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妖艶なる吸血

淫らな吸血鬼と倒錯した男女の織りなす、妖しいお伽噺・・・

帰り道でのお願い。

2016年01月13日(Wed) 07:44:47

きっ・・・吸血鬼!
道行く女の子はだれでも、彼を視るとそういって立ちすくみ、
まるで申し合せたようにだれもが、両掌で口許をおおった。
そしてだれもが、やはり申し合せたように、口許をおおった掌を合わせて懇願した。
お願いします!きょうだけは見逃してくださいっ!あしたまで、中間テストなんですっ。
男は、またか、と言いたげに口をへの字に曲げ、それでも女の子に道を譲って、帰り道を急がせてやった。
なん人めかの少女だけは、反応が少し違っていた。
白目を光らせて男をキッと見返すと、いった。
通してください。困るんです。
お宅の学校、テストらしいね?
男は冷ややかに、そういった。
はい。
少女は気の強い性格らしい。必要以上に口を開こうとはしなかった。
それでも少女は、約束してくれた。
喉が渇いて困っているんですよね?明日になっても解決しなかったら、声掛けてください。対応しますから。
まだ制服姿のくせに、社会人のようなこましゃくれたことを言う。
男は内心そう思ったが、それでもやはり、ほかの女の子たちと同じように、その少女も通してやった。

一日後。
木枯らしが通り抜ける路を、男は凍えた顔つきでうろついていた。
やはり案の定。
女の子たちはだれもが帰り道を変えたらしく、いつもいくたりとなく見かける制服姿は、まったくみられない。
お人好しもたいがいにしろよな。
自分で自分を嘲って見せるのだが、その嘲りはただ、自分にはね返ってくるだけだった。
コートの襟を立てて、男はきびすを返す。
たぶん今夜こそ、寿命が訪れるだろう。
いいじゃないか。ひとに害毒しか流すことのできない立場だ。
そうなるほうが却って、世のためになるのじゃないか。
世のためになる。
およそ自分にふさわしくない形容を、男はせめてもの虚勢で、鼻で笑ってみる。
そろそろ女学生など、通らなくなる時分だ。
そして、人のそう多くは住まないこの街で、このとおりを勤め帰りのOLが通らないことも、男はよく知っている。

あの。
冷たい闇の向こう側から、声がした。
年若い女の声だった。
その声が自分に向かってかけられるのに、しばらく時間がかかった。
少女は三度、「あの」と口にした。
決して温かみのある声ではない。むしろつっけんどんで、尖った声だった。
三度めは、「気がつかないなんて、ばかじゃないの」と言いたげな響きさえ、帯びていた。
振り向くと――少女の白い顔には、見覚えがあった。
夕べ、ひとりだけほかの子たちとはまったく違う応対を示した少女。
「通してください」とだけ言った、あの気の強そうな少女だった。

きょうは、だれも通らないのね。みんなにすっぽかされちゃったのかしら。
少女はからかうように、男の前を思わせぶりに横切って見せた。
白くて柔らかそうな首すじを、肩まで流れる黒髪のすき間からちらちら覗かせて。
伸びやかで血色のよさそうなふくらはぎを、黒のストッキングにほんのりと透きとおらせて。
きのうはすっぴんだったはずだが――唇には淡く紅さえ刷いているらしかった。
どうやら、そうらしいな。
男は少女の挑発を無視して、意地悪な問いに対する答えだけを口にした。
かわいそうですね。今夜だれかの血を吸わないと、死んじゃうわけ?
朱を刷いた唇から、歯並びのよい真っ白な前歯が、ちらりと覗く。
そうかも知れないな。
男はなおも、乾いた声。
・・・焦っちゃう?
いや・・・それでもいいと思っている。
男はだんだん、投げやりな気分になっていった。
ずいぶん自棄(やけ)なのね。
少女は男の心の奥を見透かすようなことをいう。
世のため人のため・・・ってこともあるだろうからな。
さすがにそこまでは、心にもないことだった。
少女はぴしゃりと言った。
いい加減にしなさい。
男ははじめて、少女の視線をまともに受けた。
それでも、生きなくちゃいけないの。
人を死なせたことないんでしょ?少女はそう、言い添えた。

弟が、助けてもらった。
悪いやからに取り囲まれて、カツアゲされそうになったとき。
助けてくれたのは明らかに、吸血鬼だった。
数日前に襲われて、血を吸い取られたとき、顔を視てしまったから、それとわかった。
あのときの礼だ。
男はそう言い捨てて、弟を自宅の近くまで送ると、踵を返して立ち去ったという。
だからこんどは、あたしがお礼する番。
少女はキビキビとそう告げると、近くの公園へと男を招いた。
自分の冷たい手を握って引っ張る少女の掌が、柔らかく暖かだった。

首すじはやめて。
少女は男を、軽くにらんだ。
髪の毛切ったばかりだから。痕が目だっちゃう。
脚だったら、咬ませてあげてもいい。ストッキング破るの、好きなんでしょ?
少女はからかい口調に戻って、黒のストッキングの脚を半歩前に出して、男に見せびらかした。

