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妖艶なる吸血

淫らな吸血鬼と倒錯した男女の織りなす、妖しいお伽噺・・・

火事場から救い出す

2015年03月20日(Fri) 08:10:30

1.
うそ。死んじゃうかも・・・
気がついたときには、あたりには煙が充満していた。
昏倒していたのは、ほんのわずかな時間だったはず。
見回しても、出口は一か所。そして煙はその方角から、流れ込んでくる。
涼子は首すじにつけられた傷に、触れてみた。
ヒリヒリする。ジンジンする。
咬まれて血を吸われた・・・?
微かに残る、異様な感覚。
そのあと気を失って倒れて・・・いま気がついたけれど、着衣が乱れていた。
股間にはありありと、恥ずかしい衝撃の余韻すら残っていた。
そのまま置き捨てられて・・・置き捨てられた場所が、火事場になっていた。
もう、このまま死んじゃおうか?
そんな想いもチラリとよぎったけれど。
夫の顔が思い浮かんだとき、そんな衝動は意識的に掻き消していた。

どうやら起ちあがることはできた。
眩暈がするのは、煙のせい?それとも、失血のせい?
たとえ逃げ道があったとしても、満足に逃げられるような状態ではない。
もう選択の余地はないのか?
意識が死ぬ方へと転化しかかったそのとき――
「こっちだ!」
叫ぶ声がして、声の方角から伸びてきた力強い腕が、涼子を強引に引っ張っていた。

「ありがとうございます。おかげで家内が助かりました」
現場まで駈けつけてくれていた夫は、服を焦がした涼子を両腕で抱き留めながら、涼子を救った男にお礼を叫んでいた。
「いやいや、なによりでしたね」
男はおだやかにそう言い残して、「お名前を・・・」といいかけた夫を振り切って、人ごみのなかに身を隠していった。
夫の腕に抱かれながら涼子は、自分の生命の恩人はつい今しがた、彼女の血を吸って犯した男と同一人物だということを、はっきりと感じていた。


2.
吸血鬼がこの街に入り込んでいます。
知っているだけでも数人、犠牲者が出ています。
犠牲者が既婚の婦人の場合には、必ずと言っていいほど性的暴行まで受けています。
幸い死亡者はまだ確認されておりませんが、街としてはゆゆしい事態です。
当局への相談も含めて、早期に対処するべきです。

夫は町内会長に、性急な声色でまくしたて、決断を迫った。
そうですねえ・・・たしかに深刻な問題ではありますねえ・・・早急に、対応しましょう。
さいしょはなぜかひとごとのような態度だった年配の町内会長は、いい加減な態度では相手が立ち去らないであろう様子を感じ取ると、締めくくりの言葉だけを確約にすり替えていた。
しっかり頼みますね、と、夫は念を押すように言い、涼子を促して公民館の打ち合わせテーブルの席から起ちあがった。
夫の同僚二人が、吸血鬼に襲われたのだという。
そんな夫も――妻の首すじに着けられた咬み痕には、まだ気がついていないらしい。
涼子は咬まれた痕を、髪の毛の下に入念に隠していた。

じゃああたし、ちょっと用事あるから・・・
あ、そう。帰りは何時ころ?
そうね、夕方までには。晩ご飯作る時間までには、戻ってくるね。
小手をかざしてバイバイをして、
夫がなんの疑いも示さずにきびすを返すのを確かめると。
涼子は安堵に肩を落とした。
膚の奥深く、血管のなかから声がする・・・そんな気がしていた。
声は涼子に命じていた。午後に時間を空けて、公民館に戻るように――と。


3.
さいしょの一回は強いられたものだったけれど。
二度目の逢う瀬は、自分から応じたものだった。
男は息荒く涼子に迫り、着衣のまま求めてきた。
性急な欲求のせいばかりではない。
服を着た女性を襲うのが好みなのだ。
ブラウスの襟首を汚さないよう、用心深く咬み入れられてくる牙に、涼子は首すじを伸べて応じていった。
血を吸った相手の女性を気遣って、わざわざ現場に舞い戻り、火事から救ってくれた男。
そのお礼を、したかっただけ――
お礼をしたい気持ちだけは、夫も同じなはず――
でもまさか、こんな形での恩恵を妻が相手に施しているとは、夫はまだ夢にも知らない。

