淫らな吸血鬼と倒錯した男女の織りなす、妖しいお伽噺・・・
真夜中の公民館
2016年08月29日(Mon) 01:12:12
月に一度のその夜は。
吸血鬼と人間とが共存するこの街では、お決まりの夜。
男たちは妻や娘、姉や妹を家に残して、公民館で宴を張る。
家に残った女たちは、よりどりみどり。吸血鬼の餌食にされる。
もちろん、生命の保証はあっての好意――でも、貞操は無事では済まされない。
血を吸った女の操は犯すのが、彼らにとっては礼儀なのだという。
襲った女が魅力的だったことの証しとして、愛していくのだから。
少年のころ、父に連れられて宴会に行った。
そこでは大人たちがお酒で顔を赤くしていて、ぼくたち子供は隅っこで小さくなっていた。
父はしばらくの間、口数少なくその場にいたが、やがて堪えられなくなったらしい。
留守宅で母と姉とが、ムザムザと吸血鬼の餌食になることが。
「おまえはここにいなさい」そう言い残して、父は家へと取って返した。
よせばいいのに・・・という人と。
そこは気になるだろうさ・・・という人と。
父の背中に投げられた囁きがそう冷たいものではないことに、ぼくは安堵を覚えていた。
黙認の形で公民館まで逃げてくれば、まだしもかっこうはつく。
けれども吸血鬼たちに侵蝕されている真っ最中のわが家に戻れば――そこから先は、どうなるのだろう?
やがてぼくも、ガマンできなくなって、
「ぼくも気になるから」
大人の人に、そう告げてそこを出た。
よしなよ・・・という声と。
まあまあ・・・と、その声の主を引き留める声とを、
さっき父が出ていったときと同じように、背中で聞いた。
家に着くと、そこは真っ暗だった。
電気をつけようか・・・と思ったけれど、なぜかそうしてはいけないような気がして、手を引っ込めた。
洋間の手前で父が倒れていた。
父はかろうじて意識はあったけれど、寝ぼけたような顔をしていて、なんかとりとめもないかんじだった。
母と姉とをかばってさいしょに血を吸われ、理性を引き抜かれたうえで、すべてを見届けてしまったのだと――あとで知った。
奥の部屋には布団が二対敷かれていて、それぞれの布団のうえに、母がいて、姉がいた。
どちらも吸血鬼が一人ずつのしかかって、必死で腕を突っ張る母娘のうえに、黒い影をおおいかぶせていた。
ドキドキしてきたのは、そのときだった。
いつも厳しい母が。
いつもきちんとお行儀のよい姉が。
見慣れたよそ行きの服を着崩れさせて、おっぱいや太ももをちらつかせながら、
眉をひそめているのに、どこかキモチよさそうで、止めてほしくないようすで。
吸血鬼を相手に、ぼくの識らないひと刻をともにしている。
そのことへの嫉妬と悔恨と、正体不明の不思議な昂ぶりとが、
半ズボンのなかに押し込んであるものを、勃ちあがらせていった。
あの。
ぼくはどちらの吸血鬼にともなく、言っていた。
昂ぶりに震える声で――
ぼくの血も、吸ってください・・・
母におおいかぶさっていたほうが、起きあがって、ぼくのほうへと向きなおった。
母は布団のうえにあお向けになって、首から血を流したまま息をぜーぜーさせていた。
「来ちゃダメじゃない」
母親らしく洩らした声が、咎めながらも受け入れてくれていた。
ハイソックス履いているんだね。女の子みたいでいいな。
吸血鬼はそういうと、ぼくを畳のうえに抑えつけて、首すじを咬んだ。
ちゅうっ・・・
ほかのみんなと同じようにされて、ぼくは我を失っていった・・・
男の手は、半脱ぎにされた半ズボンのなかにまで、伸びてきて。
お尻に突き込まれてきたものの正体はぼくにもよくわかったけれど、
しまいまでわからないふりを、し続けていた。
その夜からのことだった。
ぼくが姉の服を借りて女装をして、家にとどまって吸血鬼の相手をするようになったのは。
そのころからのことだった。
家にとどまった夫たちが、知人たちにも家にとどまることをすすめて、
だれもが家に居るようになって、公民館での宴会が途絶えたのは。
- 前の記事
- ぼくの純潔。
- 次の記事
- 悪友の部屋。
- 編集
- 編集
- トラックバック
- http://aoi18.blog37.fc2.com/tb.php/3313-745b4cce