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妖艶なる吸血

淫らな吸血鬼と倒錯した男女の織りなす、妖しいお伽噺・・・

スラックスの下に秘めた好意

2015年11月19日(Thu) 07:51:50

たくし上げたスラックスから覗いたむき出しの脛は、もともと淡かった体毛をそり落とされて、
薄暗がりの中、射し込むかすかな陽の光を照り返し、三日月のような輝きにつつまれている。
晴夫は封を切ったばかりのパッケージから靴下を取り出して、指先に長々とぶら下げた。
女物のストッキングのように薄い生地が、薄闇に映えて妖しく透ける。
器用にするするとつま先をたぐると、補強のあるつま先の縫い目を自分の足のつま先に合わせていって、
脛の上へと、すべらせてゆく。
じんわりと拡がる薄手のナイロンが、ごつごつとした筋肉に包まれたふくらはぎを、なめらかに染めた――

妻の光枝も、母の菊枝さえも、いまごろは村はずれの荒れ寺に、法事の手伝いと称して招び出されて、
いまでは歓びとなってしまっている凌辱の渦に巻き込まれているはずだった。
村の長老たちは半分以上が、吸血の習慣を持っている。
その彼らの渇きを満たすため、都会育ちの移住者たちは、女たちを提供する――そんな忌まわしい風習に、晴夫の家が家族もろとも巻き込まれていったのは、ごくしぜんな成り行きだった。
セックス経験のある婦人は、好むと好まざるとにかかわらず、生き血ばかりか操までもを、むしり取られていった・・・

出勤を送り出してくれる妻の光枝は、いつもスーツ姿で、夫の外出を見届けると、どこかへ出かけていくようだった。
いまは特定の相手さえいるらしく、それも頻繁に逢っているらしい。
そんな日常に染まりながら・・・いつかその日常の裏側に、えもいわれない歓びを覚えたとき。
晴夫は自らのマゾヒズムを自覚した。

その気になったらいつでも、逢いに来ればいい。
決して恥ずかしいことじゃない。
勤務中に事務所を訪れたその白髪の男は、自ら光枝の情夫だと名乗り出ると、
晴夫にそんな毒液のような囁きを、鼓膜の奥に流し込んでいった。
身体じゅうにまわった毒が、命じるままに。
晴夫は薄手のハイソックスを、身にまとってゆく。
男は、妻や母のふくらはぎを咬んで血を吸うのを好んでいた。
彼女たちが脚に通している黒のストッキングを、思うさま咬み剥ぎながら。

妻の情夫は晴夫を迎え入れると、感情の読めない穏やかな顔つきで、話しかけてきた。
薄い靴下がよく似合いますね。
冷やかしているようすは、みじんも感じられない。
露骨に這わされる足許への視線が、妙にくすぐったい。
ご覧になりたいですか?
晴夫の問いに男が頷くと、彼はちょっとだけ、スラックスをたくし上げて見せた。

「あなたは薄地の靴下をはいた脚を咬むのが、お好きなようですね」
わざとそっけなく口にしたはずの言葉は、語尾がかすかにふるえていた。
妻の生き血を日常的に吸っている吸血鬼と和解するために、彼好みの薄い靴下を履いていく――そんな行動の裏に秘められた屈辱さえもが、なぜかひどく小気味よかった。
「男物の靴下ですから、たいして愉しめはしないだろうけど」
そう呟きながらスラックスをたくし上げる手に、さりげなく力がこもる。
ほほう、これは美しい。
無理して好みに合わせてくれた夫の好意は、すぐに相手に伝わったらしい。
惹かれるように伸ばされた掌が、晴夫の脛をスッと撫でた。
ぞくり、とするような撫で方だった。
この愛撫に、妻は堕ちたのか。
なまなましく湧き上がる感情が、晴夫の自尊心を逆なでにする。
片意地を張るように持ち続けたかすかなプライドが、紅茶の中に放り込んだ角砂糖のように他愛なく崩壊してゆくのが、ひどく心地よい。
俺もまた堕ちてしまう・・・
晴夫はそんな胸騒ぎに、胸をひらめかせながら、屈従を態度に示すように、じゅうたんのうえに手をついて、うつぶせになってゆく。
ふくらはぎを吸いやすいように気遣うその姿勢は、何度となくのぞき見をしてきた光枝の所作に学んだものだった。
ひんやりとした外気にさらした薄い靴下ごしに、にじり寄ってきた男の呼気が、生温かくあてられる。

ぬるっ。

男の舌が、靴下のうえを這いまわった。
晴夫は男が自分の脚を吸いやすいように、さりげなく脚の角度を変え、姿勢を崩し、じゅうたんのうえを転げまわった。
男は、晴夫の妻が情夫のために装ったストッキングをいたぶるときと、寸分たがわぬ態度で。
彼女の夫の、薄く透けたふくらはぎに、濃厚な凌辱を加えていった。
「まじめな家内がどうしてあんなにもかんたんに堕ちたのか、わかるような気がします」
晴夫のつぶやきに男が頷くと。晴夫はなおも口走っていた。
「せっかくですから・・・破く前にたっぷり愉しんでください。男物の靴下でも、お嫌でなければ・・・」
「あんたがいま呟いたこと、奥さんもしょっちゅうそう言ってくれますよ」
そんな囁きに、晴夫がビクリと反応すると。
吸血鬼はにんまりと笑い、その笑みを薄手の長靴下の脚に圧しつけると、容赦なく牙を、埋め込んでいった。

