までの夫人か30前の娘か息子の嫁を、帯同してきていた。


3.

会社が半休になるという現象は、どうしてこうも勤め人という人種をウキウキとさせてしまうのだろう?
わたしはそそくさと会社を出ると、雪だまりを避けながら、足早に家路をたどる。
あたりはいちめんの、白、白、白。
路上も、屋根の上も、電信柱の半分も。
なにもかもが、白にうずもれている。
寒さに身を縮こまらせながらたどり着いた我が家の玄関先は、すでに雪かきが行き届いていた。


4.

ただいまあ。
ドアを開けると、むっとするほどの暖気にくるまれた。
寒い外から帰宅して、暖気に迎えられるというほど、安堵を誘うものはない。
はぁい・・・
妻の友里恵の声が、遠くからした。
わたしはコートを脱ぎ捨て、マフラーを取り去ると、まっすぐ茶の間に向かう。
こたつには、もうすっかりなじみになってしまった初老のごま塩頭。
よお、お帰りんさい。
顔をもたげてこちらを振り向いたのは。
農作業で夏場にたっぷりと陽灼けした赤ら顔――
わたしも妻も、彼のことを名前では呼ばず、「おっさん」とか「おじ様」とか呼んでいた。

ちょうどお茶が入ったとこだよ。
どてらを羽織ったおっさんは準備が良くて、
急須を取り上げると、わたしの分まで用意していた湯呑みになみなみとお茶をそそいだ。
ほれ、干し柿喰うかい?わしんとこで取れたやつ。
ぽんとほうられた干し柿を片手で受け取ると、もう片方の手にとっていた湯呑みに口をつけ、
それから干し柿をひと口かじる。
素朴な濃い味が、口のなかに広がった。

おっさんは飾り気なしに、思い切りストレートに本題に入った。
喉渇いたで、あんたらの血を飲ませてくれんかの?


5.

えっ?わたしの血もですか?
戸惑うわたしににじり寄って、おっさんは首すじに生臭い吐息を吹きかけてくる。
あ~、わりいの。
今朝はの、朝っぱらから魔羅が勃ってしょうがないで、友里恵さんさ抱きに来たで。
んだがおなごの身体さ愉しむ前にゃ、精をつけねばの、そんで、あんたの帰りさ待ち焦がれとったで・・・
化け猫みたいな息吹きはわたしの理性を痺れさせて。
わたしはいつもの癖で、つい小首を傾げてしまっている。彼が咬みやすいようにと。


6.

ちゅー。こっくん、こっくん・・・
男同士で抱き合って、なにしてんのよ。
友里恵は苦笑いしながらも、洗濯物を畳む手を休めようとしない。
痺れた首のつけ根から、生温かい血をぞんぶんに引き抜かれるのをありありと感じながら、
わたしはどうすることもできなくなって、おっさんに身体を預け切ってしまっていた。

ふー。

お互い同時にひと息ついて。
ぷははははっ。
おっさんはあっけらかんと、笑っていた。
眩暈が、ひどい。
事務所にやって来る吸血鬼のうち、もっとも多くの量を吸われるのがわたしだと、職場ではもっぱら評判になっていた。
さして若いわけでもないというのに、時には翌日休まなければならないほどに、わたしは多くの量を吸われていた。

風見さんの血は、きっと美味いんですよ。
後輩の重瀬が、もの分かりよさそうにそういった。
まんざらでもなかったのは・・・いったいどういう心理なのだろう?

わたしがこたつに脚を突っ込んだままぶっ倒れたのと。
友里恵が洗濯物をたたみ終わったのと。
ほぼ同時だった。

風見さん、悪りぃね。奥さんいただくよ。
あんたもう、わしの相手はようし切らんじゃろ?
おっさんは行儀悪くズボンの股ぐらを抑えながら、友里恵のほうへと迫っていった。

逞しいむき出しの腕を背中に廻されながら、友里恵がいった。
あっちでしてくるからね。
両手を合わせてごめんなさいポーズを取りながら、苦笑いをしていた。
気になったら、覗いてもいいからね。
羽交い絞めされて隣の寝室に引きずり込まれながら。
友里恵はこちらを振り向き、イタズラっぽく片目をつぶってみせていた。

ああッ・・・ずたん。ばたん・・・っ。

始まった。ああ、始まった。
妻がヒロイン演じる、真っ昼間のポルノビデオが。
そう、人妻の生き血を愉しむときは、性欲処理もしてしまうのが、彼らの礼儀とされていた。
あ~、たまらんな・・・
わたしも股間の疼きをこらえきれなくなって。
さっきまで貧血を起こしていたくせに、頭にムラムラと血をのぼせてしまって。
こたつから起ちあがり、夫婦の寝室を――四つん這いになって、覗き込んでいる。
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汚されて、染められる。

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