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妖艶なる吸血

淫らな吸血鬼と倒錯した男女の織りなす、妖しいお伽噺・・・

合唱コンクールの朝

2016年11月29日(Tue) 07:11:48

見慣れない制服に黒のストッキングを履いた女学生がおおぜい、後者の外に列を作っている。
そんな情報を聞きつけて、黒い影が群がるように、学校に集まってきた。
ふだんなら。
こういう情報はいち早く、教職員を通じて流されるはず。
はて、いったいどうしてかほどの良い話を黙っていたのか?
教職員どもはあてにならぬ・・・影たちは職員室は素通りをして、
開錠された玄関から空き教室に入っていく見知らぬ乙女たちを求め、あとを追った。

きゃーっ。
教室に悲鳴が花を開いた。
影たちは濃紺のセーラー服の制服姿をつかまえると、いっせいに首すじを吸おうとしたのだから、無理はない。
真っ先につかまえられた、頭だった少女は、けんめいに抗いながら、
「やめてください!待ってください!」
と、身を揉んで叫んだ。
「待て」
影たちの頭の声が響くと、彼らは一滴も吸うことなしに、狼藉をやめる。
すでになん人かは首すじを咬まれ血を吸われ始めていたが、
そんな忘我の境地にあるはずのものたちも皆、獲物と定めた女生徒たちから手を引いた。
得体が知れないけれど規律は正しい一団であることは、少女たちにも伝わったらしい。
見慣れぬ制服の女生徒たちも、それ以上取り乱すことなくいっせいに沈黙する。
「あれを見ろ」
頭が指さした黒板には、几帳面な字でこう書かれていた。

「歓迎 八坂東高校合唱部さま 親善合唱コンクールへようこそ」

そういえば。
きょうはこの学校では、合唱コンクールが開かれる予定だった。
合唱コンクールはこの学校でも力を入れた行事で、どのクラスも数日前から懸命な練習期間に入る。
吸血鬼の側も、女生徒たちがとくに希望しない限り、直前の3日間は彼女たちを襲うのを遠慮していたのだ。
だからこそ――このところよけいに、「女学生欲求」が高まっていたのだろう。
八坂東高校といえば、全国でも有数の合唱で知られた名門校。
どうやら、コンクールの審査中に一曲披露するため、姉妹校として招かれたらしい。
「しまったですな」
影たちのナンバー・2が、間抜けな声をあげた。
危なく、両校の親善に水を差すところだった。
「なしにしてもらいましょうよぉ」
ナンバー・3にいたっては、泣きべそを掻いている。
どうやら、この学校の合唱部の子に、好きな子がいるらしい。
頭は、怯えから立ち直ろうとしている少女たちに、いった。
「悪く思わないでほしい。当校の生徒たちと我々は、仲良しなのだ」
「この学校・・・吸血鬼と仲が好いのですか?」
ちょっとだけ血を吸われかけた少女が、首すじにつけられた咬み痕を掌で隠しながら、疑わしそうに訊いた。
セーラー服の胸元に輝く校章の下には、「副部長」と書かれたバッヂがさげられている。
「この学校の名誉のためにいうが、我々が生き延びているのは、ひとえに生徒さんがたの好意によるものだ。
 だからわしらも、学校の不利益になることは絶対しないことにしている。
 コンクール前の3日間断食をしていたので、見慣れない制服を着たあなた方のお姿を見て、ついてきてしまったというわけだ」
「ここの学校の子たちは、怖がっていないの?」
丸顔の部員は、まだ咬まれていなかったが、この学校の生徒たちとは親しくしているらしい。
他校の友人への気遣いが、まなざしにあふれている。
「死なせない、邪魔をしない、本人の許しなく辱めない。そういう約束になっている」
「わたしたちに害意はないって証明してくださるって仰いましたね?」
これは、部長からの質問。
「たしかに、そう申し上げた」
「では、どうやって証明を?」
その問いにこたえるように頭が一同に目配せすると、
彼らは少女たちの間から身を離し、素直にぞろぞろと教室から出ていった。
「あなたがたのリハーサルを悲鳴に塗り替えるわけにはいかない。皆さんの安全は保証します。ではまた後ほど」
時ならぬ拍手が、少女たちの側から沸いた。
あまりにも潔く引き上げたので、ちょっと拍子抜けした顔つきの子もいる。
「でも・・・後ほど・・・って・・・?」
慎重な性格らしい副部長が、部長を見返す。
部長は生徒たち全員を見返ると、「いいわよ・・・ね?」と囁いた。
全員がしんけんな顔をして、頷きかえす。
みんなの反応に満足したらしい部長は白い歯をみせると、出ていこうとする影たちを呼び止めた。
「あの・・・ちょっと」
振り返る頭に、部長がいった。
「“後ほど”、またいらっしゃる・・・ということですか?それだと、緊張して歌えない子が出てしまいます」
ははは・・・
頭は明るく笑った。手厳しいな、とひとりごちたが、「どうしてもお嫌なら、無理強いはしない」

