FC2ブログ

妖艶なる吸血

淫らな吸血鬼と倒錯した男女の織りなす、妖しいお伽噺・・・

純白のドレスの追憶

2017年01月24日(Tue) 07:35:52

もう、大昔のことだけれど。
あたしが青春時代を過ごしたのは、ヨーロッパの某国の宮廷社会。
そこではね、処女の子は純白のドレスを着て、社交界デビューするの。
あたしもそうしたなかの、ひとりだった。
子爵令嬢だったのよ。
母はとても美人で、宮廷でも浮き名を流したひとだったから。
あたしが深窓でそだれられているうちから、まだあたしのことを見もしない殿方がわれもわれもと、求婚を殺到させたの。
それで、17でデビューすることになったのよ。
父はきれいに着飾ったあたしのことを、遠くから心配そうに見つめていたわ。
きっと、娘に悪い虫がつきやしないかと、気になったのね。
でも、結果はもっと、悪い虫がついてしまったの。

そう。
初めて人前で、細い肩をまる見えにさせて、
そらぞらしい外気と、騒々しい喧騒と、昂るようなシャンデリアの眩きの下、
あたしは夢中になってた。
いつの間にか黒い影が傍らから寄り添って、周囲の視界からあたしのことを遮っていったのも、うかつにも気づかずにいた。
それは、処女がもっとも忌むべき相手だったわ。吸血鬼だったの。
たしかに、そう――伯爵と名乗っていらしたわ。
そのかたはあたしを、廊下に呼び出して。廊下の隅の小部屋に引き入れて。
ドキドキするような冷たい瞳を輝かせて、
お互いの瞳を吸い取るように見つめ合って、
顔と顔とを、近寄せあっていた。
その瞬間まで、若い殿方と思っていたその人が、じつは老いさらばえた老人だとわかったときには、
唇と唇とが、触れ合いそうなほど顔を近寄せあっていた。
唇で受け止めようとした唇は、あたしの肩先に這わされて、
チクリ――と、冷たい感触を、あたしの薄い皮膚に滲ませてきた。
ググッと突き入れられる疼痛と、それに応じるようにあふれ出る鮮血のぬくもり――
あたしはそのまま陶然となって、生き血を吸い取らせてしまっていたの。

きっと、気前の良い子だと思ったことでしょう。
その夜その小部屋から出ることのできぬまま、
あたしは身体じゅうの血を、一滴あまさず、そのかたに差し上げてしまったの。
冷たく横たわるあたしを目にして嘆いた両親は、その翌晩にはもう、
あたしと、あたしの血を吸ったあの方との毒牙にかかって、こちらの世界に移り住んでくれていた。
ね?わかるでしょ。
この病はね、伝染するの。
あなたもあたしを視てしまったということは――もう伝染(うつ)っちゃっているわね。

え?ヨーロッパの宮廷に憧れるんですって?
純白のドレスにも憧れるんですって?
もっとそのころのことを教えてほしい。勉強したい、ですって?
そうね。あなたもいま、純白のドレスを着ているものね。
かわいいわ。あなた。ドレスもとっても、よく似合っている。
でも、ダメよ。見逃してあげることはできないわ。気の毒だけど。
あなた、ここであたしに血を吸われて、肌を透きとおらせてしまなければいけないのだから。
そうよ。一滴余さず、味わってあげる。

若いひとの生き血にありつけるのって、なん十年ぶりかしら。
そう、あなたのお父様・お母様のお若いころ以来だわ。
そのころはまだ、ストッキングを穿いた若いお嬢さんが、ふつうにいらしたけれど。
いまの若いひとって、ストッキング穿かないのね。つまらない。
でも、正装するときにはさすがに、脚に通すことになっているようね。
あとであなたが気を喪ったら。
純白のドレスのすそを、腰まで引きずりあげて、
ピンク色に透きとおる脚から、純白のストッキングを咬み破いてあげる。
びりびり、ブチブチ・・・ッて、思い切り見苦しく。はしたなく。ふしだらに!
ウフフ。
そんな仕打ちを受けてもあなた、気づかないのよ。もう、気づけないのよ。
だって。
そのときにはもう、あたしの奴隷になって、白目を剥いて気絶しちゃっているんだもの。
でも・・・そこは選ばせてあげてもいいかな。あなた、かわいいから♪
正気のまま生き血を吸い取られ、花嫁衣裳を辱めてもらいたい?
そんなふうにして、生きながら血を吸い取られて、あたしの奴隷に堕ちていきたい?
それも、楽しそうね。そうね、きっと楽しいわ。
結婚を控えているから、やめてください、ですって?
甘いわ、あなた。
だから、妬ましいの。だから、憎らしいの。
あたしだって。あたしだって。17で吸われたのよ。
恋の楽しみも、キスの快楽も知らないで。
だからあなたにも、そうしてあげる。
ね?あなたの若さで、あたしのことを慰めて。
たったひと晩で、かまわないから。
つぎの日の夜は、あなたのお通夜になるわ。
みんな黒のストッキングを穿いて、若くして亡くなったあなたのことを悼むの。
どう?嬉しい想像でしょ?いまから、ゾクゾクするでしょ?あたしに血を吸い取られたくって、たまらなくなって。
じゃあ、そろそろいただくわ。
美味しく、美味しく、いただくわ。
怨むなら、百年以上まえにあたしのことを襲ったあのひとのことを怨んで。
あたしは、あなたに恋しただけ。
だから、あなたの若い血を、身体じゅうに宿してあげる。
人生初めてのキスを、女のあたしから・・・・・・。

ちゅうっ。

――目が覚めたとき、枕元に置かれた手鏡に映した私の首のつけ根に、赤黒い歯型がありありとついていた。
きょうは、お見合いの日。
ああ、血が欲しい。うら若い女の血が欲しい。
きょうのお見合いの相手には、きれいなお母様と年頃の妹さんがいるという。
どこにお連れすればいいの?
命令してください。お姉さま・・・
前の記事
いやはや。
次の記事
サッちゃんと母親と。

コメント

ウィーンのオペラ座で毎年開催されるデビュタント舞踏会を一番に思い出しました。純白のドレスに身を包んでパートナーにエスコートされながら踊るウィナワルツ。そんなシチュは激しく憧れます(笑)

女吸血鬼っていうのも違和感ないですね。若い血が欲しいって言うのは男女関係なく吸いたくるものなんでしょう。

あぁ、純白のドレスに身を包み、吸血されたくなります。
by ゆい
URL
2017-02-05 日 11:29:04
編集
> ゆいさん
> デビュタント
まさにそれをイメージして描いたお話です。
ピンと来てくれる読者がいらっしゃると、やっぱり張り合いがありますね。
(#^.^#)

以前女性読者のかたに、
「柏木さんのなかには、怖い女の人が棲んでいる」
といわれたことがあります。
ひさびさに、発動したかも。^^
by 柏木
URL
2017-02-06 月 06:33:20
編集

コメントの投稿

(N)
(B)
(M)
(U)
(T)
(P)
(C)
管理者にだけ表示を許可する
トラックバック
http://aoi18.blog37.fc2.com/tb.php/3393-537c4ef7