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妖艶なる吸血

淫らな吸血鬼と倒錯した男女の織りなす、妖しいお伽噺・・・

カレーライス

2016年01月09日(Sat) 07:38:50

夕風と夜風の境目は、あいまいだけれど。
それはほのかに暖かく、なまめかしい。
薄闇に透けて見える、制服姿。
紺のスカートの下から覗く、真っ白なハイソックスに包まれた、発育の良い脚。
豊かな黒髪に縁取られた白い首すじに咬みついたら、どんなにか歯ごたえがよいだろう?
けれども俺は、そんな少女の舌なめずりをしたくなるような様子を、
目もくれないで受け流す。
なぜって・・・あの娘は、すでに仲間の恋人になっているのだから。
お互いの獲物には、手を出さない。それは俺たちの鉄則だった。

ふと鼻先をよぎるのは、カレーの匂い。
ほのぼのとした温かみを含んだ、香ばしいその匂いは。
家庭のぬくもりを感じさせ、俺などですらふと、人恋しくさせてしまう。
匂いのもとはどうやら、俺が目ざす家らしかった。
訪いもいれずに開け放った玄関。
俺をいちど受け容れてしまった家は、たとえ施錠していたとしても、出入りは自由。
案の定施錠をされていた扉は、なんなく開いていた。
ぱたぱたとスリッパの足音を響かせて現れたのは、この家の一人娘。
結花(ゆいか)という名前のとおり、咲き初めた花びらのようなその頬は、いつもより少し、色あせてみえる。
それはそうだな。夕べまでで三晩つづけて――俺に抱きすくめられたのだから。

下校してすぐに夕食を作り始めたのか、真っ赤なエプロンの下は、まだ制服を着ていた。
足許を引き締めるのは、先刻の少女と同じ、真っ白なハイソックス。
けれども少女の頬は、血を吸う側のこちらさえ気の毒になるくらい、色あせている。
「お願いきょうは堪忍」
少女は俺に向かって、目をキュッと閉じて両手を合わせる。
俺はきつい目で少女を睨んだが、どうやらこの立ち合いは俺の負けらしい。
具合悪そうだな――言いたくもないことを口にする俺に、少女は深々と頭を下げる。
「ほんとうにごめんなさい」
いつも無条件に俺に首すじをゆだねるこの娘が手を合わせるのだから、よほどせっぱつまっているに違いない。
「カレーでよかったら、食べていく?」
罪滅ぼしにもならないことを言う。吸血鬼の俺が、カレーなんか食えるか。
そう言いたいのをこらえて、「呼ばれよう」
俺はひと言そう応えると、少女はほっとしたように、廊下を進む俺に道を譲った。

居間に入ると、この娘の母親が、やはり痩せこけた蒼い顔をして、俺を迎える。
「ほんとうにごめんなさい。わたくしもお相手はちょっと・・・」
みなまで訊かなくてもわかる。三晩続けて少女を抱いた夜、この女の寝室も襲っていたから。
処女はみだりに犯したりはしない。その新鮮な生き血の芳香を愉しむために。
けれどもセックス経験のある女の場合、そうはいかない。それがよけいに、この女の体力を奪った。
娘をかばう母親は、うっとりさせられた三晩のまえも、まるまる一週間、俺に抱かれ続けていた。
「娘には言わないでね」と、母親らしい気遣いをみせながら。

スプーンのなかに満ちたカレールー。俺はひと思いに啜った。
旨い。
まったりとしたルウのなかを、ほど良い大きさに刻まれた肉やニンジンやジャガイモが、仲良くひしめいていた。
どうということもない平凡な味つけ――しかしそれは、俺が血を吸われる前に、最も好んだ味だった。
受け取ったぬくもりは、冷え切った心の裏側にまで流れ込み、血を吸い取った時にほど近い満足感を伝えてくる。
傍らで立ったまま、息をつめて俺を見つめている少女を、「あんたも食えばいい」と、席に座らせた。
少女はほっとしたように、自分のために盛ったカレーを、口に含んでいった。
ていねいに盛りつけられたカレーを、皿を舐めでもしたかのようにきれいに、俺は平らげた。

「ごめんね。ほんとうにごめんなさいね」
自分の血を吸うことを、俺に与えた正当な権利と認めているのか。
少女は立ち去ろうとする俺のまえ、なん度も手を合わせていた。
俺はだしぬけに少女の頭を抱くと、掌を彼女の首すじにすべらせた。
穢れを知らぬ素肌には、かすかなぬくもりを帯びていた。
少女は俺の掌を握ると、ブラウスのボタンを二つ三つ外して、そのまま脇の下へと導いていく。
下品に胸を揉みながら、吸血するときだってある。
けれども俺は、彼女をいたわるように、ブラジャーのうえからそっと輪郭を撫ぜるだけにしておいた。
素肌のぬくもり恋しさに、二度三度と重ねてはしまったけれど――

「ごめんなさい」
そう謝罪をくり返しながら。
少女もその母親も、きちんとした服装に身を包んでいた。
好んでふくらはぎに咬みつく俺を応接するために、ストッキングやハイソックスまで脚に通していた。
もしも俺が強いたなら、無理にもその意に従うつもりなのだろう。
たとえ相手が吸血鬼でも、礼儀知らずな応対はしたくない――そんな母娘の心意気がそこにあった。
「帰る」
さいごまで不安げに、いちぶしじゅうを窺っていた母親に、俺はそっけなくそう言い捨てる。

外に出ると、こうこうとした満月が、冴えた空気に映えていた。
くろぐろと静まり返った住宅街。
吸血鬼の支配に堕ちたこの街の、きょうは何軒の家が、悲鳴や嬌声に包まれるのか。
でも少女の家だけは、安心だ。
獲物を奪い合わない俺たちの支配下で、当の俺が訪問をあきらめたのだから。
今夜は平和な眠りを得るがいい――
獲物になった者をいたわる癖は、いったいいつから俺を蝕んだのか。
人の情けが、すすけ立った心のなかで復活したとでも?
それは誇っていいものか。蔑まれてしかるべきなのか。
それとも――何も考えずやり過ごすのが賢明なのか・・・

さて、と。
考えるのをやめた俺は、足音を消して歩みを新たにする。
活力に満ちた血液をたっぷり持った人間が、通りかかるのを期待しながら・・・


あとがき
新年第一作にしては、かなり時間が経ってしまいました。 (^^ゞ
それも、吸血鬼が女漁りを派手にやらかすような景気の良い?話ではなくて、
体調不良な獲物たちを気遣って、血を吸わないで帰ってゆく・・・みたいなストーリーで。
(^^ゞ
なんともさえない話?
でもきっと、今夜のお月さまはたぶん、柄にもない殊勝さに対するご褒美であったような。
たぶん、そんなお話なんだと思いますよ。
(^_^;)
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