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妖艶なる吸血

淫らな吸血鬼と倒錯した男女の織りなす、妖しいお伽噺・・・

墓場で妻を襲われて。 ~拒絶する夫の場合~

2016年10月02日(Sun) 09:24:39

すまないが、協力することはできない。
相手の口から出たおぞましい申し出に、わたしはとっさにかぶりを振った。
ここは、夜風の冷たい墓地。
どうしてこんなところにいるのかは、すぐに察しがついていた。
最後に意識があったのは
赴任したばかりのこの街の事務所の一角で、取引客と称する地元の男に、血を吸われているときだった。
わたしよりもずっと年配のその男は、ひと月のあいだになん度となく顔を合わせていたが。
ある日スッとわたしの傍らに寄り添うと。
――ずっと、あんたの血を狙っていた。
そんな風に囁くなり、だしぬけにわたしの首すじを咬んでいた。

ドロッと流れ落ちた血がワイシャツを濡らすのを、かすかに意識して――それが残った意識のさいごだった。
初七日だよ。おめでとう。
男は、わたしが亡くなって初七日の夜が今夜だと告げる。
「おめでとう」という祝い言葉が、はたしてどこまで適切なのか――逡巡するわたしに、男は囁いたのだった。
――今夜、あんたの奥さんが墓詣りに来る。さいしょに襲わせてもらいたいから、手引きをしてくれないか。
とうてい、受け入れがたい提案だった。


仕方ない。じゃあ、ほかのもんとやるから。
視たくないのなら、あんたはここで待ってな。
男はそういうと、背後に連れ添う数個の人影とともに、その場を立ち去った。
取り残されたわたしは、地に根が生えたように、身じろぎもできない。
男に従って闇に消えた者たちのなかに、顔見知りのものたちがいたような気がするが、
頭の中がまだはっきりしないいまでは、それさえ定かではなかった。

一時間後。
男は影たちをひき従えて、戻ってきた。
背後の影たちは、言葉を交し合っていたが、なにを話しているのかは聞き取れなかった。
「あんたの奥さんを襲ってきた。ご馳走になった」
先頭を切って歩み寄ってきた男がそういうと、背後の影たちはしゃべり止んだ。
むしょうに、涙が出てきた――妻も殺してしまったのか。
男はわたしの心を読むように、適切な言葉をかけてくる。
「安心しな。相手が女の場合、一回の吸血で死なせることはしない。
 というよりも、死んで吸血鬼になるほうが、例外なのだとわかってほしい」
この街では吸血鬼と人間が仲良く暮らしているから、人間は進んで生き血を吸わせてくれるし、吸血鬼も相手を死なせるようなへまはやらないというのだ。
相手が気のりをしない時には遠慮するくらいの気持ちは、持ち合わせているんだぜ?
男のいうことは、たぶんほんとうなのだと、わたしは悟った。
気になったのは、「相手が女の場合、一回では死なせない」という言葉――どういう意味だ?

男はやはり、そこでわたしの心を読んだらしい。すぐに応えてくれた――わたしの最も聞きたくないようなこたえを。
「血を吸った後、セックスするのさ。こいつらも(と、影たちのほうをふり返って)手伝ってくれたから、あとからお相伴だ。
 奥さんは、夕べまでは男はあんたしか識らなかったようだが――今夜だけでもう五人、男を識ってしまった。
 これからもまだまだ、識るだろう」
なんてことをっ!!
わたしは男に詰め寄り、殴りつけている。
男はわたしに殴られるままになっていたが、やがて口許からわずかに血を噴いた。
口許に飛び散った、鮮紅色のしずく――妻の身体から吸い取られた血だ、と、直感した。
わたしはとっさに、よろける男を抱きとめていた。
「ああ・・・いいんだよ。あんたの気持ちはもっともだ。
 だが、ほんとうはあんたに手伝ってもらいたかった。
あんたがあの場にいてくれたなら、奥さんもあんなには逃げ回らなかったし、
怖がる必要もなかったのだから。
初めて血を吸われるときには、身内の者が居合わせたほうが、女も心強いものだからな」
そんな理屈があるのか?立ちすくむわたしに、影たちが声をかけてくる。

すまないな。みんな、奥さんの血吸って、そのあと抱いてしまった。
お礼に、俺たちの女房の番がきたら、あんたも襲ってもらってかまわないんだからな。
よく見ると、影たちのほとんどが、勤め先の同僚だった。

「この中で、吸血鬼にまでなったものはおらん。
だれもが自分の女房を、わしらにただ食いされるのを黙って目こぼししてくれておる。
じゃからお礼に、こういう場に招待してやるんじゃよ。悪く思うな」
男は黙って、大きな杯に注いだ液体を、わたしのまえに突きつける。
「飲め」といわれた盃の中身は、真っ赤な液体――それがだれのものかは、言われなくても察しがついた。
渇きという本能が初めて芽ばえた。
眩暈を覚えたわたしは、盃を受け取ると、みなまで飲み干してしまっていた。

それ以来。
影たちは夜な夜な、それぞれの妻を伴い墓場にやって来た。
彼女たちは皆、こうした応接に慣れているようだった。
夫たちは自分の妻を後ろから抱きとめると、おとがいを仰のけてくれ、
わたしは吸血鬼から教わったやり口で、彼女たちのうなじに、唇を吸いつけゆく。
生温かくほろ苦い血潮が、渇いた喉をたっぷりと潤すまで、彼らは儀式をつづけてくれた。

四十九日の夜のこと。
男はわたしに「おめでとう」をいい、わたしは素直に「ありがとうございます」と、応えている。
男がわたしのために携えて来たのは、ちっぽけな盃などではなかった。
そう、影たちが連れてきたのは、わたしの妻。
わたしの留守中、彼らの訪問を頻繁に受け容れたらしくって。
しばらく見ないうちに、すっかりけばけばしい女になっていた。
化粧は濃くなり、髪を染め、けれども厚化粧の下の清楚な目鼻立ちは、かわっていなかった。
なるほど夫を弔うための喪服は身に着けていたけれど、
スカート丈はひざ上で、黒無地だったはずのストッキングは、毒々しい網タイツに変貌している。

ごめんなさい。喪服を破られちゃったの。黒のストッキングも、全部咬み破らせてあげちゃったの。
言葉ではしおらしく謝罪を繰り返す彼女だったが、悪びれるふうはない。
でもわたしは、そんな彼女を抱きしめている。

留守をよく守ってくれたね。
もうじき、家に帰るから。
そうしたら二人して、客人をもてなそう。
妻はわたしの腕のなか、こくりと頷いていた。

真奈美の血は、吸わせていないの。
あの子ったら、最初にお父さんに吸わせてあげたいって言っているの。
家に帰ったら、襲ってあげてね。
股間の昂ぶりをスカート越しに感じたのか、妻はわたしを見あげると、
しょうがないわね。と、笑った。
わたしも妻を見つめると、
みんなの相手をしてあげて、と、笑って言った。

ウフフ。
妻は娼婦の本性をあらわにして、身をくねらせて男を誘う。
今夜はおおっぴらの宴――
夜明けまでつづく儀式を、わたしはほかの妻たちにそうしたように、ただの男として愉しみ抜いてゆく――
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