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妖艶なる吸血

淫らな吸血鬼と倒錯した男女の織りなす、妖しいお伽噺・・・

卒業式の季節ですね。

2016年03月27日(Sun) 08:45:21

毎年この季節がやって来ると、身体がムズムズとくすぐったくなってくる。
そう。親黙認で、年頃の女の子たちの血を吸い始めることのできる時期――卒業式シーズンだった。
謝恩会の日程はあらかじめ、ベテランの女教師である京子先生が教えてくれる。
この先生のお世話になって、もうなん年になるだろうか?
京子先生は知り合ったころとまったく変わらない、表情を消した白い顔をして俺のところにやってきて、今年はいついつです、と、必要最小限のことだけ呟き去ってゆく。
俺はただ、その日に学校に行けばいいだけ。
入るのはいつも、裏口からだった。
表門はもちろん、きょうの佳き日のために着飾った女の子と、そのお母さんたち。
この学校に出入りする吸血鬼にはいろんなやつがいて、もっぱらお母さん目当ての人もいるくらいなのだが、俺はもっぱら少女狙い。
少女専科といわれているらしい。なんかいやらしいな。いや、やっぱり、いやらしいのか・・・
それはさておき、首尾よく”裏口入学”を果たすと、いつもまっすぐに体育館を目指ししていく。
会場の設営で忙しく立ち働いていた京子先生は、ねずみ色の地味なスーツに、きょうだけは真っ赤なコサアジュを胸元につけ、そこだけが華やかだ。
俺の姿をみとめると、薄化粧を刷いた頬をちょっとだけ引き締めて、細い指を伸べて空虚なパイプいすたちの並びの、最後列を指定した。
本音をいえば、厳粛な卒業式は退屈なだけなのだが――いちおう血を吸わせてくれる子たちに敬意を表し、俺は教職員席の末席に座る。

うちのクラスの生徒たちですからね。
京子先生はこっそりと、俺に呟く。
すでに俺の同類項たちがかなりの人数入り込んでいることが、気配でわかる。
顔見知りのやつなどとは、周囲に気づかれないよう会釈を交わしたりする。
獲物がだぶらない配慮は、学校側としてはお手のもの。
もっとも俺たちも、同類項同士で獲物を奪い合ったりはしない。
そこだけは、真人間だったころよりも、ずっとまともになっている、数少ない部分ではある。

卒業証書の授与が、粛々と進む。
チェック柄のスカートや半ズボンの下、ハイソックスやタイツの脚たちがお行儀よく、列をつくり、順ぐりに舞台につづく階段を上り下りしていくのを、俺はうっとりと眺めていた。
京子先生のクラスの番が来た。
 あおやぎのりこ
 あきもとかなえ
 いざわたかこ
 うのまさよ
うぅん。京子先生が軽く咳払いをする。
そこまでということなのだろう。
今年は四人。上出来だ。
一瞬目線の合った俺は、精いっぱいの感謝と満足とを瞳にあらわしたが、
そこはベテラン教師らしく、京子先生は気づかなかったふりをしてさりげなく視線をはずしてゆく。
出席番号5番以降は、べつの吸血鬼に捧げられるのだろう。
女の子の相手は、特定の吸血鬼とは限らない。
「よりどりみどり」と呼ばれる会合は、謝恩会の流れでそのまま居残った卒業生とお母さんたちが、やはり居残った吸血鬼たちに追いかけまわされて、だれかれ言わず食いつかれていくという。
ちょっと乱交パーティーみたいな雰囲気で、面白いからどう?と仲間に誘われたこともあったが、どうも落ち着かない席のようだから、俺はなかに入ったことはない。
あるとき京子先生にそういうと、いかにももっとも、という顔で応じてきて、
「あなたには私がちゃんとした子を世話してあげますから」とだけ、いった。
職業意識にあふれた、落ち着いた自信に支えられた物腰。
いったいこのひとはどうしてこうも、俺によくしてくれるのだろう。

