FC2ブログ

妖艶なる吸血

淫らな吸血鬼と倒錯した男女の織りなす、妖しいお伽噺・・・

目覚めた主婦

2016年04月24日(Sun) 09:11:47

鏡台のまえ、寺崎千代は念入りの化粧を整えると、新調のスーツをまとった身をもたげ、リビングに向かった。
リビングには夫がいた。
夫は千代の淹れたコーヒーカップを片手に、テレビを観ていた。
騒々しい、バラエティ番組だった。
けれども夫の注意はテレビになどちっとも集中していなくて、
じつは夫婦の寝室で身づくろいをしている千代にいっしんに注がれていたらしい。
夫の顔色ですぐにそれと察すると。
千代はつとめて明るい声で、いった。
「どう?似合うかしら?このスーツ」
夫は妻の明るさに合わせて、かろうじて笑みを交えながら、
「うん、良く似合っているよ。さすが瀬藤さんだ。きみの良さをよくわかっていらっしゃる」
瀬藤さんの好みがちょうど、きみに似合っているのかもね・・・
ぽつりとつぶやく夫の言いぐさを軽く流して、千代は「じゃあ行ってくるわね」とだけ言って、夫に背を向ける。
夫はもちろん、何もかも知っている。
新調してもらったスーツを、瀬藤さんに見せに行くだけじゃない。
このスーツを着たまま血を吸われ、ついでに抱かれてしまうために出かけるのだ――

千鳥格子のスーツを仕立ててもらうとき、瀬藤は自ら千代を同伴して知り合いの洋品店に採寸に付き合ってくれた。
そのとき夫はいなかった。
「今回は記念じゃから」
瀬藤は年配者の塩から声で、口数少なくそういうと、
「わしの好みの柄じゃから」
そういって、千鳥格子のスーツを店主に持ってこさせていた。
記念だといわれて初めて、気がついた。
初めて瀬藤に抱かれて、ちょうど一年が経とうとしていた。

瀬藤が千代に服をプレゼントすることは、よくあった。
いつもあんたの血で汚してしまうから・・・と、妙な心遣いをするのだった。
服を汚すのを気にするくらいなら、血を吸わなければいいだろう・・・って?
そうはいかんのだな。わしは吸血鬼なんじゃから。
瀬藤は自慢とも自嘲ともとれない声で、千代にそういっていた。

一年前のきょう――
千代は友人の婚礼に招かれて、夫とともに初めてこの街を訪れた。
吸血鬼が棲んでいるのよ、この街。
新婦となる友人はそういって笑ったが、千代はただの冗談だと思って受け流した。
それが、彼女に許された精いっぱいの警告だなどとは、思いもしないで。
この街での婚礼は、三日続く。
初日の披露宴の、仲人のあいさつや乾杯の発声、
そのほかにもウェディングケーキの入刀やら、キャンドルサービスなどなど・・・が一段落すると、宴席の雰囲気は改まる。
都会ではそこまでの披露宴が、淫らな風習の息づくこの街では、これからが本番だった。
それまでに女たちの目星をつけていた婚礼の客たちが、それとなく目あての女性の近くに席を移していって、
やがて宴席は淫らな乱交の場に変わり果てる。
それまでに、女性たちを守るべき夫や息子、父親たちは、一人残らず血を吸い取られてじゅうたんの上に転がされていた。

そのとき、初めて千代を犯したのが、瀬藤だった。
父娘ほども齢の離れた相手が、赤ら顔をぎらつかせ、息をはずませて、欲情もあらわにのしかかってくる。
千代のか弱い腕はすぐに、ほかの何人もの男たちに抑えつけられて、
こぎれいなブラウスは、花びらが散るように胸からはぎ取られていった。
夫は千代の傍らに、血を吸い取られて転がっていた。
幸か不幸か、夫にはまだ意識が残っていて、うつろな目はすべてを見届けてしまっていた。
そう、不覚にも千代が、股間をくり返す襲う衝撃に耐えきれず、なん度も声をあげ、行為に応じてしまったのも。

