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妖艶なる吸血

淫らな吸血鬼と倒錯した男女の織りなす、妖しいお伽噺・・・

市庁舎職員の応接 ~都会めかした女~

2016年11月23日(Wed) 22:20:29

こんな狭くて古い街からは、とっととおさらばしたかった。
その直感は、正しかった。
こんな街にとどまったばかりに、俺は正常な結婚をしそびれてしまった。
親のコネで安定した収入を得られるという誘惑に屈して、自ら街から脱出する希望を捨ててから、すでに数年経っていた。
街に吸血鬼が侵入してきて、都会でも味わうことのできない愉しみを体験する羽目になるとは、
つい先週まで思いもよらなかった。

その部署に突然配属された俺は、部屋に入って来た黒ずくめの男に目を見張ると、
――ああ、あんたはまだだったんだな。
その男はそう呟くと、俺と真向かいに近づいてきて、首すじにどす黒い衝撃をぶつけてきた。
気がついたらその場に尻もちをついていて、眩暈のむこうにそいつがいた。
俺はそいつに血を吸われながら、もっと吸ってくれと頼み込んでしまっていた――

吸血鬼と知れた黒影どもは、市役所庁舎でももっぱら、この隔離された空間だけにやって来る。
どうやら俺たちは、吸血鬼から市民を護るための防波堤にされたらしい
――そう感じたときにはもう、その理不尽な方針を、むしろ進んで受け入れていた。
それくらい。やつらの牙に含まれた毒は、俺たち職員の理性を一瞬にして奪ってしまっていたのだ。

隣の席になった関野真美子は、採用年次がひとつ下。
俺が大卒で向こうが短卒だから・・・齢はいくつ若くなるのだろう?
都会に出たら、うようよいそうな。
そして、この街には珍しく。
けばけばしい美貌と、斜に構えたすさんだ雰囲気とを持っていた。
「おいでなすったわね。じゃあ私、お勤めしてくるから」
真美子は蓮っ葉なちょうしでそういうと、
洗練されたスーツ姿をひるがえして、自分のほうへと迫ってくる黒影に、真正面から歩み寄る。
がっちりと抱きすくめられ、うなじを吸われ・・・それらいちぶしじゅうがすべて、俺のすぐ目の前での出来事。
影は、真美子の血を美味そうに吸い取ると、荒縄を巻くように羽交い絞めにした猿臂をほどき、
女の細い肩に手を置いて、隣室へと促してゆく。
そこでなにが行われるか――大人の男なら、だれだってわかろうというものだった。

鎖されたドアのほうへと、恐る恐る足を忍ばせて。
真向いになったドアの向こうの、極彩色の情景を思い描きながら、鍵穴に目をやると。
後ろからそうっ・・・と背中に手を置かれ、ぎょっとする。
「まったくぅ。油断も隙もないわね」
しらっとした冷めた目つきは、都会の女の瞳――部屋の中に消えたはずの真美子が、なぜか俺の後ろにいる。
「夢見てるんじゃないわよ」
薄ぼんやりとした視界の手前で、パーに開いた掌をひらひらさせて、
目のまえでドアのカギを、カチャリとかける。
かけたカギはとたんにはずされ、再び開かれたドアの向こう、真美子はもういちど、しらっとした目を俺に注いだ。
「視たけりゃ、視たっていいんだからね。あほらしいから、開けとくわ」
部屋の奥にしつらえられたソファのうえ、吸血鬼はふんぞり返って、俺のことを面白そうに窺っている。

「きゃ~、愉しんじゃおうよ~♪」
真美子は吸血鬼のひざの上に乗っかると、
千鳥格子の派手な柄のジャケットの襟首をくつろげて、
男の手を自分から胸の奥へと導いていって。
もう片方の手で、同じ柄のタイトミニのスカートのすそを、お尻が見えそうになるまでたくし上げてゆくk。
目の毒だ・・・目の毒だ・・・
俺の理性は、ドアを閉ざしてこのまがまがしい光景から視界を隔てようとしているけれど。
俺の両手は、痺れたように動きを止めて、
俺の両目は、男の見栄やおざなりな理性など軽く裏切って、
きりっとしたスーツ姿を身分から着崩れさせてゆく真美子の応接の、いちぶしじゅう見届けてしまっていった。

「あの人たちさあ、処女は犯さないんだって。
でもあたし、高校の時にもう姦っちゃってたから、職員の女の子たちの前で、真っ先に抱かれたわ」
参っちゃったなァ・・・
かなりすごい体験をしたはずなのに、
それさえも、悪戯を見つかった悪ガキみたいにきまり悪そうに頭を掻き掻き、あっけらかんと笑い飛してしまう彼女は、
来る日も来る日も訪れる吸血鬼のため、他の女子職員たちに交じりながら、
ときには同時に複数の吸血鬼を相手にして、
だれよりも積極的に相手を誘って、
他の女子職員のお手本みたいに、真っ先によがり声をかしましくたてるのだった。

「ねぇ、あたしと結婚しない?」
出し抜けな問いかけにぶっ飛びそうになった俺に、
「本気なんだけどさあ」
都会の女めかした瞳には、話題をそらさせない真剣味がこめられていた。
どうして俺なんだよ・・・?
言いかける俺に、女はどこまでも素直じゃなかった。
「ひとに知られたくない秘密を、あんたがいちばんよく知ってくれちゃっているからさ」

結婚しても、あのひとたちは来るからね。
新居に遊びに来るからね。
そしたら悪いけど、あたしあのひとたちの相手するから。
お義母さんが咎めたって、ダメ。
むしろ、ごいっしょしたいわ。
だってそのほうが、話がはやいもの。
ほんとはね。
お義母さんを手籠めにしたがってる吸血鬼がいるの。
お義父さんには、あたしが話をつけるから。任しといて。
ぜったい、ぜったい、家内安全、夫婦円満、間違いなしよ。

そんなはずが、あるはずがない。
なん人もの吸血鬼に新妻の血を吸われ、ことのついでにモノにされてしまう日常――
けれども俺は、彼女の問いに頷いてしまっていた。
この街では、都会にはない世界がたしかにある。
間違いなく、存在する・・・


あとがき
9月3日製作、本日翻案脱稿。
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ぼくは同級生の人気者。

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