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妖艶なる吸血

淫らな吸血鬼と倒錯した男女の織りなす、妖しいお伽噺・・・

彼女ができたら、わしに咬ませろ。 3  -遭遇ー

2015年05月19日(Tue) 08:01:10

道の向こうから歩みを進めてきたその少女は、ボクのことなどまるきり無視して、そのまま通り過ぎていった。
長い黒髪をツヤツヤとさせて。
広いおでこが透きとおるように白くって。
ツンと取り澄ました可愛い鼻のすぐ下に、お行儀よくおさまっている小ぶりな唇が、ひどく赤くって。
そんな可愛らしい容姿の持ち主はでも、そっけなさ過ぎるくらいに透明な無表情のまま、ボクのことを完全に無視していた。
お見合い写真で、顔を識っているはずなのに。

あの子なの・・・?
おずおずとそう訊くボクに、
あの子だ。
小父さんは低い声で、返してきた。
すれ違った少女との間合いが十分取れたのを背中で確かめてからの応えだった。

ずいぶん冷たい感じのする子だね。
ボクの声は心なしか、上ずっている。
あの子のママも、わしは喰いものにしているからな。
小父さんはぬけぬけと、そんなことまで口にした。
そのひとに感謝するんだぞ。お父上を説き伏せて、お前との見合いを承知させたんだからな。
わかった。
ボクはみじかく、応えていた。

もうひとつ、どうしても訊きたいことがあった。
けれども言い出せなくって、ただもじもじとするばかりだった。
訊くには、勇気の要ることだったから。
小父さんはボクの気分を見透かすように、耳たぶに唇を近づけた。
また吸われるのか?と思ったくらいの距離感だった。
本能的にのぼせ上ったボクに、小父さんはいった。
なにか訊きたいことを隠しているだろ?
図星を刺されて、声色もろとも棒立ちになっていた。

あの子のことも、咬んだの・・・?
小父さんの応えは、意外にも否だった。
愉しみに取ってあるんだ。
どうして?
きみが自分の許嫁として、わしに紹介するからな。
え?ぼくが・・・?というのは、このさい愚問なのだろう。子供のボクにさえ、それはわかった。

きみの婚約者を汚したい。
ただの美少女を汚すよりも、きみの彼女として汚すほうが、面白そうだから。

ずいぶん意地悪なんだね。
ボクはそう言いかけて、すぐに言葉を飲み込んだ。
それくらい――ボクのことが好きだってこと・・・?

わかっていうじゃないか・・・
小父さんは小声でそういうと、ボクの肩をちょっとだけ抱き寄せて、それから掻き消えるようにしていなくなった。
気がつくともう、夕闇が迫っていた――


すれ違った少年のことを、少女は冷たく意識の外に追い出そうとしたけれど――すぐにその努力を放棄した。
隣にいた老紳士がママの愛人であることも、よくわかっていた。
だって、ママは悪びれもせずあのひとのことをあたしに紹介したし、
いまでは日常的に挨拶をしたり言葉を交わしたりしていたから。
すれ違いざまチラと振り向くと、半ズボン姿の少年のハイソックスがすこしずり落ちているのが目に入った。
なんとだらしのない。
一瞬そんなふうに思ったけれど。
見落としそうなくらいに微細な異状を見届けていたのは、日常が教えてくれた情景だからだろう。
ふくらはぎの肉づきのあるあたりに赤黒く塗れた痕に、気がつかないわけにはいかなかった。

少女は自分の足許を見おろした。
薄いピンクのコーデュロイのタイトスカートの下は、
ひざ下までぴっちりと引き伸ばした、白のハイソックス。
ちょっとおしゃれをしたい気分のときによく履いている、ストッキング地のやつだった。
あいつに迫られて咬み剥がれたら、きっとひとたまりもないだろう。
そんなまがまがしい想像に自分を重ね合わせてしまいつつある今が、ひどく厭わしい――

取り澄ました白皙がかすかに赤らんで、
強情に引き結んだ朱の口許に力がこもり、
かすかな歯ぎしりを、カリリと響かせた。
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