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妖艶なる吸血

淫らな吸血鬼と倒錯した男女の織りなす、妖しいお伽噺・・・

母さんは、賢夫人と呼ばれている。

2017年01月10日(Tue) 04:49:09

【賢夫人】
けんふじん。
しっかりした、賢い夫人。

朝。
父さんの寝室とは別の部屋から出てきた母さんは、みじかく「おはよう」というと、
朝ご飯の支度をするため、すぐに台所に立ってゆく。
紫とグリーンのしま模様のタートルネックのセーターを着て、ジーンズのすそからは白とねずみ色のしま模様のソックスが覗いている。
たしか夕べ、客人の泊まるあの部屋に入っていくときは、よそ行きのライトブルーのスーツに、ふんわりとしたタイのついた真っ白なブラウスを着て、
脚にはチャコールグレーのストッキングを穿いていたっけ。
ほとんど前後不覚、モーローとなった記憶なのに、なぜだか母さんの服装だけは、しっかり憶えている。
セミロングの黒髪は寝ぐせとはちがう乱れ方をしていたけれど、それを指摘するのはやめておいた。
以前同じ愚を犯したとき、「よけいなことを言うんじゃないの!」って、こっぴどくドヤされたから――

そう。
あの部屋に半月ほど前から滞在しているのは、父さんの親しい知人だと名乗る男。
歓迎をしたその晩に、彼の正体が吸血鬼だということを、身をもって思い知らされていた。
男ふたりからしたたかに血を吸い取って、ふらふらにしてしまうと。
不意の来客のためにわざわざ着替えたよそ行きのスーツ姿のまま、
立ちすくんだまま両手で口を抑えて、かろうじて悲鳴をこらえていた母さんのことを、彼は自分の寝室に引っ張り込んだ。
その後母さんがなにをされたのか――とてもひと言では、言いきれない。
這うようにして追いかけた部屋のまえ、ドアを半開きにすることまでは、かろうじてできたけれど、
父さんも僕も、そこから一歩たりとも、中に入ることはできなかった。
そのかわり、まるで返り討ちにでも遭うように。
部屋の中で遂げられた彼のお愉しみのいちぶしじゅうを、
息子も夫も、瞼の裏に灼(や)きつける羽目になったのだ。

あれよあれよという間に抱きすくめられて、首すじをガブリ!とやられてしまった母さんは、
あっという間にいちころだった。
気絶してうつ伏せに倒れた足許に男は這い寄って、母さんの脚を吸っていた。
肉づきのよいふくらはぎから、肌色のストッキングを咬み剥がれてゆくありさまを、父さんも僕も、息をつめて見守るだけだった。
そのあと男は、はぁはぁ息をはずませながら、まるで飢餓に苛まれた者がやっとご馳走にありつくような顔つきをして、
母さんの身に着けていたブラウスをはぎ取り、スカートをたくし上げて、コトに及んでいったのだ。
そんなこと――エッチなビデオのなかだけのことだと、思い込んでいたはずなのに。
こうこうと照り渡る灯りの下で、母さんの身の上にあからさまにおおいかぶさっていったのだ。
ひざ下まで脱がされたパンストを片脚だけ穿いたまま、
母さんはひと晩じゅう、男を相手に強制された浮気に夢中になっていった――

「家庭が崩壊するかと思ったわ」
大きな瞳で見つめられると、息子の僕ですらどきりとする。
けれどもそんなことには全然無自覚な母さんは、すぐに目線を転じて彼を見た。
「ところかまわず襲うのだけは、やめてくださいね。お部屋が汚れると、あとのお掃除がたいへんなの」
自分の血を吸った吸血鬼を相手にこともなげにそう言ってのける母さんは、すっかり主婦の顔に戻っていた。

初めての夜のあと、開けっ放しになった夫婦の寝室から、それとなく漏れてくる気配と声に、
失血で空っぽになりかけた頭のなかで、知覚と理性とを総動員させて、僕は全神経を集中させていた。
母さんは父さんのまえ、正座して俯いて、時々ハンカチで目許を拭っていたけれど。
父さんにいろいろと囁かれると、「わかった。じゃあ申し訳ないけどそうするわ」と言って・・・
あとは、父さんに肩を引き寄せられるままになっていた。
吸血鬼とのセックスは凝視してしまった僕だったけれど、ふたりのそのあとのことは視るのを遠慮して、スッと二階に上がっていくだけの理性を取り戻していた。
どうやら僕の家庭は崩壊しないで済むらしいことに、ひどく安堵を覚えながら、眠りに落ちていった。
父さんが、すべてを許すのと引き替えに、
母さんが当分うちに滞在するという吸血鬼の相手をすることを承諾したのを、二人の態度からあとで知った。

