淫らな吸血鬼と倒錯した男女の織りなす、妖しいお伽噺・・・
インモラル・バー ~馴染み客の妻たち~
2016年12月04日(Sun) 07:51:00
カウンターで飲んでいるわたしの後ろを、着物姿の女将がススッと通り抜けていく。
なんでもないすれ違い。
けれどもそこには、背中合わせの意味深なやり取りがある。
女将が向かったのは、地下にある奥座敷。
そこで女将は帯をほどき、襟足をくつろげて。
上客たちのまえ、素肌をさらしてみせるのだ。
上客のメンバーのひとりは、会社重役。
そんないかがわしい会合が、夫の行きつけのバーで交わされている。
ある人からそんなことを知らされた重役夫人は、果敢にもその場に乗り込んでいった。
それが重役夫人にとって向こう見ずな行動だったと本人が知ったときにはもう、手遅れだった。
苦笑いを泛べる重役のまえ。
彼の悪友たちはこぞって鼻息荒く夫人に迫っていって、
彼女が永年守り通してきた品行方正な貞操を、むぞうさに分け取りしてしまったのだから。
それがほんとうは、彼女にとって正しい選択だと本人が知ったのは、だいぶあとになってからだった。
以後重役は、夫人同伴でバーを訪れるようになり、
そういう日に限って、バーは繁盛するのだった。
バーテンは気の良い年配男。
女将が地下の奥座敷に消えるのを見送ると、
お客さんは、よろしいのですか?
と、こちらに誘いをかけてくる。
ああ、もうちょっとしてからね。
わたしがあいまいに応えると、バーテンは黙って、卓上の高級酒のお代わりを注いでくれた。
背後の格子戸が、がらりと開いた。
着飾った女が3人、表情を消して、わたしの背後を通り過ぎてゆく。
格子戸を閉めるとき。
あとを尾(つ)けるものがいないかと後ろを振り返ったのは、見知らぬ人妻。
それ以外の二人は、あとも振り返らずに、取り澄ました顔つきで、
バーテンとわたしが向かい合わせになったカウンターのまえを、通り過ぎていく。
ご紹介がまだでしたね。
バーテンは誇らしげな照れ笑いをしながら、わたしに話しかけた。
ひとりめの女は、うちの女房なんです。
ラメの入ったストッキングの脚が、地下に通じる階段に隠れていった。
自分の妻が店の上客たちを相手に、どういう接待をするのか知っているはずなのに。
彼は穏やかな面差しに感情を隠して、淡々と業務をこなしていく。
そう。
わたしは注がれた高級酒を口に含み、それからいった。
ふたりめの女は、俺の家内だ。
バーテンはにっこり笑い、そしていった。
今夜はもう、看板にしましょう。
お客さんもよかったら、地下へ。
彼は馴染みの客の妻を抱き、
わたしはどこのだれとも知れない人妻を抱き、
妻はわたしの悪友たちの誘惑を受ける。
そんな夜もたまには、いいじゃないか・・・?
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