男は、脚にも咬みついてきた。
派手に破けた肌色のストッキングの裂け目がじりじりと拡がってゆくのを、
老け顔の目じりをしわくちゃに歪ませて、目を細めて愉しんでいる。
ほんとうは、服を破いたり汚したりするのも、好きなのだろう。
変態――毒づこうとしながらも涼子は、相手の言いなりになっていく自分を、どうすることもできずにいた。
ストッキング越しに圧しつけられた唇が、ぬるぬるとうねり、薄いナイロン生地に唾液をたっぷりとしみ込ませてきたときに。
男が自分の脛を吸いやすいようにと、脚をくねらせて応えてしまっていた。
ストッキングの脚をくまなく愉しんだすえ、男は牙を突き立てて、薄手のナイロン生地をぱちぱちと音を立てて咬み破っていった。


4.
家に戻ったのは、昏くなってからだった。
無言で唇を引き結んだ涼子の後ろには、涼子が自分で選んだ浮気相手が、ひっそりと佇んでいた。
驚く夫が犠牲者の仲間に加わるのに、ものの数分と要しなかった。
涼子の血で力を得た吸血鬼は、自分より20歳は若い夫をやすやすと組み伏せると、
涼子のときと同じ経緯で、夫の首すじを咬んでいた。

いったいこんなことを、予想することができただろうか?
夫の前で、ほかの男に犯されるなんて――
けれどもそれは、現実のものになっていた。
夫はぐるぐる巻きに縛られて、猿ぐつわまでされている。
そのまえで、わざわざ見せつけるように――男は涼子のブラウスを剥ぎ取っていった。

ほんとうは、あの場でこんなふうにしたかったんだ。
襟首汚しちまったし、クリーニングにも出せないだろう?
男はそう言いながら、にまにまとした笑みを泛べて、涼子のブラウスを引き裂いてゆく。
むしり取られたブラジャーの吊り紐がはじけて、あらわな肩先を鞭のように打った。
へへへ・・・だんなさん、悪いね。ちぃとばかし、愉しませていただくでの。
男は舌なめずりをしながら涼子に迫って、乳首を含んでゆく。
「あぁあ・・・っ」
静止を求める夫の叫び声は、猿ぐつわに阻まれて、くぐもった呻きにしかならなかった。

ノーストッキングに引き剥かれた脚を大の字にしたまま、
のしかかってくる男を相手に、涼子は夫婦でしかしたことのない行為に、耽っていった――


5.
いけない・・・いけない・・・
でもあたし、愉しんじゃってる。

髪をユサユサと、揺らしながら。
客をとる娼婦のように、腰を振りながら。
喘ぎ声をあらわに、洩らしながら。

あたしは主人の前での行為に、いつしか熱中してしまっている。
かまわないでしょう?
男同士がキスを交わし、肌を合わせ、股間まで交わらせていくのを。
完全に相手のペースとはいえ、主人がそれを受け入れてしまったのを。
あたしはどちらに手を貸すでもなく、茫然と佇みながら、いちぶしじゅうを見守っていた。
主人は唯々諾々と男に縛られていって、
「奥さん借りるね。すまないね。でもよかったら、だんなさんも愉しんでね」
そんな相手の囁きに、どんよりとだが頷き返してしまっていた。


涼子をあんたから奪うつもりはない。
だから時々、逢いに来るのを許してほしい。
見て見ぬふりをするのでも、かまわないから。

まじめな交際を希望してます。
奥さんくらいの年代の女が、好みなんです。
身体つきもいいし、血も美味い。わしにとっては、好い女です。
なに、ご夫婦でいままでどおり、ふつうに暮らしておればエエんです。

たまにわしが、忍んでいったら。
だんなさんはそんなとき、さりげなく座を外してもらってもいいし、
きょうみたいな感じでも愉しめるというなら、荒縄持参でうかがいますよ。
わしと仲良くしたいというなら、奥さん抜きで逢ってもいいです。
奥さんも、だんな抜きで逢いたくなったら、連絡待ってます。
秘密は厳守する・・・っていいたいのですが。この街では無理だな。
あんたが町内会長に言ってたみたいに、犠牲者のことってどういうわけか、すぐ広まっちゃうんだよね。
町内会長が奥さんと娘を、わしらの仲間に喰われちゃってるの、まだあんたは知らなかったかね。
まあこんなふうに、犠牲者同士は分かり合っちゃうことになるのでね・・・
その内輪のなかでの、秘密厳守ということで。

