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妖艶なる吸血

淫らな吸血鬼と倒錯した男女の織りなす、妖しいお伽噺・・・

父さんが、吸血鬼になっちゃった。

2016年11月27日(Sun) 09:17:30

朝起きると、母さんは黒一色の洋服を着ていて、足許は淡い薄墨色のストッキングに包まれていた。
おはよう。佐紀夫もはやく、身支度なさい。お父さまが吸血鬼に血を吸われて、おなくなりになったの。
え?
青天の霹靂としかいいようのない言葉に反応しかねていると、母さんはぼくを促して、着替えを手伝ってくれた。
学校の制服は、紺の半ズボンに同じ色のハイソックス。
まるで女子高生みたいだと周囲の学校の子たちにからかわれながらの通学は、けっして気分の良いものではなかったけれど。
今はもう、そんなことは言っていられない。
いつの間に、どんなふうにことが運んだのか。
父さんの居間はすっかり片づけられていて、その真ん中には祭壇が作られ、祭壇のうえにはひつぎが乗せられていた。
洋風のひつぎはどことなく、ドラキュラものの映画に出てくる大道具のように、現実感のないものとしてぼくの目に映ったけれど。
母さんは大まじめな顔をして、ぼくに告げた。
お父さまは、吸血鬼におなりになったの。だからこれからは、母さんや佐紀夫の血で、父さんに生きてもらうのよ。
そういうと母さんは、広い畳部屋の真ん中にあお向けになって、胸のあたりで合掌すると、神妙な顔をして目を瞑る。
佐紀夫もそうなさい、と言われている気がして、ぼくも母さんにならって、すぐ傍らで同じようにあお向けになった。
冷え冷えとした部屋のなか。
身近に感じる母さんの気配が、ぬくもりを帯びて伝わってきて、なぜかとっても、どきどきした。
やがて、ひつぎのふたが開く気配――ひつぎのなかの人が起きあがって、足を忍ばせて近寄ってくる。
さいしょに狙われたのは、ぼくだった。
母さんに遠慮があったのか、たんに若い血が欲しかったからなのか、わからなかったけれど。
母さんが先に手本を見せてくれると思い込んでいたぼくは、ちょっとだけあわてた。
あわてた態度が身じろぎになって現れる前に、冷たい掌がぼくの太ももに触れ、意外なくらいつよい力で抑えつけられてしまった。
万事休す。
かさかさに乾いた唇が太ももに圧しつけられるのを感じると、ぼくはビクリ、と、身じろぎをする。
ちくり――と、かすかな痛み。
縫い針で刺されるような感覚が、皮膚の奥深くにもぐり込んでくる。
引きかえに、生温かい血があふれ出て、父さんの唇を濡らすのを感じた。
ちゅうっ。
強い吸引力に、ぼくのすべてが吸いこまれてしまいそうな気がする。
事実、あのときのさいしょのひと咬みで、たぶんぼくはすべてを喪っていた。
ちゅうっ、ちゅうっ、ちゅうっ・・・
息子相手なのに、父さんは自分の渇きのままに、ぼくの血を勢いよく吸いあげてゆく。
くいっ、くいっと血潮を抜き取られるたび、ぼくの理性は妖しくふるえた。
小気味よくつづく吸血の音に、鼓膜までもが昂っていた。
半ズボンの中身が勃つのを、父さんに気づかれてしまっただろうか?
けれども父さんは、そんなぼくの態度には目もくれず、
貧血を起こして転がったぼくの傍らに横たわる母さんのほうへとおおいかぶさってゆく。

薄っすらと目をあけると。
無抵抗な黒のストッキングの足許に、父さんは唇を這わせていた。
血を求めて、というよりも、もっとべつなものを欲しがっているのを、男としての本能が察知する。
ヌメヌメとなすりつけられる唇のいたぶりに耐えかねるように、
母さんの穿いているストッキングはしわくちゃにされて、いびつによじれていった。
いつも厳しい母さんが、ふしだらに堕とされてゆく。
そんな感覚に、なぜかゾクゾクと胸が昂る。
何度めか、圧しつけられた唇の下。
ストッキングの薄い生地のうえ、裂け目が閃光のような速さで縦に拡がった。
母さんも、いま自分がされている淫らな仕打ちを自覚していたらしい。
父さんと同じく、裂けてゆくストッキングの足許を、淡々とした目で見おろしていた。
ふたりは目線を合わせ、父さんは白い首すじを狙い、母さんは狙われた首すじを自らくつろげてゆく。
真珠のネックレスを巻かれた首すじに、ぼくたち母子の足許を辱めた牙が突き立つのを、間近に見てしまった。

