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妖艶なる吸血

淫らな吸血鬼と倒錯した男女の織りなす、妖しいお伽噺・・・

黒ハイソックスの看板娘

2006年07月03日(Mon) 11:26:22

玄関のほうからなん人もの客があがりこんでくる気配がした。
スリッパに履き替えるばたばたという物音。
足音はやがて一団となって、応接間に上がりこんでくる。
ストレートのロングにポニー・テール。ゆるい三つ編み・・・と、
とりどりの髪形をした女の子が、五人。
いずれも色白な肌に黒髪が似合う、清楚なかんじのする娘さんたちである。
息を呑んだ。
壮観・・・だった。
細い肩には、おそろいの黒のカーディガン、白のブラウス。
濃紺のスカートの下は、これまた申し合わせたように、黒のハイソックス。
ソファに並んだ、太さも長さもさまざまなふくらはぎに。
ひざ下までぴっちりと引き伸ばされたナイロンがツヤツヤとした光沢をかすかに放って、いっそうしなやかに目映かった。

「まぁまぁ、あなた。いい眺め・・・ね」
ティーカップをお盆のうえでかちゃかちゃとさせながら入ってきた妻の由貴子が、冷やかすようにこちらを窺う。
見透かしていたのは、女の子たちも同じだった。
ちょっと照れたような空気が漂って、女の子たちは一瞬、黒のハイソックスに包まれた脚をすくませる。
そんな様子は目に入らない、といわんばかりに。
由貴子はおっとりと澄ました顔で、傍らの肘掛け椅子に腰をおろした。
「どうぞ、召し上がれ・・・あ、今日はだいじょうぶですよ。
 ヘンなことはいっさい、ありませんから」
くすり、と笑んだ口許に、人のわるそうなえくぼを滲ませた。

私の知人は市内のB地区で、小さな会社を経営している。
五人は、そこで受付業務をしている娘さんたちなのだ。
制服姿で・・・というのは、知人がわざと気を利かしたのだろうか。
好みのタイプの女性に優しくなるのは、どうしようもない男の性である。
どちらにしても、きょうはこの娘さんたちの悩みを聞いてやらなければならないのだ。

「うちの女子社員が勤め帰りに次々と襲われて、血を吸われているんだ。
 お前、そっちのほうは詳しいんだよな?」
社長とは、子供のころからの仲良しだった。
吸血鬼族には友好的で、高校を卒業するまでに、友人の吸血鬼に血をそっくり飲ませてしまっているうえに、
若い女の血を欲しがるその悪友のために、妻や年頃の娘まで逢わせてやっているくらいだったのだが。
「さすがに他所のお宅からお預している娘さんとなるとねぇ」
髪の毛がやや後退し始めた頭を横に振って、しんそこ困惑しているようだった。
「B地区には長いこと、吸血鬼なんか出没しなかったのだが・・・」
不審は、こちらもいっしょである。
それにしても。
いざ本人たちに会ってみると。
ちく生。
あんないい娘たちを・・・
思わずこちらが歯噛みしたくなるほど、ぴちぴちとした肢体は輝いている。

座を仕切っているのは、由貴子のほうだった。
「で、夕べ首を咬まれちゃったのは、どなた?」
娘の一人が自分から肩までかかる長い髪をかきのけて、
赤黒く浮いた傷をあらわにした。
「うん、うん。痛そうね。でももう、痛みは取れているでしょ?
 かわりに、その・・・疼いたりする感じになって
 日が暮れてくると、なんかいてもたってもいられなくなってくるでしょう?」
いちいち思い当たるらしく、娘は強く相槌を打っていた。
「ひと晩経っちゃっているし、唾液の採取はむずかしそうね。
 こんど襲われたら、その足でうちに来てくれる?唾液でそこそこのことはわかるから」
「怖いんだよねー。初めのうちは痛いし、服汚れるしぃ。
 ハイソックスのうえから咬まれちゃうんでしょ?
 わかるわよ。あいつら、本当、いやらしいんだから。
 でも制服じゃどうしようもないわよねぇ。
 どうせ社長の趣味だろうけど・・・」
しょうしょうアブナイことまで、こともなげに口にしながら。
由貴子はいつの間にか一座の中心に陣取って、娘さんたちの話を聞いている。
というか、聞き出している。
同性の気安さだろうか。
私と喋るよりもはるかにすんなりと、こちらの聞きにくいことまで喋ってしまっているのだ。