2時間後。
招待された合唱部員たちは全員、もとの教室に控えている。
控えめな音をたてて開かれた扉の向こうから、影たちがちょっとびっくりしたように、少女たちを覗き込んでくる。
「どうぞ」
部長がおさげ髪を揺らして、彼らをいざなった。
「合唱部の子たちから、くわしい話を聞きました。こちらの部長さんから伝わったと思いますけど、わたしたちも献血のお手伝いをさせていただきます」
リンとした潔い声に、影たちは、ホウ・・・と感嘆の声を洩らす。
「しっかり首すじ咬まれちゃった子もいるのに、だれも制服汚れてないのよね」
副部長が、周りの子たちと笑みを交し合う。「咬まれちゃった子」たちもはにかみ笑いをしながら、部長の笑みに応えていく。
どうやら、部員たちは仲が好いらしい。
「ふだんはうちの学校、ストッキング履かないんですよ。こういう特別な時だけは、申し合わせて履いてくるんです」
「でもまさか、それが吸血鬼の気を引いちゃうなんてね」
「人間の男子だったら、よかったんだけど」
「こら、こら」
無邪気に交し合わされる声色は、だれもがそろってまだ浄い身体の持ち主であることを証明していた。
「みんな黒のストッキング履いてますけど、咬み破ってもいいんですよ。ちゃんと全員のOK取りましたから」
ゆったりと笑う部長は、みんなにお手本を示すように、影たちの頭のまえ、自らの脚を差し伸べた。
では・・・と頭は呟くと、少女の足許に跪き、姫君に忠誠を誓う騎士のように、足許に接吻した。
さいしょは礼儀正しく、そのつぎはややねっとりと、そしてさいごは、しつように。
部長のふくらはぎへの執着が、本性を現しかけたころにはもう、
合唱部員たちと同数の影たちは、それぞれに相手を選んで、身体を寄り添わせてゆく。
さっきは警戒心あらわだった副部長もまた、先刻自分を咬んだ男を相手に、親しみのこもったまなざしを向ける。
「さっきの続き・・・ですよね?」
そして、首すじにつけられた咬み痕を男が容赦なく牙で抉るのを、くすぐったそうに受け止めてゆく。
自分たちを襲おうとした吸血鬼に臆せず質問をした丸顔の部員も、黒のストッキングの足許に舌を這わせてくる吸血鬼の相手をし始めて、
黒のストッキングがパリパリと咬み破られて裂け目を拡げてゆく有様に、目を見張りつづけていた。
隣の子も。またその隣の子も。
ふくらはぎに唇を吸いつけられて、おそろいの黒のストッキングを、他愛なく破かれてしまってゆく。
きゃっ。・・・きゃっ。・・・
少女たちの控えめな悲鳴が、まるではしゃぐように軽やかに、教室前の廊下に洩れた。

約1時間後。
教室に両校の合唱部員が全員顔をそろえると、人いきれで息苦しいくらいだった。
どの生徒も、濃紺のプリーツスカートの下、ストッキングに伝線を走らせてしまっている。
でも彼女たちはそんなことは意に介さず、振る舞われたジュースやお菓子を手に、懇親を深めていた。
さっきまで彼女たちを襲った嵐のことなど、そもそも存在しなかったかのように。
「女子たちは、たくましいですな」
影のナンバー・2が頭にいった。
「惚れちまったりしなかったのか」
「あくまでこの場限りって、約束ですからね」
「あとから戻ってくるような子は、おらんかな」
「たぶん全員、もうここには来ないでしょう」
しっかりした理性を持った子たちばかりでしたからな。
頭も、ナンバー・2と同じ感想を持ったらしい。
「それは奥ゆかしいな」
遠い地に棲む他校の少女たちをたたえながらも、頭はちょっとだけ惜しそうな顔をする。
ほかの影たちも同感らしかった。

都会に戻っていった彼女たちは、姉妹校に棲み着く吸血鬼たちのことを、決して口外しなかった。
そしてだれ一人、吸血されることを目的にこの地に足を踏み入れる生徒は、いなかった。
いちどは獲物を諦めて退場した影たちの潔さに、
彼女たちも彼女たちなりの潔さで応えていった。
自分たちの出番が済むと吸血に応じ、黒のストッキングを破かせるという潔さで。
そして思い切りよく、その場限りの関係を守り通した。
「一人くらいは、戻ってきてほしかったな」
息をつめて見守る仲間たちのまえ。
黒のストッキングの脚を、お手本を示すように真っ先に差し伸べてくれた部長の面影を、頭はまだ忘れていない。


あとがき
引率の先生がいるはずなのに、生徒だけで来たの?とか、
口外されちゃったらすべてがおじゃんになるのに、口止めしなかったの?とか、
そもそもどうして、理性を奪って奴隷にしなかったの?とか、
いろんなツッコミどころがあるのですが。
こういうその場限りの関係というのも、奥ゆかしいなあ、と、おもうのです。

あと、学校名は架空です。
仮に似たような名前の学校が存在したとしても、このお話とは一切無関係です。
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