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妖艶なる吸血

淫らな吸血鬼と倒錯した男女の織りなす、妖しいお伽噺・・・

煙草

2016年11月18日(Fri) 07:36:23

血ィ、吸われなすったね?
独り煙草を吹かしていると、初老の男が通りすがって、そんなふうに声をかけてきた。
エエ、まあ・・・
わたしがあいまいに返事をすると。
まぁ、この街のモンはたいがいそうだから・・・
と、さりげなくマフラーをずらしてみせる。
赤黒い咬み痕が、綺麗にふたつ並んでいるのを認めると。
見ず知らずだったその男に、不思議な親近感がわいてきた。
あんた、もともとこの街のモンじゃなかとね?
男がわたしの顔を覗き込む。
去年越してきたばかりです。
ああ・・・やっぱりね。
男はそういう顔をすると、「都会の会社さんにお勤めされとるね」とだけ、いった。
どうやらわが社は、この街では有名な存在らしかった。
そうすると、ご家族で来られとるんじゃね?
たたみかけるよう男はいう。
エエ、女房と息子がいるもんで・・・
じゃ、奥さんももう、咬まれておりなさるね?
図星を突かれたわたしは、ごくたんたんと、開き直っていた。
だからここで、煙草を吹かしているんですよ。
そう。妻の生き血を目あてに情夫が上がり込んできたときは、
私は気を利かせて座をはずし、いつもこの公園で煙草を吹かすのだ。
吸い切った煙草を放り捨てて踏みにじると、
それじゃあもう一本。
男はさりげなく自分のポケットから煙草を出して、わたしにすすめた。
まるで、「座布団一枚」と、言われた気分だった。
ちょっとだけ躊躇して、結局煙草を受け取ってしまっていた。
男はわたしの隣に腰かけて、自分も一本取り出して、火をつけた。
よくまあ、物好きに、この街に来なさったね。
都会にいられなくなったからですよ。すべて承知のうえで、こっちに来たんです。
清水の舞台から飛び降りる思いで・・・とは、よくいったもの。
舞い降りてきたこの街は、はたして地獄なのか天国なのか。
この街に棲む不特定の吸血鬼に、夫婦ながら血を吸われ、
妻は日常的に浮気をして、それを認めさせられている。
そんな日常の裏側を抜きにすれば、この街での暮らしは決して悪くはなかった。
勢いよく吸い込んだ紫煙の香りが、すがすがしいほど焦げ臭く、肺腑に満ちる。
ふと気がつくと。
男はわたしの手を握りしめ、自分の掌に握りしめたものを、わたしの掌へと移動させる。
一万円札だった。
うちに来たいなら、これはいらない。
わたしは男にお札を返すと、男はばつの悪そうな顔をした。
でも、そうまでしてくれるあんたの顔をつぶすつもりはないから。
わたしがそういうと、男は納得した顔になった。
ウチ妻、どこかでお目に留まったんですか?
わたしがいうと、
すでに友達が三人、奥さんのお世話になっている。
だったらなおさら、わたしがこんなことで小遣い稼ぎなどしないたちだとわかってくれてもよさそうなのに。
ねだられるままに煙草を一本おすそ分けすると、男はいった。
煙草代は受け取ってくれるよね?
――わたしは自分の女房を、たったの百円で売り渡していた。

自分が知り合った男を、妻に引き合わせ、襲わせる。
そんな行為に面白味を覚え始めたのは、ごく最近だった。
さいしょに妻を抱いた男が、わたしに無断で妻のことをまた貸しし始めたとき。
さすがに抗議をしたわたしに、彼は言ったものだった。
あんたもそうして構わないんだから。
無茶苦茶な理屈に、なぜか納得してしまったわたしは、その晩行きずりの男に声をかけ、妻を抱かせてしまっていた。
妻はわたしがひき込んだ男なら、どんな老爺でも、どんな醜男でも受け入れて、
素直に服を、脱がされていった。
わたしが視たいというとさすがに恥ずかしがったけれど、拒否することはしなかった。
あしたもきっと、わたしはこの公園に煙草を吸いに来る。
そして、わたしの評判を聞きつけている誰かが、わたしの妻を目あてに、わたしの隣で煙草をすすめてくるのだろう。
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