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妖艶なる吸血

淫らな吸血鬼と倒錯した男女の織りなす、妖しいお伽噺・・・

ウェディングドレス姿の母

2016年11月24日(Thu) 06:44:04

挙式の2日前のことだった。
婚約者の理佐子を連れて実家にあいさつに行くと、両親は奥の開かずの部屋で、ぼく達を迎えてくれた。
20年以上住み慣れた家なのに、その部屋にぼくは、まだ入ったことがない。
開かずの間の中は、家具のほとんどないだだっ広い洋間で、いちばん奥にベッドがひとつ、しつらえてある。
ぼくが驚いたのは、そのときの両親の服装だった。
まるで自分たちが結婚するみたいに、父はタキシード。母は純白のウェディングドレス。
「ごめんなさいね、理佐子さん。あさっては貴女が着るはずなのに」
そういって恥じらう母は、かつてアルバムで見た両親の挙式のセピア色をした写真と違和感がないくらい、若やいで見える。
ぼくがそれ以上にびっくりしたのは、その後の母の言葉。
「よく見ておいてね。タカシさん。お母さんあなたたちの前で、吸血鬼に抱かれてみせるから」

一家の秘事を未来の息子の嫁の前で軽々と告げた母は、父に一礼すると、
父は窓を開いて、庭先に佇んでいた黒衣の男を招き入れる。
招き入れられた男は、ぼくもよく知っている、父よりもずっと年老いた紳士。
黒衣の男は白一色の衣装の母に迫って、抱きすくめて首すじを咬んだ。
じつはなん度ものぞき見していた、母の秘め事。
理佐子はぼくの隣で、やはりぼう然として、事の成り行きを見守るばかり。
滴る血潮が、母のウェディングドレスにひと筋伝い落た。
それはまるで、母の涙のように見えた。
けれども母は、そんなぼくの想像とは裏腹に、口許に笑みさえ泛べ、男の貪欲な吸血に応えつづけていった。
やがて貧血を起こしてぐったりとなった母を、吸血鬼はベッドのなかに投げ込んで、
ドレスのすそを無造作に引き上げていった。
ぼく達の隣で固唾をのんで見守っていた父は、二人きりにしてやろう、とだけいって、真っ先にきびすを返してゆく。


部屋を出たとき、理佐子が父を呼び止めた。

お義母様、すごいですね。ご立派だと思います。

父はこちらに背中を向けたまま立ち尽くし、つぎのひと言を待っている。
理佐子は父の期待に応えるように、口を開いた。

お義母様、私にお手本を見せてくれたんですね。
私の時もお願いします・・・って、お義母さまにお伝えください。

ぼくのほうを振り向いた彼女は、柔らかな目線をぼくに送ってきた。

タカシくん、ゴメンね。でもタカシくんの家では、これがふつうなんだよね?
だから私、タカシくんの前で、あのひとに抱かれる。
見ててくれるわよね?
お義父さまやお義母さまみたいないい夫婦に、なろうね?

父は理佐子に柔らかに笑いかけ、理佐子もそれにこたえてゆく。
私も妻の新床を、あのひとにプレゼントしたんですよ・・・と、いいながら。

うちの実家、こういうこととはまだ、ご縁がないんです。
でもできたら、母にも経験させてあげたいです。
そのときはみんな、協力してくださいね?

どうやら理佐子は、この家の良き嫁になるようだ。
そして理佐子の父にとっては、悪い娘になるのかも。
お父さん、かわいそうだね――思わずそう口にしてしまったぼくに、理佐子はいう。

たぶん父も、感謝してくれるんじゃないかな?

理佐子の首すじに、紅い咬み痕がふたつ浮いているのに、ぼくは初めて気がついた。
そのときだった。
どす黒い嫉妬と歓びが見事に溶け合って、ぼくの胸の奥を満たしたのは――
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