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妖艶なる吸血

淫らな吸血鬼と倒錯した男女の織りなす、妖しいお伽噺・・・

彼女ができたら、わしに咬ませろ。 5  ―― 帰るわ。 ――

2015年05月21日(Thu) 07:35:39

空き教室のなかは照明もなくて薄暗く、空気は冷え冷えとしていた。
ふつうの経室とは違って、たたみが敷き詰められていて。
長いこと使った感じのしない教卓や生徒用の机といすとが2、3組、教室の隅にひとまとめにされているのが、ひどく殺風景にみえた。
そのたたみの上で。
ボクと半井とは、うつ伏せの姿勢で身体を並べて、視線を交わし合っている。
濃紺のハイソックスを履いたふたりの足許には、それぞれひとりずつ。
自分の親たちよりも年配の男の吸血鬼がうずくまって、唇でボクたちのふくらはぎをさっきからしつように、吸いつづけていた。
チュウチュウ・・・キュウキュウ・・・
あからさまな音をたてて血を吸い上げられるたび、ボクたちは顔をしかめて、むず痒い痛みをくすぐったそうに耐えていた。

2人組の吸血鬼は、親密な間柄らしい、時おり獲物を取り替えあって、
相方が贔屓にしている男の子の血を偸(ぬす)み取ってゆく。
ボクの相手は、ボクの両親の血を吸っているあの小父さん。
半井の相手はたぶん、一夜にして家族全員の血を愉しんだという、噂の怪人に違いなかった。

うー、貧血だよ。そろそろ勘弁してよ。
さきに音をあげたのは、半井のほうだった。
オイオイ、コラエ性ガナインダナ。オ友ダチニ悪イジャナイカ。セッカクオ愉シミ中ナンダカラ。
たしなめたのは、半井の相手のほう。
オ愉シミ中・・・って、愉しんでいるのは一方的にそっちじゃないか・・・って、言いたかったけど。
言えないなにかを感じ始めている自分に、とっくに気づいてしまっている。

俺たちにかまわず、友達同士の会話ってやつでも仲良く楽しんだらどうなんだ?
ボクの小父さんも、いつものくぐもった声でそんなことをいう。
俺たちが聞いていようが聞いていまいが、そんなことどうだっていいはずじゃないか・・・
それはそうだよね。ボクたちのあいだに、秘密はないはず。
心の奥底の願望まで、吸い取られた血潮を通して、すべて読み取られてしまっている関係なんだから。

で・・・きみ何てこたえたの?その翠さんっていう子に・・・?
半井の問いに、ボクの意識はびっくりするくらいすぐに、先週の記憶の世界に舞い戻っていた。


家のしきたりだから、私のこと咬ませるの?
それとも、自分のお嫁さんが咬まれるのが嬉しくて、吸血鬼に貢献するの?

どっち・・・?

呟くような低い声は、隣室の親たちの耳にも届かなかったはず。
ボクも同じように、低い声色になっていた。
自分でも信じられないこたえが、するすると自分自身の口から洩れてきた。

お嫁さんって、だいじなひとだよね?
小父さんもボクにとっては大事な人で・・・その小父さんがボクのだいじなひとの血を気に入ってくれたら・・・って、想っちゃうわけ。
ヘンだよね?
嫌だったら・・・破談になっても・・・それはしょうがないから・・・

どんなに恥ずかしい欲求の告白であったとしても。
正直なことを口にするのって、どうしてこんなにも、気持ちがすっきりするものなのだろう?
相手の感情を計算に入れるだけのゆとりもないままに、ボクは自分の心の奥が透きとおってゆくのだけを感じていた。
たくまず洩らしてしまった自分の想いに陶然となったのは、ほんの半秒ほどだっただろうか。

帰るわ。

翠さんは、周囲に聞こえるようなはっきりとした声で、そういった。
隣室の親たちがビクッと、彼女の声に反応した。
ソファから立ち上がった彼女の脇に、翠さんのお母さんが気遣わしげに歩み寄る。
それに続いて翠さんのお父さん、ボクの両親が、応接間の入り口に立ち尽くして、いっしんに翠さんに視線を集めていた。

翠さんは、いままでとはがらりと違う人懐こい笑顔を作って――こんなにもかんたんに、このひとは笑顔を作れるのかって思うくらい――そのまなざしをボクに向けた。

週明けから、ヒロアキさんのいる学校に転校します。
こんど会うのは学校ですね。
クラスの子とも仲良くしなくちゃいけないから、しばらく落ち着かないけれど。
こんどお逢いできるのは、どこになるかな・・・

では・・・と、少女はきちんとお辞儀をして、さすがにきまり悪そうに、両親の先に立って部屋を出ていった。
潔い後ろ姿だった。
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