嵐が過ぎ去ったあと、千代のなかでなにかが塗り替えられていた。
正気づいた夫もまた、なにかを塗り替えられていた。
血を吸われたせいだ。引き抜かれた血液と引き替えに、なにか淫らな毒液をそそぎ込まれていた。
まして千代は、ストッキングを穿いた脚をばたつかせ、視られてはならないショーツを裂き取られて、
股間の奥に、淫らな粘液まで、それも5人も6人もの粘液を、念入りにたっぷりと、そそぎ込まれてしまっていた。
もういちど、お逢いしようよ。
夫がそういうと。
エエ、ごあいさつしなくちゃね。
妻も即座に、応じていた。
妻を犯した最初の男のことを、あてがわれた宿のあるじに尋ねると、
シャワーを浴び、よそ行きの服に着替えて、夫婦連れだって、出かけていった。
それが瀬藤だった。
瀬藤の家には、こうなると察して待ち構えていたその時の男衆たちまで、顔をそろえていて。
夫は気前よく、最愛の妻の肉体を、自分の父親ほどの年配の男たちに与えたのだった。

感染力が強かったんだな。
瀬藤が夫にそう語るのを、半裸に剥かれた身体をけだるく横たえながら、千代は聞いていた。
婚礼の席で蹂躙を受けたあと、その晩のうちに来てくれる夫婦は、そう多くはないのだという。
しかしあんたたちは、来てくれた。嬉しいね。
けだものだとばかり思い込んでいた男が初めてみせた笑いは、ひどく人懐こかった。

妻の貞操をプレゼントするという行為は、この街では最良の厚誼の証しなのだと。
それを、妻を輪姦されたその日のうちに許すことは、夫としては理想の振る舞いとされていた。
千代たちは、この街に受け入れられた。


幸か不幸か、夫は失業していた。
だからそのまま、この街に棲みついてしまっていた。
そのあいだにも。
男たちは千代の新居に昼夜とわずあがりこんできて。
夫の血を吸い取り、酔い酔いにしてしまうと、
わざとその目線のまえで、千代を犯した。
夫もどうやら、そうしたあしらいを歓んでいるらしい――そう気づくのに、時間はかからなかった。

血管を干からびさせてしまった夫は。
新しい友人たちの干からびた血管を、若い女の血で潤してやるのを生きがいにするようになっていた。
若い血液を少しでも多く確保するために、
まだ独身の妹を招び、
兄や友人を妻同伴で招び、
両親までも街に呼び寄せてしまっていた。
同じ不幸を背負わせてやろうという意図ではなかった。
同じ歓びを分かち合いたいと、本気で思っていたのだった。
夫のひたむきな想いに、妹は結婚を控える身にもかかわらず嬉々として処女を喪い、
兄は渋々ながら兄嫁を差し出し、友人たちも同じように、愛妻を街の男たちと共有するようになっていった。
母親は街の顔役にひと目惚れをされ、ロマンスが芽生え、
長年連れ添った妻のそんな様子を視つづけた父親は、
自分より年上の男の、妻に対する老いらくの恋を、寛大に受け容れてしまっていた。

そういうわけで。
千代は始終彼らの訪問を受けていたし、
とくに瀬藤に対しては、服を買ってもらったときには必ず、出向いてお礼を言いに行っていた。
もちろん、お礼の対価は具体的だった。
夫はそれを、しいて歓迎しないまでも、決して拒もうとはしなかった。

道すがら、路上に伸びる自分の影に、千代は問いかけている。
私は本当に、愛されているの?
私に求められているのは、たぶん身体だけ。その身体に流れている、若い血液だけ。
ええもちろん、それでも満足よ。
私だって、楽しいもの。
夫以外の男と不倫するのを、夫は理解してくれて。
おうちでテレビ観ながら、待っててくれるの。
でもほんとうに、それだけなの?
たぶん私は、子供を産めない。
産んでみたところで、それは夫の子供ではないかもしれない。
三年前、結婚したときには、愛情に満ちた家庭をって言っていた。
ほんとうのところは、どうなのかな・・・