五人はそれぞれ当番で、曜日ごとに交代で事務所を閉めて帰宅する。
社長をしている知人を含めて、男性社員は得意先まわりで帰りが深夜になる。
だから、夕方のごく早い時間、閉店は彼女たちが受け持つのだ。
当番の順序どおりに、彼女たちは吸血鬼に襲われたのだった。

月曜は甘谷芽衣子(24)。
「公園を通り抜けたときでした。後ろからいきなり、襲ってきたんです。
 夢中でもがいたんですが、抵抗しているうちに気が遠くなって・・・
 ・・・つい、うっとりしちゃいました。乱暴な感じがしなかったせいでしょうか」
火曜は比嘉谷那恵子(19)。
「私が襲われたのも、やっぱり公園でした。
 気は遠くならなかったけど、あっちこっち咬みつくから痛くって・・・
 でもそのうち慣れちゃいましたけど。」
水曜は菱本ケイ(22)。
「んー。なんていうか・・・大丈夫ですよ、私」
木曜は佐沼ひろ子(36)。
「私だけちょっとおばさんなんですけど。(笑)
 でも平等に?襲われちゃいましたね~。
 気持ちよかったですよ。何が・・・?って。それは・・・(^_^;)」
金曜は笹原梢(23)。
「先輩たちに聞いていましたから、意外に落ち着いていました。
 そんなに悪い人じゃなさそうでしたけど、
 血を抜かれていくときはさすがにくらくらしちゃいましたね」
口数も少なく語ってくれた「体験」に、苦痛や厭わしさは感じられない。
むしろ、加害者に対していちように好意や同情さえ寄せているのが伝わってくる。
社長の取り越し苦労で終わるのなら、それにこしたことはないだろう。

初めて襲われた次の週は、用心して二人ずつ連れ立って帰宅するようにしたのだが、
・・・やっぱり襲われてしまったのだそうだ。
娘たちはむしろ愉しそうに、そのときのことを振り返る。
「もう、二人して、芝生にうつ伏せにされて、かわるがわる・・・ね。
 ハイソックスを履いたまま、脚を吸うんですよ~。
 なんか、やらしいですよね。妙にくすぐったいですし。
 まるでナイロンの材質まで確かめてるみたいに、べろ這わせてくるんです。
 ぴちゃぴちゃ音までたてて、それはしつっこく^^;」
「ねぇ。梢ちゃんなんか、あのとき光沢てかてかのやつ履いていたから。
 よけいしつこかったよねぇ」
由貴子が口を挟んでいた。
「そのときは、乱暴されたりしなかったの?」
「え、ええ。ふたりとも無事でした・・・」
笹原梢といっしょに帰った比嘉谷那恵子が、ふしぎそうに応えた。
「私・・・さいしょのときもそこまでされなかったし。
 じつは付き合い始めた彼氏、いるんですけど。
 襲われた・・・なんてとてもいえないなぁって思ってたんですけど。」
いちばん年配の佐沼ひろ子が
「ケイちゃんは二回とも、ヤられちゃったんだよね~」
あっけらかんと、そうのたまわった。
「もうっ」
クールな感じの美人である菱本ケイは、ちょっと不貞腐れたように口を尖らせたが、
それ以上抗議をつづけなかったのは佐沼ひろ子と仲が良かったからだろうか。

「このなかで、処女のかたはどなた?」
五人を見回す由貴子のまえ、いちばん若い比嘉谷那恵子だけがおずおずと手を挙げた。
「じゃ、さいごまで姦られちゃったかたは、誰と誰?」
甘谷芽衣子、菱本ケイ、佐沼ひろ子の三人が手を挙げた。
いまどき結婚まで処女を通す娘はほとんどいないくらいだから、
こちらのほうが態度も堂々としている。
「処女を吸血鬼さんに捧げたかたは、いらっしゃらないのね?」
五人がいちように頷くと、由貴子はなぜか満足そうにほほ笑んだ。
「今夜の閉店の当番は誰かしら?」
佐沼ひろ子と笹原梢が手を挙げた。
「悪いけど、私代わってもいいかしら?」
由貴子はイタズラっぽく笑って、夫の顔を覗き込んだ。

