FC2ブログ

妖艶なる吸血

淫らな吸血鬼と倒錯した男女の織りなす、妖しいお伽噺・・・

女子大の庭で。

2015年12月21日(Mon) 06:38:49

談笑している若い女子たちの姿ほど、遠目に見ていて眩しいものはない。
そんなまっとうなことを考えながらも、つい彼女たちの首すじに目が行ってしまうのは、
己でさえ時には忌まわしい、本能の教えるところ。
いつか彼女たちのことを見比べ始めていて、「どの子の血を吸おうか?」と値踏みをする目つきになっている。
幸い、笑いさざめく彼女たちは、そんな俺の不埒な意図など、まるきり気づいていないらしい。
やがて小手をかざして手を振り合うと、三々五々、散っていった。
目ざす女子は幸いにも、連れはおらず、一人で歩き始めていた。
白のカーディガンに、薄茶の長めのスカートに、白のハイソックス。
どこででも見かけるような、ごくふつうの大人しいたたずまい。
軽くウェーブのかかった黒髪を肩先に揺らして歩みを進める後姿に、
俺はワクワクとしながら、声をかける。
「お嬢さん、あんたの血を吸いたいんだけど」

え?
振り向いた彼女は、近くで見ると意外なほど童顔だった。
俺の言っている意味を理解すると、
やはり誰かから、聞かされていたらしい――この界隈には吸血鬼が出没すると。
えっ?あのっ!ほんとなんですかっ・・・!?
あわてふためき、うろたえて、しまいには絶句して。
すぐさま問答無用とばかりに、駆け出した。
愉しい鬼ごっこが、始まった。

三日前、さいごに若い血にありついたのも、このキャンパスだった。
真っ赤なサッカーストッキングを履いた色の浅黒い彼女は、運動部。
さすがに追いつくのに、骨が折れたっけ。
それに比べればこの子は・・・まぎれもない文化サークル。
白のカーディガンの両肩を捕まえて、羽交い絞めにしてしまうのは・・・造作もないことだった。
仰のけたおとがいの下に、飢えた唇を吸いつけて。
太い血管の秘められたあたりを探りあてると――容赦なくがぶり!と、食いついてゆく。
ああッ!
彼女は身もだえしながら、俺に血を吸い取られていった。
俺は力ずくで、ぎゅうぎゅうと、うら若い生き血を、むしり取っていった。

貧血で薄ぼんやりとなってしまった彼女を、ベンチに座らせると。
彼女はブラウスの襟首に着いた血を気にしながら、ひどいです、ひどいです・・・と、呟いていた。
俺は意地悪く、脚も咬ませてもらうからね・・・と、彼女を横抱きに抱き寄せて囁くと。
彼女は伏し目の姿勢のまま、図星な非難を俺に浴びせた。
それってなんか、いやらしいです。

くっくっくっ・・・
くっくっくっ・・・
意地汚い含み笑いの下、真っ白な無地のハイソックスはしわくちゃにいたぶられてずり落ちて、
おまけに刺し込まれた牙の痕を、赤黒い不規則な斑点に変えてゆく。
「ちょっとだけ」の約束のはずが、くまなく何度も咬んでゆく。
彼女はもう、抵抗するゆとりもなくなって、ただただ・・・俺のなすがままにされてゆく。

死んじゃうの?わたし。
彼女のうつろな問いに、俺はゆっくりとかぶりを振る。
だいじょうぶ。きょうの友だちにも、また逢えるから。
お友だちは紹介しませんからね。
安心しな。俺が勝手に声かけるから。
みんなに注意するんだから。
そうだね、そのほうがみんなも、心の用意ができるからね。
ひどいです、ひどいですと、力なくくり返す彼女を促して。
家まで送る、と、親切ごかしに伝えると。
そういって・・・帰りを待ち伏せするつもりなんでしょ?と、
親切の裏に隠した魂胆まで、しっかりと見抜いてきた。
あんたの帰り道を知るのも狙いだが、隙だらけのまま帰り道を歩かせたくないのも本当だ。
どこか弁解をしている。自分でそうわかりながらも、俺はもういちど、彼女を促した。
彼女はふらふらと起ちあがると、手を取ろうとした俺の手を振り切って、自分の足で歩き始めた。
緩慢な足どりだったけれども、随(つ)いて来る俺のことを拒んでいるようすはなかった。
帰る道々。
ブラウスの襟首に飛び散った血のりと、
赤黒いシミをあちこちにつけた白いハイソックスの足許を、彼女はしきりに気にかけていた。

