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妖艶なる吸血

淫らな吸血鬼と倒錯した男女の織りなす、妖しいお伽噺・・・

木曜の夜の公園で。

2016年07月16日(Sat) 08:41:42

家に戻って。シャワーを浴びて。
それからもういちど、セーラー服を身にまとう。
いつもの白のソックスの代わりに、今夜は黒のストッキングを脚に通す。
まだ封を切っていないパッケージの、透明なセロテープに爪を立てて、
息をつめながら、擦りむいていって。
帯みたいに長い、なよなよとしたナイロン生地の、つま先をさぐっていって、
つま先の縫い目を、爪にあてがうようにして、
足首を包み、グンと引っ張り上げて、
肌の透ける薄地のストッキングは、ゆいの足許をみるみるうちに、大人びた色へと染めてゆく。

丈長のスカートの下、脚の輪郭をぴっちりと引き締めるナイロンの感触が。
ゆいをどこぞのお嬢さまに、変えてゆく。

「・・・行ってくる」
玄関までついてきたママ向かって、いつになく目を伏せてしまったのに、
目ざとく気づきながらも、なにも気づかないふりをして。
「気をつけてね」
ママはそう言って、ほほ笑んでくれた。
木曜の夜――それは、ゆいの家の近所に、吸血鬼が出没する夜だった。

ゆいは、吸血鬼の正体を知っている。
それは、同じクラスのテルキくん。
吸血鬼と人間の共存を目ざすこの街でも、彼の存在はやっぱり特異で、
図抜けた頭脳と体力の持ち主なのに――いや、それゆえかもしれないけれど――だれもが距離をおいていた。
木曜に吸血鬼が出没するという情報の出どころは、
部活で帰りが遅くなる、運動部の子たちだった。

やらしいんだよ、脚を咬むんだよ。
あたし、ストッキング破かれた。
あたしも。あたしも。
あれって、侮辱だよね・・・

口々にそういう彼女たちは示し合わせて、木曜の部活は休みにすると決めていた。
いつも翳のある顔をして、いつも遠慮がちに生きているテルキくん――
木曜の夜しか出没しないのは、人に迷惑のかかる吸血は週一と決めていたから。
そんな心優しいテルキくんのために、今夜の獲物になる子はもういない。

心をズキズキ、響かせながら。
おぼつかない足取りを、まれに行き交う通りすがりの人に悟られまいとして。
やっとたどり着いた、公園のまえ。
奥行きのある木立ちとか植え込みとか、身を隠す場所はいくらもあるのに。
テルキくんは独り、広場の真ん中に佇んでいて、
無防備な姿を、さらしていた。
そんな無防備なテルキくんのまえ――ゆいは無防備なセーラー服姿で、ひっそりと立つ。

テルキくんはちょっとびっくりしたように目を見開いて、「田沼さんか」とひと言呟く。
「木曜の夜だよ」って、警告するように、もういちど呟く。

わかっているの。
だから来たの。

低い囁きは、自分でもびっくりするくらいに、震えもよどみもなかった。

こっちへ。
テルキくんが公園の片隅の、木立ちの奥の、こんなところにベンチなんかあったんだ・・・と思うほど奥にゆいをいざなったのは。
ゆいに恥をかかせるのを避けるためだと、あとで気づいた。
ゆいをベンチに座らせると、
黒のストッキングを履いたゆいの足許に、テルキくんはひっそりとかがみ込んでくる。
薄地のナイロン生地ごしに吹きつける、かすかな息遣いの生ぐささに、
ゆいは思わず、ひざ小僧を閉じていた。
ぴちゃ・・・
男のひとのなまの唇を。
ストッキングをじわっと濡らす唾液の生温かさで、つぶさに感じ取ってしまっていた・・・

なよなよとした薄地のナイロンが、いびつによじれ、引きつれていって、
でも、
ゆいのひざ小僧を抑えつける強い掌が。
くり返しなすりつけられてくる、熱い唇が。
逃げられないようにと、プリーツスカートの腰まわりに巻きついた、もういっぽうの腕が。
謝罪と感謝とを、くり返してくる。

