淫らな吸血鬼と倒錯した男女の織りなす、妖しいお伽噺・・・
発表会の帰り道
2016年09月29日(Thu) 08:08:33
「お願い!今夜は襲わないで!あたし、明日が発表会なの!」
いつものように路上の壁ぎわに追い詰められながら、優佳子は手を合わせて懇願する。
半年に一度の発表会なのだという。
優佳子の血が目当てで、週三回のレッスンのすべてを待ち伏せているその吸血鬼は。
いまはすっかり彼女の生き血に魅せられていて、
いっぽう優佳子のほうもまた、彼のことを憎からず思っているものか、
せっかくのよそ行きの服をくしゃくしゃになるほど弄ばれながらの吸血を、
うつむいて目をつむり、従順に受け容れているのだった。
懇願する少女をまえに、男はかろうじて自制して、獣じみた息遣いを、無理に抑えつけていた。
「ありがとう。ごめんなさい。お礼はきっとするから・・・」
こういうときの感謝の言葉が、往々にしてただの言い逃れになることを知りながら、
男は少女の夢を壊すことを、かろうじて控えるのだった。
逃げ去った少女と入れ違いに、視界の彼方から近寄ってくるのは、少女より少し年上の娘だった。
着ているセーラー服は、近在の高校の制服だった。
男は見境なく少女のまえに立ちはだかり、つぎの瞬間強引に抱きすくめていた。
首すじに牙を埋められた少女の叫び声が、あたりにこだました。
翌日のこと。
ご自慢のピンクのワンピースを着た優佳子は、両親に連れられて誇らしげに、教室の門を出た。
どうやら発表会は、上々の出来だったらしい。
お邸を出てすぐ、物陰に隠れている男を、優佳子は目ざとく見つけると、
両親になにごとか囁いて、跳ねるような足どりで男のほうへと歩み寄る。
「きのうはありがと。おかげで演奏うまくいったわ」
「そいつはよかった」
「お礼するわね。おニューのハイソックス、小父さんのために履いてきたのよ」
優佳子はイタズラっぽく、小父さまにウィンクをする。
向こうでは、父親の手を母親が引いて、向こうへと促していた。
「先に帰りましょ。あのひともガマンしてくれたみたいだから、きょうは二人っきりにしてあげたいの」
小父さまと手をつないで、スキップをしながら離れていく娘を見やりながら。
「大人になったわね、あの子」
母親は薄っすらと、ほほ笑んでいる。
薄闇の彼方に消えてゆく、真っ白なハイソックスに包まれた軽やかな足どりは。
一時間もしたら、小父さまに抱き支えられながら、ふらふらと後戻りしてくるのだろう。
真っ白なハイソックスの足許を、赤黒いまだら模様に彩りながら。
しつように愛された痕跡に、夫は今夜も昂るのだろうか。
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