がちゃっ。
ドアのノブがまわり、外から開かれた扉の向こうから、由貴子が姿を見せる。
先刻招待した五人のお嬢さんとおなじイデタチが、肩からずれてすこし歪んでいた。
ほつれた髪をむぞうさにサッとかきのけると。
「姦られちゃったあ」
あっけらかんと夫にそう告げて、由貴子はそそくさと脇をすり抜けてゆく。
試薬のついた布でうなじを拭い、もう一枚の布をついでのようにスカートの奥にもぐり込ませた。
「ねぇ。見て見て。ほおら、こんなに」
小娘みたいに爽やかで無邪気な態度とは裏腹に。
差し出された布に付着した粘液は、爛れたようにてらてらと光っている。
こちらの顔色なんかにお構いなく、
「だいじょうぶよ、遠慮していないでお入りなさい」
由貴子は手招きをして、まだ外でもじもじと決まり悪そうに佇んでいた娘を招きいれた。笹原梢だった。
「やっぱ怖かったから。佐沼さんには帰ってもらって、梢ちゃんに付き合ってもらったの」
え?
問い返そうとする私を遮って。
「でも、犯されちゃったの、私だけでした。すごくよかったのに。あなた、残念だったわね」
笹原梢がもの慣れた由貴子の口調に目を白黒させていると、
由貴子はスッと彼女のほうへと身を寄せて。
虚を突かれたように立ちすくむ娘のうなじに、唇を吸いつける。
ちゅ、ちゅ・・・っ
傷口を吸っていた。
抱きつかれたまま梢は、由貴子の腕の中、
ちょっとウットリしたように瞼を閉じて身を任せていた。
由貴子の白い頬が彼女のうなじをはなれると、
冷静に取り澄ました薄い唇から、吸い取った血液をペッと吐き出して、試薬になすりつけている。

由貴子は白っぽい洋服に着替えていた。
スカートからのぞく白のストッキングが、看護婦然とした風情を添えている。
夜の十時。
受話器に添えられた掌が、白い皮膚に青白い静脈をほんのりと透かせていた。
「ああ、梢ちゃん?さっきはどうも。わかったわよ。いろいろと。
 明日ね。お休み取っているんでしょ?
 まだ元気があったら…だいじょうぶよね?
 お母さまといっしょに公園に行ってみて御覧なさい。
 お店を閉めた先輩が通りかかる前に・・・必ずね」
さいごのひと言にことさら語気を強めると、由貴子は一方的に電話を切った。
「貴方も、御覧になりたいでしょ?黙っていてもきっと、覗きにいらっしゃるんだから」
恋人がウキウキと胸を弾ませるような、若やいだ身のこなし。
「役得ね。若い子の血はやっぱり美味しいわ。
 こんどは試薬のためじゃなくって、お礼にもっといただくことにしようかしら」
鶴のようなほっそりとした首をスッと伸ばして、こちらの背中に腕をまわしてくると。
「白状なさい。・・・いかがでした?わたくしのあで姿」
ぎゅううっと腕に巻かれていきながら、小悪魔はイタズラっぽい笑みを消そうとしない。

薄闇に浮かび上がったのは、長身の男だった。
あたりには霧が立ち込めて、待ち受けている梢やその母を視界から遮らんばかりである。
「天気予報、そんなに悪くなかったのに」
ことさら、意味ありげに口にして。
由貴子は、うっとりとした流し目をしかけてくる。
濃い霧が男の纏うヴェールだということくらい、私にだって察しがついている。
男と梢のあいだに、梢の母親が遮るように立ちはだかった。
つぎの瞬間。
娘を護ろうとした母親は愕然としたように、両手で口を抑える。
嗚咽しているのだ。
まるで謝罪するように、深く頭を垂れながら。
そんな母親の肩を抱きかかえて、梢が何か男に囁いている。
そして母親をなだめるようにして、やはりなにかを囁いた。
母親はちょっとためらうそぶりをして、娘を振り返る。
娘が深く頷くと。
こんどはすすんで男のほうへと身をゆだねていた。
男はすぐに母親のうなじを吸おうとはせずに、
そのままじっと立ち尽くし、女をしっかりと抱きしめていた。
「・・・つまらない?」
由貴子が、ちらと視線を投げてくる。
「いや・・・」
なま返事をかえして見つめ続ける目線の向こう。
男は母娘をかわるがわる抱きしめて。
そのうち母親が意を決したように男に向き合い、
娘はそんな母を仰ぐように見守って、祈るように両手を組み合わせている。
男の唇が、母親のうなじに吸いついた。
娘は、涙ぐんでいるらしい。
そっとハンカチで目許を拭っている。

