淫らな吸血鬼と倒錯した男女の織りなす、妖しいお伽噺・・・
あいつったら、美味しいともなんとも言わないんだよ・・・
2015年03月13日(Fri) 07:18:04
学級委員の由紀子さんは、先生のお覚えめでたい優等生。
いつもブレザータイプの洋服をきちんと着こなして、周りの女の子よりグッと大人びた雰囲気を持っている。
あの大きな瞳でじっと見つめられると、ドキッと胸を高鳴らせるのは、きっとボクだけではないだろう。
薄茶のプリーツスカートの下、ひざ小僧のすぐ下までたっぷりと履いた白のハイソックス。
本人は「脚太っ。視ないで!」とか仲間うちで言ってるけれど・・・あのふくらはぎのラインは、顔と同じくらいにグッとくる。
「視ないでっ!」って仲間うちではしゃいでいるときの、あの輝く笑顔と同じくらい。
その仲間うちのなかに入り込める異性は、さすがの由紀子さんにもまだ、いないみたいだった。
ある朝、担任の大原先生が、沈痛な面持ちで教室に入ってきた。
由紀子さんが学校を休んで、三日目のことだった。
「加瀬(由紀子さんのこと)が、火曜の学校帰りに吸血鬼に襲われた」
えっ・・・?と、教室じゅうに、動揺が走る。
血液を全量喪失・・・って。
いったい先生、なに言ってるの・・・?
由紀子さんは、生きてはいるらしかったけれど。
見かけても、近寄らないように。
見かけたら、学校に連絡するように。
昨日までの学園の太陽が、まるで要注意人物扱いだった。
それっきりしばらくのあいだ、由紀子さんが姿をみせることはなかった。
「友原が血を吸われたらしい」
「ユリもこのごろ、見ないよね・・・」
吸血鬼の犠牲になったらしい。
そんなトーンで語られるのは、由紀子さんと仲の良かった少女たちの名前。
仲良し三人組だった友原智恵子と水崎ユリが、相次いで教室から姿を消した。
それからも。
鈴原芳香と田上良一が、教室からいなくなった。
つぎは、誰・・・・?
だれもが疑心暗鬼になって、自分の教室を見まわしていた。
田上良一は、加瀬由紀子と並んで学級委員をやっていた。
由紀子さんに襲われたのだろうか・・・?
ほかの子の多くが恐怖で語る吸血行為。
けれども僕は、田上が羨ましくもあり、内心嫉妬していた。
冬場の夕暮れは、早い。
もう当時を過ぎてだいぶ経つのに、ちょっと学校でもたもたしていると、早くも夕闇が迫っている。
こういうことが続出している折りだったから、先生たちも早く下校するようにと厳しく言っていたけれど・・・
なぜかその日に限って、部活の後の打ち合わせが長引いたり、そのあとの片付けに手間取ったり、
ついでに言えば教室に忘れ物を取りに戻ったり・・・そんなこんなで、時刻は七時に迫っていた。
さいごに由紀子さんを見かけたのが、学校から塾への道すがら、ちょうどいま時分だったはず。
「鳥居くん・・・?」
聞きなれた声に、思わずボクはふり返る。
視線の先にいたのは、いつもの紺のブレザーに薄茶のプリーツスカートを穿いた由紀子さんだった。
きちんと整えられたふさふさとした黒髪は肩先でふんわりとウェーブしていたし、
白い歯をみせた表情も、以前のままだった。
けれど・・・
白のブラウスの襟首には、赤黒いシミが点々と散っていて。
胸もとを引き締めているふんわりとした紺の水玉もようのリボンにも、それは撥ねかっていて。
ひざ小僧ぎりぎりまでぴっちり引き伸ばされた真っ白なハイソックスにも、
同じ赤黒のまだら模様が、べったりと痕を残していた。
豊かな頬は蒼白く輝き、イタズラっぽく笑う口許からは――尖った犬歯が覗いている・・・
びっくりしたんだよ。
いきなり前に、立ちふさがってさ。
あいさつも説明もなんにもなく、首を咬まれたの。
気がついたときには、そこに尻もちを突いていて・・・
でも一滴あまさず飲んでしまうまで、放してもらえなかった。
欲しがるままに、あげちゃったけど。
美味しいでもなく、嬉しいでもなく、ずうっと顔つきも変えないで、
あの人ったら、あたしの血を吸い尽していったの。
悪いけど。ゴメンね。
チエちゃんやユリのこと、知ってるでしょ?
あの子たちも今ごろ、お友だちと逢っている頃よ。
え?田上くん?そうだったんだ。それ、きっとユリだよ。片思いだったもん。
なにほっとしたような顔してるのよ。
あなたこれから、あたしに血を吸い尽されちゃうんだよ。
怖くないの・・・?
ああ、これ?あいつったらね、ハイソックスを履いた脚を咬むのが好きだったらしくって。
しつこく咬まれちゃった。なんか、やらしい感じがしたよ。
鳥居くんも、部活帰りなんだね。
男子がハイソックス履くのって、こういうときくらいだもんね。
あたしのときみたいに、咬んじゃってもいい・・・?
えっ、あたしの脚を咬んだやつが羨ましい?
ヘンな羨ましがりかたするんだね・・・
由紀子さんは、ボクの首すじを咬み、脚を咬み、わき腹や二の腕からも血を吸い取ってゆく。
頭が、ぼうっとなってきた。ボクは家に帰れるんだろうか?
あたしのときはね・・・
あたしのときはね・・・
あいつったら、美味しいともなんとも言わないのよ・・・
ほんとうに怖かったんだろう。
震えるような声で、恨み言を連ねながら。
けれども由紀子さん自身も、ボクの血をひと言も、美味しいとは言ってくれないのだった。
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