俺の獲物になる女の子たちが、ひとりひとり壇上に呼ばれ、しずしずと歩みを進めてゆく。
どの子も少女ばなれした、落ち着いた物腰で、卒業証書を受け取ると、校長先生に礼儀正しく一礼して、さがってゆく。
壇上に登っていく後ろ姿で、服装や身体つき、それに髪型を。
壇から降りてくるときに顔だちや胸のふくらみ具合、どんなたちの子なのかを。
ドキドキ、ワクワクしながら、盗み見てゆく。
あおやぎのりこは、真新しい濃紺一色の中学の制服。
あきもとかなえは、薄いピンクのカーディガンに、赤と白のチェック柄のスカート。
いざわたかこは、ワインカラーのとっくりセーターに、こげ茶のスカート。
うのまさよは、紺のブレザーに青系のチェック柄のスカート。
どの子もきっと、めいっぱいのおめかしなのだろう。
今年は全員、タイツだった。
去年の子たちは、タイツの子が一人。あとは白、黒、淡いブルーと色とりどりのハイソックス。
あの不揃い感もたまらなかったが、そろいもそろっての黒タイツというのもなかなかそそられる。
親たちは、帰り道を襲われる――と知りつつ、娘のおめかしを手伝っているはず。
すまないね。手塩にかけたお嬢さんたちを毒牙にかけてしまうなんて。
いつものようにジワジワと疼いて来た牙を、唇ごしにそっと撫ぜる。

謝恩会がたけなわを過ぎ、ざわついた人の群れから一人また一人と立ち去るものたちが出はじめると、宴は急速に終わりに向かった。
残った子たちの大半は、俺のような指定されたお相手がいない。
さりげなく残っている同類項たちは目を光らせて、どの子が良いか・・・と品定めをしているところだろう。
京子先生は相変わらず表情を消した、この佳き日にはふさわしからぬほどの愛想のない顔つきで、(たんにいつもと変わらないだけなのだが)、教え子四人を引率して、俺の前にやってきた。
この子たちね。
京子先生は俺に軽く会釈をすると、女の子たちに向かっても、この人ですよ、といって、受け持ちのクラスの女子たちをぐるっと一瞥した。
おだやかなようで、笑っていない。
こういう先生のまなざしの威力は、子供たちにもストレートに伝わるのだろう。
四人の女の子たちはゴクリと唾をのみ込んで先生を見、それから俺を見つめた。
これから自分の血を吸おうとしている男に、どういうあいさつをしていいのかわからないまま、おずおずとお辞儀をしかけてくる女の子たちに、俺はゆったりと礼を返してゆく。

京子先生は俺と四人の教え子を、旧校舎の片隅にある空き教室に”引率”した。
火の気のない、寒々とした教室だった。
照明もついていなかったが、先生は「灯りはつけないでくださいね」とクギを刺すようにいうと、配送を終えた郵便配達のように淡々と、教室から出ていった。
まだまだあとなん組か、”配送”をしなければならないのだろう。
俺ははじめて、少女たちとさしで向かい合う。
女の子という種族は、意外に剄(つよ)い生き物だ。
さっきからずっと、俺のことを観察し尽していたらしい。
どうやらあまりひどい目には遭わずに済みそうだという心証が得られたらしく、
期待と不安の入り混じった空気は、むしろ柔らかだった。
「よろしくお願いします」
先頭の子がそういうと、ほかの子たちもそれにならって口々に、不揃いな「お願いします」のあいさつをしかけてきた。
先頭の子は、出席番号一番のあおやぎのりこチャン。
活発そうな赤い頬に、精いっぱいの気負いが感じられる。
あおやぎのりこチャンは、仕切り屋らしい。
出席番号一番というのは、意外に重責だ。
「前へならえ」とか、「気をつけ、休め」とか、真っ先にやらされる機会が多いのだろう。
「こちらこそ、よろしく」
俺が初めて口をきると、なにが「よろしく」なのかが女の子たちにもいきわたったのだろう。一瞬の緊張が、四人のあいだをよぎる。
硬くなりかけた空気に負けまいとするように、口を開いたのは、出席番号二番、あきもとかなえチャン。
「タイツの脚が好きなんですか?」
質問の中に含まれたいやらしい部分を、まだ自覚していない口調だった。
その真っ白な部分を、いますぐ俺の色に染めてあげるからね――それこそイヤラシイことを胸に秘めながら、俺はこたえる。
「先生に教わったの」
「ハイ」
これは、全員からの答え。
必ずしもそうではないのを、京子先生は熟知しているはず。でもまあいいや、そういうつもりでタイツを指定したのだろうから。それとも、だれかと間違えているのか――
あの手落ちのない京子先生がねえ・・・俺はもっともらしく押し黙るあの白面の表情を思い出して、思わずフフフ・・・と口許をゆるめる。
俺の顔つきの変化を敏感に読み取ったのか、「ゴキゲンさんなんですね」と、出席番号三番のいざわたかこがほほ笑む。
四人のなかで一番内気そうな少女だったが、打ち解けたら愛嬌のありそうな可愛い子。
さっきからずっと黙っている出席番号四番のうのまさよは、いかにもしっかり者という雰囲気だった。