ふぅぅ。
どうやら一件落着、かしら。
それまで吸血鬼の因縁のなかった場所に出没するってことは、
新たにそんな境遇に入った者だって。貴方教えてくださったわよね?
最初はね。
処女の生き血が欲しくて、比嘉谷さんを犯さなかったのかなって思ったんだけど。
例外がひとり、いたのよね。
それが、梢さん。
あの子、処女じゃないのに、犯されていなかったでしょう?
どんなに女に飢えていても。
父娘だから、契れなかったのよね。
梢ちゃんのお父さん、亡くなっているってききましたから。
あぁ、やっぱりそうか・・・って。
わたくしのうなじに付着していた唾液。いい証拠になりましたわ。
あちらのほうも、サンプル以上に愉しめたし。^^
逞しい人よ。それに、いい人。
犯すことで将来が台無しになるかもしれない娘さんは、抱かなかった。
古風な年配者としての良識は、吸血鬼になっても持ちつづけたのね。
ま、私の魅力には勝てなかったようだけど。^^
同僚の子たちもきっと、あれが梢ちゃんに近い人だって、薄々感じていて。
それでやすやすと身を任せたんじゃないかしら。
あの子たち、仲良さそうだし。社長が思っている以上にね。
私だって、相手かまわず抱かれに行くわけじゃないんですよ。
軽く嘲るように薄っすらと笑んだ唇には、いつになく哀しげな色が漂っている。

ママが再婚しちゃったから。
うちに戻ってこれなかったんです。
だからかわいそうに、しばらくさまよっていたんですって。
でも、もう平気。
来月から独りで暮らすんだけど。
そこに、パパを呼んで、いっしょに住むことにしましたから。
妹がね。まだ処女だっていうんです。
パパ、喜んでくれるかしら。
梢はちょっぴり肩をそびやかして。
ぺこりと神妙に、私たちに頭をさげた。
みんなもね、彼氏ができるまでは相手してくれるって。
「行くわよぉ」
そよ風に髪をなびかせている同僚たちの声に応えて、梢は思い切り手を振った。

あとがき
推理短編としてもメロドラマとしても不出来ですねぇ。^^;
おまけに長くなってしまって・・・
二時間もかかっちゃった。(苦笑)
道行くOLさんたちが申し合わせたように黒のハイソックスを履いていて。
まるで制服みたいに見えるんですね。それが。
キリッと背筋伸ばして二、三人。
連れだって歩いていると。
凛として見えるんです。ひざ下ぴっちりの黒のハイソックス。
・・・今回はよけいごとばかりでゴメンです。^^;;;
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アンケートをつけてみたのですが・・・^^;

コメント

主人公
 奥様にすっかりお株を奪われちゃって
ただ、そこにいるだけの主人公・・・。
これは、柏木さんの理想の展開なのでしょうか。
謎解きも全部してもらって
 ( ̄― ̄)(―_―)( ̄― ̄)(―_―)ウンウン
うなずいて、聞いているところがほほえましいです。
by さやか
URL
2006-07-03 月 15:15:01
編集
>さやか様
まずはさいごまで飽きずに読んでいただいてありがとうございます。^^;
>ただ、そこにいるだけの主人公
あはは。言いえて妙ですな。^^;
てゆうか、主人公はそもそも由貴子さんだったりして。^^;
貴女のリクエストに機嫌良くして、サッと出てきたんですよ。きっと。^^
by 柏木
URL
2006-07-03 月 21:55:06
編集

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