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妖艶なる吸血

淫らな吸血鬼と倒錯した男女の織りなす、妖しいお伽噺・・・

大丈夫だよ。

2016年02月22日(Mon) 07:50:10

大丈夫だよ。
妻はいつものように笑って、ドアの向こうに消えた。
真っ赤な口紅を鮮やかに刷いた小ぶりな唇から覗いた白い歯だけが、記憶に落ちた。
急いで駆け寄ったドアには、早くも錠がかけられていた。

耳を当てたドア越しに、ヒッ・・・と息をのむ妻の声。
重なり合ったふたつの身体がかもし出す、気配、音。
鮮明な想像のなかで抱き合ったふたりはじょじょに姿勢を崩していって、
尻もちを突き、横たえられて、ブラウスをはぎ取られていった。
それ以上はもう、聞く勇気がなかった。
脳裏にわだかまる貧血に鈍麻されたわたしは、のろのろとソファへと向かい、身をゆだねた。
さっきまで咬みつかれていた首すじには、痺れるような鈍痛がしみ込んでいた。
あの貪欲さで、いままさに妻の血を貪られている――
嫉妬とも怒りともつかぬ感情と、それからわけのわからない帰属感とが、わたしを支配した。
帰属感?
そう。妻はわたしと同じ体験をくり返そうとしている。
そして、やつの体内でわたしと妻の身体から吸い取られた血液は、ひとつになる――

2人が部屋から出てきたのは、2時間後だった。
さいしょに男が。それから妻が。
半開きのドアの向こうから、男につき従うようにして姿を見せた妻は、
きまり悪そうな伏し目がちになって、
男とドアとのすき間をすり抜けるようにして、わたしのほうへと歩み寄る。

血を吸われちゃった。
イタズラを見つかった子供のように、彼女はへへへ・・・と笑う。
白目が瞳の黒さにひきたって、いっそう怜悧に輝いている。
指さされたうなじの一角に、視線が吸い寄せられる。
ショートカットの黒髪の生え際のあたりに二つ、紅い咬み痕が綺麗に並んでいた。
吸い残された血潮が、チラチラと妖しい輝きをたたえている。

姦(や)られちゃったけど、大丈夫だよ。
あなたのことを一番、愛しているから。

妻は瞳に怜悧な輝きをたたえたまま、巧みに感情を隠していた。

立てるかね?

気づかわし気に身をかがませてきた吸血鬼に、妻はほっそりとした手を預けた。
そうして、引っ張り上げられる力よりもしっかりと、自分の脚で起ちあがった。
スカートから覗くひざ小僧から下は、まとわれた肌色のストッキングがみるかげもなく破れている。

知ってる?脚からも吸うのよ、このひと。
パンスト代がばかにならないわ。

妻は主婦の顔に戻って、自分の身に狼藉をはたらいた男に、苦情を言った。
パンスト代もばかにならない。
咬み破られるパンストは、一足だけでは終わらない――ということか。
妻も、暗にそれをわたしに告げたかったのだろう。

このひととお付き合いするたびに、こういう目に遭うんだわ。
あなた、私のパンスト代しっかり稼いでね。

ドSなことを言うなあ・・・
わたしはとぼけた苦笑を作って、妻に応じた。
三人三様のそらぞらしい笑いが、リビングに満ちた。
これで和解が成立した・・・ということなのだろう。
わたしはふたたび吸血鬼に首すじを与え、
朦朧となって横たわったソファのまえ、
妻は娼婦と化して、淫らな舞いを見せつけてくれた。

こんどは、主人のいないときにしてくださいね。
私連絡しますから――

吸血鬼と、携帯のアドレスを交換し合う妻。
相手の男はわたしたちよりも10歳以上年上の、さえない男やもめだった。
もちろん、黒マントなんか来ていない。
よそ行きのスーツ姿の妻とは明らかに釣り合いの取れていない、ラフなふだん着姿。
はだけたブラウス、吊り紐の切れたブラジャーのすき間から乳房をチラチラと覗かせながら、妻は吸血鬼相手に、和気あいあいと言葉のやり取りを愉しんでいる。
男は自分の情婦にした人妻のスカートのなかに手を突っ込んで、さぐりはじめた。
なにを始めるのか?そう思ったら。
パンストのゴムに手をかけて、ひきおろそうとしているらしい。

あいつらね、モノにした人妻のパンストを欲しがるんですよ。

同僚のひとりは、事前にそんなことを教えてくれた。
いまにして思うと、彼もきっと、目のまえで妻のパンストをまんまとせしめられてしまったのだろう。

やらしい。絶対!やらしい。
そういうの主人のまえでやらない約束でしょう!?

妻の悪罵は、吸血鬼の頭上にさえ、容赦なく浴びせかけられた。


以後も、やつの訪問は継続しているらしい。
妻はそんなことはおくびにも出さず、
今までのように、何ごともなかったかのように、
家を切り盛りし、出勤するわたしをにこやかに送り出す。
夫を送り出した後は、きっと娼婦の顔になる。
化粧を厚く塗りなおし、携帯をとって、男を呼び寄せる。
血に飢えた男は、夫婦の寝室で妻をつかまえ、首すじを咬んで血を啜り、
それからベッドに押し倒し、パンストをむしり取ってゆく――

男やもめをかこっていた吸血鬼は、欲望の対象を手に入れたし、
妻は主婦の座を維持したまま、夫が黙認する不倫を、公然と愉しんでいる。
わたしはといえば――
面子を保たれ、だれにも嘲られることもなく。
行為の継続とともにしみ込まされた、いびつな感情に支配をされて。
妻の貞操をほかの男に譲り渡す快感に目覚めてしまい、
勤務時間中に職場を抜け出しては、わざと施錠のされていない自宅に戻り、
半開きのドア越しに、息をはずませ合うふたりを見つめ、
よそ行きのスーツの奥深く突き入れられる股間の牙に妻が我を失うさまを、見届けていく。

妻は不倫を自分の身体で愉しみ、わたしは目で愉しんでいた。

わたしの前では、しっかり女房。
情夫の前では、娼婦。
女はやはり、魔物なのか・・・
魔物の本性を覗かせる妻は、自らの欲望を人知れず満たしながら、きょうも貞淑妻を演じ続ける。
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