薄闇の中。
夫の血潮がチュウチュウと啜り取られてゆく音だけが、ひそやかに流れていった。

陶然となって、じゅうたんのうえを転げまわる晴夫を、追いかけるように。
吸血鬼は何度も彼のうえにのしかかると、その両脚を代わる代わる、いとおしむようにいたぶり続けた。
やがてどちらからともなく、目線を交えてゆくと。
息の合ったカップルが接吻を交し合うように、片方がもう片方の首すじを、器用に咬んでいた。
ちゅうっ・・・ちゅうっ・・・ちゅうっ・・・
自分の血が吸い取られる音がリズミカルに響くのを、鼓膜に心地よく感じながら。
晴夫はわれ知らず男の唇を求め、男も夢中になって、晴夫の唇を吸っていた。
重ね合わされ、交し合わされる、唇と唇――
自分の身体から吸い取られた血潮の芳香が、息が詰まるほど強烈に、鼻腔を冒した。
けれどももう、かまわなかった。なにも見えなくなっていた。
熱い呼気をはずませ合って、ふたりはしばらくのあいだ、互いに互いの思いをぶつけ合ってゆく。
晴夫は息をはずませながら、言った。
「あなたの唇には、家内の血潮が良く似合うのでしょうね」
男もすぐに、それにこたえた。
「あんたの血だって、わしの唇に似合っておるじゃろう?」
目のまえで囁きかける唇は、自分の血に染まり、ルビーのような赤黒い輝きを帯びている。
晴夫はうっとりとして、その唇を見あげた。
「そうですね。悪い気はしません・・・嬉しいです」
ふたりはもういちど、熱い口づけを交し合った。
長い長い、口づけだった。

じゅうたんのうえ、ふたりは並んで仰向けになって、手をつなぎ合って天井を見つめた。
「あんたの靴下を破くのは、実に楽しい。時々逢ってくださらんか」
「わたしでよければ、いつなりとも・・・でも、これは浮気になりませんかね?」
「奥さんもしていることだから、かまわんでしょう」
妻が浮気をしている。そういえば男の口からあからさまに聞かされたのは、初めてだったはず。
それなのに晴夫は、「そうですね・・・」と、軽く応えてしまっている。
自分でもそんな態度が意外だったし、けれどもそれでいて、嬉しくも感じていた。
男は光枝のことを、しんそこ気に入ってくれている。
その光枝の夫の生き血は、彼にとってもどれほど関心が深かったことか。
さっきまでくり返されたしつような吸血は、彼が今夜勝ち得た、情婦の夫からの贈り物を気に入ったことを態度で示したものなのだろう。
晴夫は満ち足りた気分になり、吸血鬼のほうへと目を向けた。
吸血鬼もまた、晴夫を見つめていた。
視線を結び合わせたふたりは、互いに身を近寄せあった。
再び重ねあわされる、唇と唇。
夫のほうももはや、躊躇いはしていない。
妻ばかりか自分の血潮まで吸い取った唇に、ただ夢中になって応えていった。
「家内を奪った、憎い唇ですね」
晴夫がいうと、吸血鬼はぬけぬけと、「そうですね」とだけ、こたえた。
「いまは、わたしのことも奪おうとしている」
「奪わせてくれますね?」
「家内を捧げると決めたときから、わたしのすべてはもう、貴男のもの同然でしたから・・・」
晴夫はそういいながら、自分のいっていることは事実とすこし違う、と、感じた。
けれども、ほんとうにそうなのだろうか?
いや、そんなことはない。自分は人妻の生き血をほしがる吸血鬼のために、自ら最愛の妻をプレゼントしたのだ。
それならば、夫婦ながらかれのものになるのも、当然のことではないか。

交わされる意思のやり取りの積み重ねは、やがて、生理的欲求だけではないものをもたらした。
夫は妻と情婦の逢瀬を大切に扱い、情夫は夫婦だけで過ごす機会を重んじていた。
あの晩のストッキング地の長靴下は、みるかげもなく破かれてしまったけれど。
夫は彼のために何足も脚に通し、妻もまた自らの礼装に恥辱を受け容れつづける。
スラックスの下に秘めた薄い靴下は、夫の情夫への気遣いを示すものとして、妻のストッキングとおなじくらい、愛好され続けたのだった。


あとがき
ストッキングを履いた脚を咬みたがる吸血鬼のために、
妻をモノにした吸血鬼と和解するために、薄い紳士用の長靴下を脚に通して訪問する夫。
そんな情景を描いてみたくなりました。
どちらかというと寝取られよりも、同性愛的なお話になっちゃいましたね。。 (^^ゞ
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