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妖艶なる吸血

淫らな吸血鬼と倒錯した男女の織りなす、妖しいお伽噺・・・

彼女ができたら、わしに咬ませろ。  6 ―午後の公園での、若いふたり―

2015年05月25日(Mon) 07:50:13

ひとに視られながら血を吸われるのって、羞ずかしい・・・
初めてそんなことを感じた。
まして視ているのは、三日前に婚約したばかりの翠(みどり)さんだったのだから、なおさらだ。
それでもボクは――
首すじにねっとりと這わされる小父さんの唇に、いつもみたいにドキドキしちゃって。
そんなようすを翠さんに気取られまいと、必死になってしかめ面をつくりつづけていた。

ああ・・・っ。
太くて尖った牙を首すじに埋め込まれたとき。
思わず口走ってしまったうめき声。
きっと、随喜の色がありありとにじみ出ていたんだと思う。
そのあといつもみたいに、小父さんは半ズボンを履いたボクの足許にかがみ込んで来て。
紺のハイソックスごしに、唇をヌメヌメ、舌をチロチロと這わせてきて。
厚手の生地にしわが寄るほどにつよく吸いつけられた唇に――
ボクはもういちど、アアーッ!って。うめき声をあげてしまっていた・・・

貧血を起こして尻もちをついて、その場にへたり込んだボクのまえ。
翠さんは、傍らの樹に背中をもたれかけながら、いつまでもじーっと見つめつづけていた。
理科実験の観察をするときみたいな、感情の読み取れない怜悧な瞳が。
却ってボクの罪悪感をつのらせ、羞恥心をあおっていた。

――翠さんに、仲良しの小父さん紹介するから。それから・・・小父さんへの応接のし方、お手本をお見せするから・・・
かすれた声色に無言でうなずいた翠さんを連れて、ふたりきりで訪れたいつもの公園。
陽射しはまだ明るかったのに、敷地のなかにボク達以外の人影はなかった。

ボクの身体から吸い取った血をしたたらせながら。
小父さんは得意満面、翠さんのほうへとゆっくりと迫ってゆく。
とっさに走らせた怯えの感情を、翠さんは気丈にも打ち消して、もとの無表情に戻ってゆく。
半歩だけ後ずさったすぐ後ろには、幹の太い老木が、退路を塞ぐように立ちはだかっていた。

ククク。わかるね?小父さんのしたがってることが・・・
剥きだされた牙にあやされたボク血が、チラチラと輝いているのがみえた。
翠さんはじいっと、ボクの血のついたその牙を、見つめている。
睨むような強い目線に、呪文のように不気味で凄みのある小父さんの誘い言葉が、ゆっくりと重なってゆく。
きみの若い血で、わしの渇きを満たしていただく。

お好きにどうぞ。

投げやりで吐き捨てるような声音に、嫌悪感がにじみ出た。
細くて白い首すじをピンとそそり立てると、
肩まで伸びた黒髪と、制服の襟首を引き締める純白のリボンとが、かすかな動きに合わせて揺れた。

小父さんは翠さんの後ろに回り込んで――
翠さんはボクと向かい合わせに立ちすくんでいて――
背後から忍び寄る牙が、髪の毛を掻きのけられた首すじに、チクッと突き立てられてゆく。
ぁ・・・。
かすかな声が、ちいさな唇から洩れた。
声を洩らしたのを不覚と感じたのか。
翠さんはそれきり、かたくなに唇を引き結んで、押し黙ってしまった。
小父さんは容赦なく、翠さんの肩先に牙を埋めた。

じゅっ!
うなじに圧しつけられた口許からこぼれたバラ色のしずくが、セーラー服の襟首を走る白のラインに散った。
両肩をしっかりと抱きすくめられて、身じろぎひとつできない。
そんな翠さんを手中にした小父さんは、いつもボクに向けてくるいやらしい欲情をまる見えにさせて、
ゴクゴクと喉を鳴らして、翠さんの生き血をむさぼりはじめた。