結局、出席番号順に、黒タイツの脚を咬ませてもらうことにした。
「予防接種みたいだね」
女の子どうし、そんなことを口々に言い交わすと、四人はさりげなく行列を作ろうとした。
俺は、まあそんなに堅苦しくするのはやめようよ、といい、イスを四つ並べて、彼女たちを座らせた。
端から順にいただくからね、と、いうと、女の子たちはシンとなって、神妙に頷き返してきた。

折り目正しい濃紺のプリーツスカートは新品で、すそから覗くふくらはぎを包んだ黒タイツも、おろしたてのものらしい。
息をつめて見おろしてくる少女の足許にかがみ込むと、少女のほうは見ずに、「制服は汚さないようにするからね」とだけ、いった。
少女はそれで、ちょっと安心したらしい。
あとできいたら、親たちはそんなに裕福ではなく、制服代も痛いといっているのを小耳にはさんでしまったらしい。
いくら出席番号一番でも、そこまで苦労性にならなくていいのにな。
いまでも、いつも気張って真新しい黒タイツを履いてきてくれるこの子の脚を咬むときには、いつもそう思う。
彼女の履いている黒タイツは、しっくりと唇になじんで、俺はもうたまらなくなって、思わう行儀悪く舌をなすりつけてしまっている。
ピチャピチャと音を立てて、よだれをじゅくじゅくと泡立てているのに、彼女はぴくりとも動かない。
ほかの子たちに与える影響を思いやっているのだろう。
タイツの下の皮膚は、きっと鳥肌だっているはずだった。
かわいそうになったので。
口許から牙をむき出すと、いちばん肉づきのよいあたりに、がぶりと食いついた。
「・・・ぁ!」
喉の奥からしぼり出したうめきに頓着なく、じわじわとあふれ出てくる生温かい血潮を、夢中になって含みつづけた。
しまり屋のあおやぎのりこチャンは、仕切り屋としての務めも立派に果たした。
「だいじょうぶだよ、だいじょうぶ」
さすがに蒼ざめて見つめてくるクラスメイトたちにそう言いつづけながら、
彼女はイスの背もたれにゆだねた背中を、ずるずると滑り落としていった。
床に尻もちをついてしまった彼女をそっと抱きしめ、「ありがとう」というと、蒼ざめた彼女のことをそっと床に寝かしつける。
スカートをちょっとめくって、まっ白なスリップのすそで唇を拭うと、
俺はさっそく、次の子にとりかかる。

あきもとかなえチャンは、薄いピンクのカーディガンに、赤と白のチェック柄のスカート。
このお洋服だと、白のハイソックスもに合いそうだね・・・と俺がいうと、
おしゃれな子らしく、「わかる?」と言いたげに微笑み返してきた。
さすがにクラスメイトがひとり、貧血を起こして倒れたばかりだったから。
彼女の頬もすこし、蒼ざめてはいたけれど。
黒タイツを履いたやせ身の脚を、気丈にも伸ばして誘いかけてくる。
そういう誘いには、めっぽう弱い――俺はかなえチャンの足首を掴んで床に抑えつけると、さっきみたいににゅる・・・っと唇を這わせて、
さっき以上にしつっこく、女の子の脚をねぶり抜いてゆく。

かなえチャンは寝顔も可愛かったから、首すじにもキスをしてやった。
つづいて出席番号三番、いざわたかこチャン。
ワインカラーのとっくりセーターに、こげ茶のスカート。
どちらかというと卒業式にはカジュアルな感じがしたけれど、そういう子はけっこうおおぜいいたのだった。
セーターもスカートもじつはブランドものだということを、俺はとっくに見抜いている。
「きみ、首すじから咬んでもいい?」俺がいうと、
「そうしたいんですか?」と問い返してきた。
意外に自己主張の強そうな子だ。
「ドラキュラ映画のヒロインみたいじゃん」俺がいうと、
「それなら・・・してもいいです」
大人しそうに見えながら、気負いすぎるほど前向きな意思表示を、はっきりと伝えてくる。
この子はきっと、発展家になるだろう。
差し伸べられた首すじはすんなりと伸びやかで、皮膚にはかすかな潤いとぬくもり。
唇が触れると、ゾクッと身をこわばらせたが、有無を言わせず咬みついていた。
半ば本気をこめた抱擁のなか、血を啜り取られながら、少女はうっとりとなって身体の力を抜いていった。
手鏡をかざして、お気に入りらしいとっくりセーターのえり首に血がついてないのを確かめさせると、
少女は感謝の微笑みを泛べて、黒タイツの脚を自分から差し伸べてきた。
さいごに独り残ったうのまさよチャンに、「怖くはないし、むず痒いだけだからね」と声をかける余裕をみせた。