初めはもちろん、しぶしぶだった。
貧血で気絶してしまうことも、しょっちゅうだった。
けれども僕たちに対する男の態度は終始一貫友好的で、
寝室で母さんと接する時ですら、おおむね紳士的な態度を貫いていた。
もちろん、セックスの最中は、昂奮のあまり母さんのことを必要以上に虐げてしまうことはあったけれど・・・
気絶した母さんの身体にのしかかって、よそ行きのブラウスやワンピースにバラ色のしずくを撥ねかせながら母さんを襲っているときも。
流れる血潮を惜しむように、素肌の隅々にまで唇を這わせて、それは美味しそうに吸い取っていた。
もちろんそれは、母さんの素肌を愉しみたいという、卑猥な欲求の表れでもあったはずだけれど。
母さんの血を吸いあげるチュウチュウという音にさえ、好意がこもっているようにさえ聞こえた。
忌まわしいはずの音にさえ好意を感じることができたのは。
メインディッシュである母さんが襲われるまえ、僕たち親子が相手をして、したたかに血を吸い取られて理性を奪われてしまうせいもあったのだろうけれど。
正気の時でさえ、彼と気分よく接することができたのは。
きっと、そうした力ずく以外のなにかを、僕たちが感じることができるようになっていたから。

男ふたりは、彼の渇きを補完するため、母さんよりも先に血を吸われた。
僕たちがぶっ倒れてしまったあと、さいごに母さんのことを寝室にひき込んで、じっくりと料理してしまうのだ。
そのうちに母さんも、コツを覚えてしまったらしい。
毎晩気絶していたはずの母さんは、さいごまで目を開けたまま、男の相手を果たすようになった。
気絶したまま犯されてしまっていたのも、自覚しながらのセックスになっていったということでもあるけれど――
そういう生々しい表現を、息子の立場でしてしまうのはちょっと気が引ける程度には、僕の理性はまだ残されている。

自分の喪う血液の量が、なんとなくわかるようになった・・・あるとき洩らした母さんの呟きは、本音だったかもしれない。
相手が満足するだけの量の血を与えたうえで、自分の受けるダメージも限られるように。
彼女は自分の体内をめぐる血液を、相手に過不足なく摂取させることができるようになった。
それだけ、吸血鬼のあしらいに長けてしまった――ということなのだろう。
彼女は僕たちに栄養のバランスのとれた朝ご飯や晩ご飯を用意するように、彼にも好物を惜しげもなく愉しませることができるようになっていった。
相変わらず、よそ行きのスーツやワンピースを身に着けて、気前よくはぎ取らせてやりながら。
彼女はどこまでも堅実な主婦であり、賢夫人としての評判を崩すまいと振る舞ったのだ。

評判の賢夫人とうたわれた母さんは、家族と彼しかいないわが家でも、立派に賢夫人を演じつづけた。

「将来結婚するときには、母さんのような人を嫁にしなさい」
最近父さんは、そんなことをよく口にする。
たまたまそれを耳にした母さんは、「いやぁよぉ、そんなこと言ったら」と、柄にもなく照れていたけれど。
どうやら父さんにとって、それは本音らしかった。
「よかったら、父さんがいい娘を紹介してやろうか?」
思わず頷いていた僕は、明日お見合いをする。
きっと・・・我が家の秘密を知った家のお嬢さんで、我が家に棲み着いた客人をもてなすすべも、それとなくわきまえているのだろう。
彼女が提供できるのは、彼にとって究極の好物である、処女の生き血。
婚約期間は、見合い結婚としては異例なくらい、長引くに違いない。
そしてその娘が、晴れて僕の花嫁になったとき。
僕はきっと、言い含めてしまうのだろう。
「相手が満足するまで、お相手するように」
って――
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