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妖艶なる吸血

淫らな吸血鬼と倒錯した男女の織りなす、妖しいお伽噺・・・

墓場で妻を襲われて。

2016年10月02日(Sun) 08:51:16

血を吸われつづけて、意識が遠のいていくなかで。
錯覚だったのだろうか?
囁く声を俺は聞いていた。

あんたは死んで、吸血鬼になる。
そうなったらあんたも、わしらの仲間。
血の吸いかたを、教えてやろう。
この村ではな、吸血鬼と人間とが、仲良う暮らしておる。
じゃから、相手を死なせるわけにはいかんのじゃ。
人の血を吸うには、作法を知らねばならん。
それを教えてつかわそう――あんたの女房を襲ってな。
それとも・・・あんたの留守中に、女房を好きなようにされたいか?

さいごの問いに激しくかぶりを振ると、男は言った。
じゃあ、あんたが吸血鬼になるまで、待ってやる。
女房の生き血は、あんたと分け取り。約束じゃぞ。

そして、約束は守られた。

冷たい風の吹きしきる、真夜中の墓場のなかで。
キャーッという悲鳴を聞いたのは。
遠のいた意識が戻ってきた直後だった。
はっと目が覚めたようになって、辺りを見回して。
自分が吸血鬼になったこと、ここが自分が弔われた墓場であること、
そして――さっきの悲鳴の主が、妻であることを瞬時に察した。
俺は、悲鳴の音源を求めて小走りに駈けた。
“探索”は、すぐにおわった。
墓場の隅っこの草むらから、女の脚が一対、大の字になって伸びていた。
黒のストッキングを穿いた、肉づきたっぷりのふくらはぎ――
妻のものだと知りながら、ついもの欲しげに眺めてしまったとき。
俺は自分のなかの吸血鬼を、改めて自覚した。

よう。
俺の血を吸ったやつが、草むらのなかから顔を出す。
頬をべっとり濡らす血は。
妻の身体から吸い取った血――
俺ははらわたの煮えるのを感じ、その焦燥が生理的な渇きにとって代わるのを感じた。

無理するなよ。喉、渇いているんだろ?
男の語調に、揶揄の響きがないのが救いだった。
目のまえが昏(くら)くなって、気がついたら妻のうえにのしかかっていた。
ここを咬むんだ。
男は妻のおとがいをあおのけて、咬み痕の浮いた首すじを見せつける。
いきなり食い破るんじゃねえぞ。そう言われながら。
俺はやつの唾液の浮いた傷口を避けて、咬まれてない側の首すじに食いついていた。
ぬるいぬくもりを帯びた柔らかい液体がビュッ!とほとばしり、頬を生温かく濡らすのを感じた。
あっ、やっちまった!
男は俺を力任せに押しのけると、妻の首すじから噴水のようにあがった鮮血を喰いとめにかかる。
強く咥えられたうなじから噴き出る血の勢いが収まるのに、しばしの刻がかかった。
そのあいだ。
俺は妻のようすを気づかわしく見守っていたけれど。
妻は意識を取り戻す様子はなく、吸血鬼の腕のなかでぐったりその身をゆだねていた。
アブねえだろうが。
男は静かな声で俺を咎めると、それ以上咎めつづけようとはしないで、俺に吸いかたの手本を見せてくれた。
妻が男の腕のなか、夢見心地のまま吸われるのを見ながら、俺は人の血を吸う作法を目で覚え込んでいた。

奥さんを正気づかせるぞ。
男はそういうと、もういちど妻の首すじに咬みついて、吸い取った血をほんの少しだけ、戻してやる。
妻は薄っすらと目を開いて俺を見つめ、
びっくりしたようにその目を見開いて、
それからわが身を抱きすくめる男を上目遣いで見あげる。
見あげた瞳に媚びが泛ぶのを、俺は見逃さなかった。

ホントに・・・吸血鬼になっちゃったの?
ひそめた声は低く震え、生身の女の気配がじかに伝わってくる。
植えつけられてしまった本能が、またもや鎌首をもたげる。
ほら、咬んでみな。
男は俺の背中を、押していた。
俺は妻の首すじに食いついたが、妻は無抵抗にそれを受け容れる。
ほろ苦い血潮の香りが鼻腔に満ちて、俺は芽ばえかけた本能を覚え込んでいく。
いままで識らなかった快感が、どす黒い意識の泥沼の中、鮮やかな蓮のように花開く。

身を離したとき、目線を合わせた妻は、なぜか後ろめたそうに目をそらす。
後ろめたい想いなど、なぜ芽ばえるのか。
俺が妻にした以上に後ろめたいことでも、したというのか。
でもそれは、泥道の上に伸びた黒ストッキングの脚を見たときから、察しがついていた。
吸血鬼はセックス経験のある女を襲うとき、血を飽食したあと肉も愉しむものなのだ  と。

かまわない。この男は俺の兄弟だ。
俺の出まかせは、少しは妻の気持ちを救ったらしい。
そうなの?
理解し切れていないゲームのルールを反芻するように遠い目になった妻を、
男は俺の腕から横抱きにして奪い取り、再び首すじを咬んでゆく。
片方の手は裂けたブラウス越しに胸を揉みしだき、
もう片方の手は、たくし上げられた喪服のスカートの奥深くをまさぐってゆく。
ふたりの痴態を俺はただぼう然と見つめつづけ、
その間にすっかり飼いならされてしまった妻は、さいしょはためらいがちに、
やがて――これ見よがしに振る舞いはじめる。

男は妻を犯しながら、昂ぶりをこらえかねている俺を横目で見ると、
代われ。
ひと言告げると、瞬時に身体をすり替えてゆく。
気がつくと、腕のなかの妻は、いままでにないほどの喘ぎを、まるで娼婦のように発散していた。

儀式は、夜明けまでつづいた。
妻は自分を奴隷にした男に、丁寧に頭を垂れると、俺のほうにウィンクをして、
「またね」と、小手をかざすようにして手を振った。
ヒールの折れたパンプスを片手にぶら提げ、破れ果てたストッキングを穿いたままの脚で、のろのろと歩み始める。
頬は青ざめ、目はうつろ。
髪はボサボサになって夜風に流れ、裂けたブラウスからは胸元もあらわに、まるで酔っ払いのようによたよたと歩み去ってゆく。
安心しな。
あんな恰好で街なかを歩いたら、うわさはいっぺんに広まるだろう。
だからといって、あんたの奥さんの不名誉にはならない。
ここは、そういう街だから。
吸血鬼の女になった後家に言い寄る男は、この街にはいない。
あんたの女房は、わしらの大切な共有財産じゃ。
もちろんわしらは、奥さんの血も吸うし抱きもする。
けれども、おろそかに扱うことは決してない。
あんたは好きなときに家に戻って、また奥さんと暮らせばいい。
じゃが、奥さん目当てにわしらがかける夜這いを、あんたは拒むわけにはいかない。
仲良くやろうぜ・・・

男の言いぐさに、さいごまで揶揄や嘲りはなかった。
ただ、そこにあるのは共犯者としての想いだけ。
俺はやつのいうことすべてに、頷きつづけながら。
墓場の入り口から出てゆく妻が、なんの躊躇もなく半裸の姿を街なかにさらすのを、見届けていた。
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