瀬藤の家に着いた。
瀬藤は一人だった。
ほかには招ばなかったの?って訊くと、
きょうはわしだけに独り占めさせてくれるって、みんな言うんじゃよ。
そんな返事が、返ってきた。

女たちを押し倒し、着衣を乱しながら血を吸い凌辱していく彼らなのに。
仲間内には、不思議な連帯感と思いやりの行き来があるのを、千代は知っている。
こういう街のことだから。
彼らはお互いの妻を交換して、血を吸ったり犯し合ったりしていた。
そうした、妻を共有するもの同士の関係だろうか――もっとも瀬藤は、独り暮らしだったけれど。
そういえば夫も必ず、千代を送り出すときには必ず玄関まで出てきて、
「瀬藤さんによろしくね」
そんなふうに、声をかけてくる。
あれは、少なくとも半分は本音だったのか。

「千鳥格子のスーツ着た女のひとを、襲いたかったんですよね?」
あからさまにそんなふうに言われないまでも、瀬藤の気分はじかに伝わってくる。
図星を言われて、瀬藤は無言の肯定を返していた。
「じゃあわたし、家の片づけをしますから。その間にお気が向いたらいつでも、襲ってくださいね」
何気ない家事をしている女性を、背後から羽交い絞めにして、首すじを咬むのが好みだと。
この街に身を落ち着けて初めてこの家を訪問したときに、露骨に言われたものだった。
以来、独り暮らしのこの家にくると、千代は必ず、瀬藤の身の回りの世話から入るのだった。

化粧はひときわ、念入りだった。いつもよりきっと、若く見えるだろう。
新調したスーツは完璧だったし、髪もきのう、わざわざ美容院に行ってセットするほどの気の入れようだった。
脚に通した肌色のストッキングは、もちろん新品。穿き替えももちろん、3足まで用意している。
そういえば、彼に逢うときには、ストッキングの着用は義務づけだった。

いそいそと台所に向かい、洗っていない食器を片づけて、
リビングでは散らかった新聞を折りたたんで積み重ね、郵便物までチェックする。
ひととおり、さしあたって必要なことを済ませたあたりが、要注意の瞬間だ。
瀬藤には、千代の器用さを頼りにしているところがあって、
こまごまとしたことは、わざと放置しているらしかった。
それらが片付いたあたりが、潮時、というわけだ。
きょうはいやにため込んでいるんだな。
いつもなら襲いかかってくるタイミングに、背中越しに彼の気配がしないのを感じながら、
千代はいつも手を伸ばさないところまで、整理整頓していった。

・・・?
ソファからいっこうに腰をあげない瀬藤の様子を窺うと、いつになく沈んでいるようだった。
もしかすると、荒々しいお遊びのできる体調ではないのかも。
彼の相手をする女性は何人かいたが、千代がいちばん若かった。
その千代が、この一週間ほどご無沙汰だった。
いけない、早く血をあげないと。
千代はいそいそと、瀬藤の隣に腰かける。
「ご遠慮なく、吸っていただいてよろしいんですよ。千代の血は、あなたに吸われるためにあるんですから」
「ああ、すまないね」
タイトスカートのうえに組んだ掌に置かれた瀬藤の掌は、意外に暖かだった。
「血は足りていらっしゃるの?」
「吸いたいが、飢えてはいない」
「そう、じゃあ私、ここにいますね」
「そうしてくれ」
20代の人妻の匂やかな色香が隣の男にどう作用するのか、じゅうぶんに心得ていた。
「なにかして欲しいことがあったら、遠慮なく仰ってくださいね」
夫も同意してくれていますから、と、わざと耳もとで囁いてみせる。

じゃあ、そのままそばにいてくれ。

え・・・?