その日も――
彼女のサークルはキャンパスの一隅のベンチで一段になって。
花が咲いたようなあでやかさが、遠目にも眩しい人の輪を作っていた。
だれもが罪なく笑いさざめいていて――きのう襲った彼女でさえもが、なにもなかったようにはしゃいでいた。
若い復元力がうらやましくもあったし、眩しくもあった。
彼女たちが三々五々、別れていくまで、飽きずにその風景を、見つめていた。
どの子にしようか――考えはとうとう、まとまらなかった。

きょうの彼女は空色のロングスカートに、淡いピンクのカーディガン。
長めのスカートにカーディガンを合わせるのは、どうやら彼女こだわりのスタイルらしい。
彼女は友だちひとりを連れて、まっすぐこちらに歩み寄ってくると。
ベンチに腰かけたままの俺をきつい目つきで見下ろして、切り口上に声をはずませた。
「お友だち紹介してあげる。吸血鬼に興味あるんだって」
え?
いぶかしげに女の子たちの顔を見比べると。
ニューフェースの彼女は、羞ずかしそうに会釈をしてきた。
きりっと結い分けたおさげの黒髪にふち取られた広いおでこには、まだニキビが残っていた。

木曜日の男、と。
俺にはあだ名が、ついていたらしい。
こう見えたって、多忙なのだ。
女子ばかりのこのキャンパスのなか、黒い影のように徘徊する俺は、けっこう有名だったらしい。
「木曜日の男。あいつね、吸血鬼なんだ。あたしもきのう、血を吸われちゃった」
彼女は友だちにそういって、首すじに俺がつけた咬み痕を、誇らしげに見せびらかしたらしい。
「ええー!?うそ。・・・でも面白そう」
古風で大人しやかな顔だちの少女は、意外にも発展家らしい。
差し伸べられた黒タイツの脚にかじりついて、タイツを咬み破りながら吸い取った血に、純潔な香りをかぎ取った俺は、ひそかに安堵したものだった。
この子が女子校出身じゃなかったら、あぶないところだったな。と。

それ以来。
俺は彼女の手引きで、ひとり、またひとりと、彼女の友だちを牙にかけていった。
「あの子はどうしてもいやだっていうから、見逃してあげて」
そんな彼女の希望も、もちろん尊重させていた。
軽い微熱のあった試験まえのあの日にも、俺がせがむと断らないで。
俺に咬ませるため、軽くウェーブのかかった黒髪を掻きのけて首すじをあらわにしてくれたくらいだったから。
さいごに牙をかけた希望者で、七人めだった。
いつも短いソックスを履いていた彼女は、心を決めた証拠に、肌色のストッキングを穿いてきていた。
女の子の靴下破くのが好きなんですって?やらしいよね。
ボーイッシュな彼女はぶつぶつ言いながらも、俺に首すじを咬ませ、ストッキングを破らせてくれた。
初めて咬んだ首すじは、意外なくらいしっとりとした膚をしていた。

季節がめぐると、人は変わる。
あのとき人の輪を作って笑いさざめいていた彼女たちは、もういない。
みんな卒業をして、いまごろは新しい舞台で笑顔を活き活きとはずませているころだろう。
俺はそれでもこのキャンパスに出没して、「木曜の男」の伝説を体現しつづけている。
目線のかなたには、女子学生の集団。
あのときと同じ若さの少女たちが、あのときと同じ無邪気さをはじけ合わせている。
どの子にしようか――?
ふと遠い目になった俺の傍らに、人影が立った。
ふり返るとそこには、黒のストッキングに包まれた、豊かなふくらはぎ。
「言ってなかった?こんどここの付属中学の先生になったのよ」
軽くウェーブのかかった黒髪が、大人びた落ち着きを帯びていた。
「おばさんになっちゃったらもう、相手してくれないのかな?」
イタズラっぽく笑う白い顔は、「そんなわけないわよね」という自信が満ちていた。
純白のブラウスの胸元を引き締めるリボンをほどいてやろうか。
それとも、黒のストッキングをブチブチを咬み破って、恥ずかしがらせてやろうか。
女の術中にかかって、早くも値踏みを始めた俺の目つきを。
彼女は面白そうに、窺っている。
前の記事
妹分と 妹と
次の記事
身代わりのはずが。  ~女装する夫~

コメント

コメントの投稿

(N)
(B)
(M)
(U)
(T)
(P)
(C)
管理者にだけ表示を許可する
トラックバック
http://aoi18.blog37.fc2.com/tb.php/3235-9821dc32