「さいごになっちゃったね」
俺がそう声をかけると、「いちばんおいしくないかもしれないわよ」と、少女は控えめなことをいった。
うのまさよチャンは、無口なしまり屋。
紺のブレザーに青系のチェック柄のスカート。その下に履いているタイツは、どうやら高価なものらしい。
ひと目でそんなことまでわかってしまう俺も俺なのだが。
裕福な家で育ったらしいまさよチャンの服は、だれよりも洗練されていて、見映えがする。
京子先生がこの子で切ったのも、たぶん頭数以外の意味があったに違いない。
「じゃあ、ためしてみるかね?」
自分の血がいちばんまずそう・・・そんな可愛いことを言われてしまっては、弁護したくなるのも当然ではないか。
まさよチャンはちょっと根暗で憂鬱そうな横顔をちょっと曇らせて・・・でもはっきりと頷き返してきた。
「きみも、最初に首すじを咬んでみたい子のようだね」
「どうしてそういう区別をするんですか」
「なんとなくだよ、なんとなく・・・」
「そうなんですか」
口数の少ない子が、あえて会話を続けたがっている。
きっとそうやって、恐怖を忘れようとしているのだろう。
俺はこの子に、早く恐怖を忘れさせてあげなければならない。
抱きすくめた肩はか細く、量は採ってはいけない気がしたけれど。
かじりついた首すじの皮膚のなめらかさは、そんなことを一瞬で吹き飛ばしてくれた。
ごくごく・・・ごくごく・・・
ちゅうっ、ちゅうっ、ちゅうっ、ちゅうっ・・・
せきを切ったような劣情にわれながらあきれ果てながら、
なにもかも諦めきったらしい無抵抗な身体から、初々しい血潮をひたすらに、啜り取っていった。
すっかり俺のモノになり果てた少女は、いった。
「タイツ、愉しんでくださいね。せっかく履いてきたんだし」
破くまえにしっかり舐めろ。
そんなことを言う子なのだ。末恐ろしい。
でもいまは、俺に手なずけられて、天使は奴隷に堕ちようとしている。
スカートの奥に手を突っ込んで、太ももをまさぐりながら。
真新しい青のチェック柄のプリーツが、不自然に波打つほど露骨に、撫でつけながら。
俺は少女のタイツをいたぶり抜いて、しなやかな生地の舌触りをくまなく愉しんで。
少女がかすかに頷いてくれると、咬みついていった。

質素な家に育って、仕切り屋でしっかり者の制服姿。
おしゃれで可愛い、ピンクのカーディガンに赤と白の派手なチェック柄のスカート姿。
一見地味めな発展家の、ワインカラーのとっくりセーターにこげ茶のスカート姿。
無口なしまり屋で、奉仕精神いっぱいの紺のブレザーに青のチェック柄スカート姿。
どの子も顔を蒼ざめさせて、教室の床のうえに転がっている。
出席番号一番、青柳紀子。
出席番号二番、秋元香苗。
出席番号三番、井沢孝子。
出席番号四番、宇野昌代。
この子たちの秘めた血潮の香りを反芻しながら、俺はゆっくりと身を起こす。
教室のドアをちょっとだけ明けて、
ひっそりと佇む人影に、ひっそりと声をかける。
「親御さんたちを、呼んでください。ごちそうさまでした」
「あなたが一番、長かったわよ」
京子先生の咎める視線が、いつになく優しい。
「卒業、おめでとうございます」
風変わりなあいさつもあったものだと自分で思いながらも、俺は先生のまえ、深々と頭を垂れた。


あとがき
長かったんで、一時間ちょっとかかってしまいました。
(^^ゞ
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おわび。

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