淫らな吸血鬼と倒錯した男女の織りなす、妖しいお伽噺・・・
美味しすぎる残念賞
2017年01月04日(Wed) 06:42:27
夜道をパタパタと駈け去る足音がきこえた。
足音の主の後ろ姿を見送る男は、追いかけることもできず、立っていることもおぼつかないようすで、
薄ぼんやりと佇んで、その後ろ姿を見送っていた。
逃げられちゃったね。
イタズラっぽい声が、男の背後でクスッと笑う。
振り向くとそこには、真冬には珍しい半ズボン姿の少年。
首すじには、彼がつけた咬み痕が、まだくっきりと浮いている。
「我慢し過ぎたみたいだ」
男が本来の能力を発揮できなかったのは、人から血を吸い取るという行為を、遠慮し過ぎたためらしい。
「ぼくのせいかな」
「そうかもね」
「じゃあ、お礼をしなくちゃね。今夜のヒロインに逃げられちゃった残念賞をあげるから」
少年はこともなげにそういうと、「ついてきて」とだけ、みじかくいった。
「そのまえに」
後ろにまわり込んだ吸血鬼が自分の足許にかがみ込むのを気配で察すると、
少年は傍らの電柱に身体をもたれかけ、ハイソックスを履いた脚をピンと伸ばした。
ねっとりと吸いつけられる唇に力が込められて、
口の両端から覗いた牙が、しなやかなナイロン生地ごしにズブリと刺し込まれるのを、少年は感じた。
ドアの開かれた家のなかは、暖かだった。
「連れてきちゃった」
少年の背後にいるのが吸血鬼と知りながら、お母さんは、やはり首すじに咬み痕をつけられてしまっている。
「まあ、まあ」
お母さんはまるで少年の友だちを家にあげるような気やすさで、男をリビングへと招き入れた。
「あれ、いらしたの?」
少年の妹が、ギョッとしたように男を見つめ、そして兄のことを軽く睨んだ。
「おや、みえられたの?」
少年の父は、困ったような笑みを泛べ、それでも起ちあがると男を手招きして、自分の座っていたソファをすすめた。
「んもう!おニューのハイソックスおろした日に限って、来るんだからっ」
少女は案内した自分の勉強部屋のすみに追い詰められながら、男に首すじを差し伸べていた。
抱きすくめられて圧しつけられた唇から、チュウッという音が露骨に響いた。
半開きになったドアの向こう、お兄ちゃんが息をつめて、妹の受難を見守っている。
いけない趣味だ、と、少女は思ったけれど。
あえてドアを閉めることも、悲鳴をこらえることもしなかった。
「ああああああっ・・・」
息のはぜる音を交えながら、少女の呻きは随喜の色を深めていった。
「お父さん、たばこ買いに行っちゃった」
いつの間にかよそ行きのワンピースに着替えたお母さんに、吸血鬼はものも言わずに迫っていって。
リビングの外の廊下から覗いている視線を意識しながらも、お母さんは首すじに吸いつけられてくる唇を、避けようとはしなかった。
さっき、まな娘の生き血を吸い取ったばかりの唇が熱く押し当てられるのを、お母さんは息をはずませて受けとめる。
男は、お母さん以上に息を荒げて、迫ってきた。
数分後。
じゅうたんの上にうつ伏せになって倒れたお母さんに男が馬乗りになって、スカートの奥に熱情こめてなにかを発散してゆくのを、
少年はやはり、息をつめて見守りつづけていた。
半ズボンの股間がテントのように張りつめているのを見たものは、だれもいない。
「逃げたらダメだって、彼に言われた」
ぶっきら棒にそう呟いて、男を睨むように見つめたのは、あの日後ろ姿をみせた少女。
傍らにいる少年は、やはり半ズボン姿で、少女をかばうように佇んでいた。
四人家族全員の血液を吸い取って、すっかり精力を取り戻した男は、自信満々、雪辱戦を挑もうとしていた。
「まさか、あのときのわしの失敗を取り替えそうとして、この娘とつきあうようになったわけじゃあるまいな?」
念を押すような口調で間抜けな質問をする男を、少年は軽く笑っていなした。
「でも、あのときのことが話題になったのがきっかけになったのは、確かだよ。感謝のしるしに、こうして連れてきてやったんだからね」
「あたしも、咬まれてみたくなった」
少女の声色には、少年に教え込まれた通りを棒読みするようなぎごちなさがあった。
「残念賞だけじゃなくって、優勝も獲得できちゃったようだね」
少年はあくまでも、父親よりも年上のその男をからかうことをやめようとしない。
数分後。
じゅうたんのように綺麗に刈りそろえられた芝生のうえ、少女は仰向けに倒れていた。
首すじにはまだ、男のしつような唇が貼りつけられている。
キュウキュウと露骨な音をたてて、少女の血が吸い取られてゆくのを、少年は愉しそうに見守った。
「この子の血、美味しい?」
「処女だな、この子は」
「ウフフ。気に入ってくれて、よかった」
少年は満足そうに白い歯をみせ、爽やかに笑う。
好んで人をつかまえて血を吸う本能を備えてしまった男と。
好んで身内を逢わせ、血を吸わせる歓びに目ざめてしまった少年。
少年の目の前で愉悦をあらわにすることを覚えてしまった少女は、ふたりを少しでも愉しませようと、悩ましいうめき声を洩らしつづける。
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