だれかが言った。
ストッキングを咬み破くなんて、侮辱だわ。
果たしてそうだったのだろうか?
熱い唇のすき間から、尖った牙がチロチロと滲んできて。
とうとう我慢を耐えかねたように、牙という名の硬い異物が、ゆいのふくらはぎに埋め込まれる。
薄いストッキングが、パチパチと音をたてて、はじけていった。
ほんとうにこれは、侮辱なのだろうか?
通学用のストッキングをよだれまみれにされて、ひざ小僧が覗くまで咬み破られてしまうのは
たしかに羞ずかしかったけど・・・でも侮辱は感じなかった。
テルキくんは謝罪と愛情をこめて、ゆいの履いているストッキングを、みるかげもなく裂き散らしていった。

ひ・ん・け・つ。。。
身体を支えることができなくなったゆいは、「ゴメン」といって、ベンチのうえで姿勢を崩す。
身体を入れ替えるようにして。
ゆいの足許にずっとかがみ込んでいたテルキくんが、ゆいの上におおいかぶさってくる。
街灯に照らされたテルキくんの頬には、ゆいから吸い取った血潮が、べっとりと貼りついていた。
「ホラーだね」
思わず呟いたゆいに、
「そっか・・・?」
返って来た相槌は、いつものままのテルキくんだった。
「ゆいの血、美味しい?」
「・・・」
自分をうまく表現できないテルキくん。
いまは、黙って頷く力の強さに、満足を感じておこう。

ゆいは息をつめ、それから囁いた。
「首すじ、咬んでもいいよ」

貧血なんだろう?
だいじょうぶ。
顔色蒼いぜ?
だいじょうぶ。
家のひと、心配してないか?
だいじょうぶ。

まるで、テルキくんのお姉さんでもなったみたい。
しばらくためらっていたテルキくんは、やはり渇いていたのか・・・自分の本能に身をゆだねていった。
首のつけ根にチクリと走る、かすかな痛み――
セーラー服のえり首が汚れないよう、テルキくんはゆいの首すじに唇を密着させて、
チュウチュウと音をたてながら、ゆいの血を大事に大事に、啜り取っていった。

木曜の部活は、もうないの。
でも代わりにゆいが、公園に来てあげる。
あなたの好きな、黒のストッキングを履いて――あなたの欲望のおもむくままに、裂き散らさせてあげる。
潔癖で気の小さいお嬢さまは、あなたの渇きを処女の生き血で癒してあげる。
あお向けになったまま見あげる今夜の月は、ひどく蒼白く澄み渡っていた。


あとがき
前作に寄せられたコメントに触発されて、サクッと描いてしまいました。(^^)
前の記事
勤務中の夫君は、ご機嫌斜めである。
次の記事
クラス委員のストッキング

コメント

ゆいが吸血されるストーリーに、何かしらゾクゾクっとするものを感じました。
前回に読んだストーリーで、あたしが感じた願望を柏木さんが的確に文字にしていただいた気がします。

柏木さんの吸血鬼ストーリーにのめり込んでいきそう。
そう、あたしも既に吸血された、ひとりなんですものね。
by ゆい
URL
2016-07-16 土 21:30:12
編集
> yuiさん
改めまして、いらっしゃいませ。^^

セックスと同様、吸血行為にも
悪意に基づくそれと、愛情に由来するそれとがあるようです。
弊ブログで展開する吸血行為が後者であることは、いうまでもありません。

ゆいさんが進んで献血に応じ、ストッキングを咬み剥がれるという恥辱をあえて受け入れたのは。
きっとそうしたことへの感受性が、ほかの女子よりも鋭かった――といえるかもしれません。

ココはどちらかというと、旧作のほうがいいかもしれません。
テーマがまちまちなので、ご嗜好に合ったカテゴリを御覧になってみてくださいませ。

おひまなときに、拾い読みしていただけると嬉しいです。
(*^^)v
by 柏木
URL
2016-07-16 土 22:23:27
編集

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