きゅうっ、きゅうっ、きゅうっ、きゅうっ・・・
押し殺すような吸血の音が。血を吸い取られてゆく翠さんのしかめ面が。
ボクを魅了して、昂ぶらせる――
ああ、翠さんの血って、やっぱり美味しいんだ。そんなに美味しいんだ・・・

意思を喪って姿勢を崩したセーラー服姿を抱き取って、傍らのベンチにうつ伏せに横たえると。
紺のハイソックスのふくらはぎのうえに、鋭利な牙が無慈悲な耀きをひらめかせた。
いかにも良家の子女風な、ひざ小僧のすぐ下までぴっちりと引き伸ばされた、真新しい濃紺のハイソックスが。
ボクのときと同じように、欲情もあらわに、情け容赦なく喰い剥かれてゆく――


未来の花婿になるはずのヒロアキくんが、吸血鬼に首すじを咬まれて、目のまえでへたり込んでしまったとき。
やっぱり。でも予想以上に、頼りない・・・
翠は怜悧に、そんな観察をした。
吸血鬼にひとが襲われるようすは、自分の両親のそれでなん度も目にしてきたとはいえ。
初めて吸血されるという予感が確信に変わりつつある状況のなかで、自分でもびっくりするほど冷静だった。
あんなに短時間で伸びてしまったら・・・あの男があたしの身体からむしり取る血の量は、決して少なくはないはず。
そんなことすら、とっさに計算してしまっていたのだから。

あなたが頼りないから、あなたのお嫁さん、血を吸われちゃうのよ。
あなたがすすんでこんな男に遭わせるから、あなたのお嫁さん、堕落しちゃうのよ。
どちらかというと潔癖症で、プライドの人一倍高かった自分。
それが、いまや恥知らずの吸血鬼をまえに、無防備な身をさらしている。
すぐに訪れるだろう屈辱の刻が、なぜかひどくいとおしく感じられるのは、なぜ――?
ひとは過度の屈辱に接すると、己の精神的均衡を保つため、それが却って快感のように思えるのだと。
目のまえでママを吸血されたり犯されちゃったりしているときのパパが、そのいい例だった。
そんな狂気の翳が、ついにあたしにも降りかかる・・・・・・

翠は目をあげて、もういちどヒロアキのほうを視た。
ヒロアキはほとんど、放心状態らしかった。
惚けたように半ば開いた唇のすき間から、歯並びのよい白い歯を覗かせている。
若くて健康な白い歯は、いま緑の肌に埋められようとしている犬歯の黄ばんだ不潔さとは対照的だった。
欲しがっている。あたしたちの清さと若さを・・・
そんな想いがひらめいた瞬間、肩先に異物が食い込んでくるのを感じた。

じゅっ。
重たい音をたてて撥ねた血がセーラー服の襟首を濡らすのを、翠は感じた。
制服を汚される。
それは、血を吸い取られるよりも屈辱的だったけれど。
むしろ緑は、歓びを覚えていた。
婚約者のまえで、処女の生き血をむしり取られる。
制服姿を辱められながら――

14歳のいままで気位高く生きてきた少女が、いま奴隷に堕ちようとしていた。

婚約者のまえで、こいつに辱められる。
けれどもあたしは、あたし自身が辱めを受けることで、目のまえのヒロアキさんを、辱めている・・・
倒錯した想いが、少女の脳裏にマゾヒズムと同量の加虐的な歓びを、植えつけていった。

意識がもうろうとなりながらも。
ベンチに横たえられるまでは、はっきりと記憶にある。
あいつに咬ませるために履いてきた、真新しい紺のハイソックス。
男は無作法にも、足許をキリリと引き締めるハイソックスに、よだれまみれの唇をなすりつけてきて。
しなやかなナイロン生地ごしに、牙を埋めてきた。
制服の一部であるハイソックスを、他愛なく咬み破かれてしまいながら。
さっき同じようにしておそろいのハイソックスを咬み破らせていったヒロアキのことが脳裏に浮かんだ。
あたしはいま、おなじ歓びを味わい始めている――
記憶が彼方に行ってしまう直前、そんな確信が、翠の胸を妖しく浸した。
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