聞き違えたのかとおもうくらい、ハードルの低さ。
千代は瀬藤の顔をまじまじと見つめた。

血も足りている。
女にもいまは、飢えていない。
ただ、そばにいてもらいたくて、お前を招んだ。

そうだったんだ。
千代は、ほっと身体の力を抜いた。
もう一年になるのに、やはり構えてしまうのは。
血を吸い取られるという行為が、生命の危機に直結していることを、本能で識っているからなのだろう。
そういえばいつも、この家にくるときには、心と身体のどこかが、こわばっていた。

物心ついたころにはお袋が、毎日吸血鬼の相手をしていた。
親父の幼馴染だった。
そのお袋がよく、相手の家に着ていったのが、千鳥格子のスーツだった。
あのときのお袋の後ろ姿を、いまでも忘れていないから。
たぶんあんたに、同じ服をきてもらいたかったんだろう。
あんたをご主人から、取り上げようとはおもわない。
ただほんの少しの時間でいいから、いっしょにいてもらいたいのだ。

――それは、千代がこの街に来て以来、もっとも欲していた言葉だった。

いいひとなんですね。
千代は瀬藤をまっすぐ見つめて、そういった。
そうして、瀬藤の両頬を両手で抑えると、真正面から口づけをした。
長い長い口づけだった。
姉が弟をあやすような、口づけだった。

あなた?ごめんなさい。今夜はお泊りさせていただくことにしたわ。
寂しくっても、泣かないでね。え?だいじょうぶ?
でもどうしても気になったら、覗きに来ても構わないって。瀬藤さん仰ってくださっているわ。
それから、たまに、たまーにでいいから。
これからも、瀬藤さんのお宅に、お泊りしたいの。
ううん、離婚なんかしない。あなたを愛しているから。
でも、約束して。私子供産むから。
その子の父親がだれであっても、あなたと一緒に育てたいの。
えっ?いつもの私らしくないって?今夜は、いやにはっきり言うんだね、ですって?
そう・・・ほんとうはもっと、私の本音をききたかったんだ。
だいじょうぶよ。あなたに売られたなんて思っていない。
私の浮気をあなたが許してくださるのを、心から感謝しているわ。
この街では、妻をほかの男に抱かせるのは、最上級の礼儀作法なんでしょう?もう、常識よ。
だから私たち、いちばんよくしてくださっている瀬藤さんに、
血を吸っていただいたり、夫婦同然に親しくして差し上げたりして、ご恩返しをしているの。
美穂子の披露宴のときには、もちろんびっくりしたけど。
いまではこういうの、いい関係だと思っているわ。
あなたの愉しみかたも、愛情の裏返しだと思っているから・・・恥ずかしがることなんか、ちっともありはしないわ。
披露宴のとき、おおぜいの方たちにエッチされて。
さすがにあのあとは、気まずかったけど・・・
でもあなたがその気になってくれて、その晩のうちに同じメンバーの方たちとお逢いして。
あなたはどこまでも気前のよいご主人で。
皆さんも私と、とても仲良くなってくれて。
きっちり、輪姦(まわ)していただいたあとは、私けっこうスッキリしてたの。
え?淫乱ですって?失礼ね。街の天使って呼んでくださいな。無理?
じゃあ、そろそろ切るわね。
あのひとさっきから、私のスーツのジャケットによだれを垂らして、迫ってくるの。
気になったら、いつでもこちらにいらしてね。
気になるわよね。妻の貞操の危機なんだから。
じゃ、おやすみなさい・・・
前の記事
強制デート  ~妻と吸血鬼との交際録~
次の記事
意識の変容。 2

コメント

コメントの投稿

(N)
(B)
(M)
(U)
(T)
(P)
(C)
管理者にだけ表示を許可する
トラックバック
http://aoi18.blog37.fc2.com/tb.php/3292-4d1c3ec0