ベンチのうえに寝そべろうとする少女の下に、男はマントを脱いで、敷いてやる。
意外に親切なのね。
少女は「意外に」に、力点を置いた。わざとのように。
すんなりと伸べられた足許ににじり寄った男は――その瞬間獣にかえった。

発育の良いふくらはぎの周りに整然と張りつめた薄地のナイロン生地が、いやらしいよだれにまみれた。
うひっ・・・うひっ・・・
男はいやらしいうめき声を発しながら、欲情にまみれた唇を通学用のストッキングの脚になすりつけ、
ピチャピチャ、クチャクチャと、音を立ててなぶり抜いた。
少女はさすがに顔をしかめて、べそを掻きそうになるのを必死にこらえていた。
なん度めか、しゃぶりつけた唇を、強く吸いつけて。
口の両端からむき出した牙を、柔らかなふくらはぎに、おもむろに埋めてゆく。
ブチブチ・・・ッ。
薄手のストッキングが、ちいさな音をたててはじけた。
唇の下で、薄手のナイロン生地に走った裂け目は縦に伸びて、つま先からスカートの奥にまで広がった。
くちゅ・・・くちゅ・・・
唇をなん度も擦りつけながら血を啜るたび、裂け目は太くなり、白い脛を露出させてゆく。
もう片方の脚にも、容赦なく凌辱を加えた。
吸い取った血潮と引き換えに、淫らな毒液をたっぷりと、少女の血管に流し込むと。
男は初めて、少女の身体から顔をあげた。
みじめに打ちひしがれた少女の横顔に、ほんのりと淫蕩な色が浮かぶ。
ククク・・・吸血鬼をばかにすると、こうなるのだ。
吸い取った血を牙から滴らせながら、男はそう思った。
いっぽうで。
わずかながら残った理性が、あとで抱くはずの後悔を警告したが――いまはそんなことは、もうどうでもいい。
血を抜かれ、ぐったりとなった身体を、少女が緩慢に起こそうとするのを、男は手助けしてやった。
気分はどうかね?

すぐれないわ。とても、すぐれない。
失血に蒼ざめた顔を見せまいとするように、少女は男から視線を遠ざけつづけた。
辱められた足許に、薄黒いストッキングがむざんな伝線を幾すじも走らせている。
ひどいのね。
無言の批難を、男は静かな気持ちで受け止めた。
さっきのどす黒い衝動と、見さげ果てた征服欲とは、去りかけている。
家まで送る。
男はぶっきら棒にそういって、少女の手を取った。
握りしめた少女の掌は、公園に入るときとは裏腹に、自分のそれよりも冷え切っている。
気が済んだ?
見あげてくる少女の視線は、夕べと同質の鋭さをたたえていた。

不当に吸い取ったうら若い血液が、男の身体をめぐりはじめていた。
それは干からびていた体内をゆるやかに解きほぐし、いやがうえにも心の奥までも解きほぐしていく。
男が得た体温は、少女の掌にも伝わった。
ぎゅっと握りしめた掌に、呼び返すように、少女の掌もまた、握りかえしてきた。
じゃあここで。
男が立ち去ろうとするとき、少女は思った。
弟もきっと、こうだったに違いない――
「考えてみれば、きょうだいそろって血を吸われちゃったんだね」
軽い毒を含んだ声色。
知性を秘めた冷ややかな響きが、男の耳に心地よかった。

あんたには、俺の毒は効かないらしいな。
半分は敬意。半分は悔しさを隠して、男はいった。
そうでもなかったよ。
少女はふたたび、白い歯をみせた。
こんど、お友だち連れてきてあげる。でも、ひどいことしたら許さないからね。
わかった。感謝する。
それ以上いっしょにいると、なにかよけいなものがこみ上げてきそうだった。
男はきびすを返して、立ち去りかけて。
もういちど、少女のほうを振り向くと――両腕で固く固く、抱きしめていた。
助けてもらった。救ってもらった。感謝するよ――
顔を視ないと素直になれるものだ。
男は自分の卑怯さを、自分で笑った。


この街、吸血鬼に征服されかけてる。
遅かれ早かれきっと、みんな血を吸われちゃうに違いない。
そういえば。
街はずれの通学路に、お人好しの吸血鬼が出没するってきいた。
お願いって手を合わせてお願いすると、見逃してくれるんだって。
それをいいことに、ほとんどみんな逃げちゃってるけど。
どうせ咬まれるなら、そういうひとのほうが、いいんじゃない――?
そんな囁きを、どこかで耳にしたような気がする。
あるいは明日、教室のどこかで。
自分もまた、同じことを。
級友たちに囁いているのかも。
少女はくすっと笑い、唇の端に覗いた、早くも生え初めた牙を、指先でなぶってみた。


あとがき
中途半場に悪堕ちなお話になりました。 ^^;
理性と知性をとどめながらも、そそぎ込まれた毒液にほんのりと支配された少女。
でもやはり、吸血鬼はきっと彼女には頭が上がらないでいつづけるような気がしますね。 ^^;
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