男がいいように申し渡しをしていると。
猿ぐつわを外された主人が、おずおずと口を開いた。
「涼子は、どうなんだ・・・?」
あたし?あたしはもちろん、このひとにぞっこんよ。
だって、上手なんだもの。あなたとは最近、なんにもないし。
だから首すじの傷のことも、気がつかなかったんでしょう?
そんな想いを凝縮させて、あたしはたったひと言、応えていた。
「あたし、このひととおつきあいします。よろこんで・・・」
そうか、と夫は、一瞬寂しそうに目を伏せる。
ちょっとかわいそうだったかな・・・さすがにあたしはそう思ったけど。
つぎの夫のひと言が、あたしを安堵させ、そして満足させた――
「せめて、俺から交際をお願いしたってことに、してもらえないかな」
嬉しいねえ・・・あたしの思惑など眼中にないその男は、夫の提案を即座に受け入れていた。


6.
血を吸った相手の女性が火事に巻き込まれたとみてとって、躊躇なく引き返して火の中から相手を救い出す。
そこまでやる吸血鬼など、きいたこともなかった。
けれどもあのひとは、そこまでのことをしてくれた。
涼子に対する愛情を、夫であるわたしですら、感じざるを得なかった。
「涼子への愛情と、あんたへの誠意を示したかっただけ」
そんなあのひとの言葉も、嬉しく響いた。
わたしが火事場に飛んでいったのも、ぐうぜんではない。
そこで涼子が襲われるであろうことを、まえもって告げられていたから。
けれども火事までは、予想外だった。
ばちが当たったんだ、と思った。とっさに火の中に駈けこもうと思った。けれども不覚にも、躊躇してしまった。
いつの間にかわたしの傍らに立ったあのひとは、わたしを制すると、自分から日の中に駈けこんでいった。

恥ずべきなのは、日常的に浮気に耽るようになった妻ではない。
妻をすすんで吸血鬼に引き合わせた、わたしのほうだった。
勤務中に血を吸われたわたしは、男同士の関係を迫られて――不覚にも受け入れて、目覚めさせられていた。
たいがいのことは、目ざめさせちまうことができるんだ。わし。
そういいながらキスをねだるあのひとに、わたしは自然な態度で、応じてしまっていた。
三十代の人妻の生き血をご馳走したい。貞操をプレゼントしたい。
そんなわたしの申し出を、あのひとはくすぐったそうに受け止めてくれて。
雑居ビルの一隅にわたしが呼び出した涼子を、気に入りのワンピースもろとも汚していった。
手慣れたようすで、むぞうさに――
涼子を征服した男は、余勢をおさめるためにわたしとの関係を望んで、向かいにあるラブホテルで刻を過ごした。
涼子のいたビルの火災を知ったのは、そのときのことだった。

きょうも涼子は、休みの日のわたしを置いて、あのひとに逢いに出かけて――
ホテルから戻ってくるのに、三時間は経っていた。
羞ずかしそうに、誇らしそうに。
ドアをひっそりとあけて、舞い戻ってくる。
はずれかかったブラジャーがはみ出たえり首には、血のりが沁みて。
きちんとセットしていた栗色の髪はぼさぼさに乱れて。
脚に通していった真新しいストッキングは、見るかげもなく咬み剥がれて。
わたしは自分の妻を迎え入れると、キスをしてやる。妻もわたしに、応じ返してくる。
途絶えていた夫婦関係は、みごとに復活していた。


涼子をあんたから、奪うつもりはない。
けれども奥さんは、わしの気に入りの女の一人に加えさせていただく。
あんたはいままでどおり、ご夫婦仲良く暮らせばいい。
涼子の服代を稼ぐために、あんたは働く。
女房が浮気で使うホテル代を稼ぐために、あんたは働く。
お仕事もそのほうが、張り合いが持てるだろう?

見て見ぬふりをするのなら、ご好意に甘えよう。
覗いて愉しめるなら、見せつけてあげよう。
たまにはあんたのことも、ホテルに誘ってやるよ・・・

あのひとの囁きは甘い毒を含んでいる。
囁かれるままに頷いてしまったわたしに
フフフ・・・と笑う妻。
そんなときの妻のほほ笑みにも、甘い毒が含まれている。
塗り替えられた日常――
わたしはひどく、満足をしている。
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