咬まれた瞬間。
母さんは「ふうっ」と吐息を洩らし、身体を心持ち仰け反らせた。
牙を受け容れた、というふうに、はた目にも見えた。
母さんのたいせつな血が、チュウチュウと安っぽい音をたてながら、父さんに飲み味わわれてゆく。
ぼくはどうすることもできないで、母さんの隣で貧血に呪縛された身体を横たえているばかり。
ふたりの抱擁はしつように結び合わされ、喪服のスカートはいつの間にか、腰のあたりまでたくし上げられてしまっている。
ストッキングのゴムが、あらわになった太ももを、くっきりと区切っている眺めが、ひどく淫らなものに見えた。
それが、ぼくの意識のさいごだった。
吸血鬼の毒が身体じゅうにみなぎるのを感じたぼくは、そのまま昏(くら)い世界に堕ちていった。

「どこまで御覧になったの?」
父さんが再び戻っていったひつぎを横目に、母さんがぼくのことを問い詰める。
どこまで・・・って・・・ぼく達父さんに血を吸われたんだよね?
「そうね。あなたも母さんも。父さんに血を吸っていただいたの。でもその後は?」
その後は?それから先に、なにが起きたの?
ぼくはなにも応えられずに、ただ母さんの笑っていない目を見つけ返すだけだった。

佐紀夫と母さんの血だけでは、足りないわ。心当たりをお願いしましょうね。
ひつぎの中の人に聞こえるように、母さんはぼくにそういった。
実際母さんは、学校のPTAで仲良くしている役員仲間を家に招(よ)んで、父さんに血を吸わせたりしたらしい。
さいしょに友達を襲わせて、息も絶え絶えにした後で、自分も咬まれて。
わたしたち仲間ですからね・・・って、堕ちてゆく。
でもそうしたことは、3人めほどで途切れた。
母さんが顔をしかめて言ったのだ。
父さんたらね、母さんが気絶した後、PTAの人たちにいやらしいことをするの。
だから招(よ)ぶのをやめたわ。
それ、いまさら手遅れなんじゃ・・・
ぼくはそう言いかけて、やめた。
父さんは夜になるとひつぎを抜け出してどこかに消えていったから。
たぶん、母さんの友だちを家から誘い出して、近所の公園あたりで逢引きをしているんだろう。
相手の女のひとのご主人に、銀の弾丸でも打ち込まれなければ良いけれど。
でもこの街の人たちは、みんな顔見知りの仲良しだから。
案外、自分の奥さんが血に飢えた親友のために献血に励むのを、感謝して見守っているのかもしれない。
ぼくだって・・・

PTAのひとたちに、いやらしいことを仕掛けるのはやめてくださいね。
これからは、佐紀夫のお友だちでガマンしてもらいますからね。
ぼくが同級生を家に連れてきて、血の供給源にすることを、母さんはひとり決めに決めてしまったけれど。
美人な母さんを見たくて鼻の下を伸ばしながら家にやってくる男の同級生はけっこういたので、
当分血の補給先に困ることはなかった。
あなたたちの若い血が必要なんですの。わたしもとても助かるし、理解してくれてうれしいわ。
男子たちは母さんのオトナな女のまなざしと話術にケムにまかれて、他愛なくつぎつぎと咬まれてしまっていた。
父さんはそんな男子たちも巧みに篭絡してしまっていて、
息子経由で母親を誘惑する術を、覚え込んでしまったらしい。
母さんは女のカンで、そうした動きを敏感に察知して、酔い酔いにされてしまったぼくの友だちを、お出入り禁止にする。
でも、もう遅いんだよね。
ぼくですら。
自分の彼女を公園に呼び出して、父さんに血を飲ませてしまっているくらいだから。
セックス経験のある女性を相手にするときには、肉体関係まで持ってしまう。
そんな吸血鬼の習性を、ぼくは初めて目の当たりにしてしまった。
彼女とはすでに、そういう関係になっていたから。

父さんはもっともらしく、ぼくにいう。
血統というのは、だいじなものだ。
自分の妻の子が、自分のたねか、よその男の子なのか、見極めるのは難しいからな。
だから母さんは父さんが独り占めすることにした。
お前も、安心して良いのだよ。
生れてくるのがお前の子であれ、父さんの子であれ、うちの子であることに、変わりはないのだから。

父さんの屁理屈を、ぼくはあえて真に受けることにした。
母さんは姑として、嫁の不行儀には寛容でなかったけれど。
自分の友人の人妻たちに手を出すときほどは、ぼくの妻に手を出すときには口うるさくはしなかったから。
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