淫らな吸血鬼と倒錯した男女の織りなす、妖しいお伽噺・・・
互いに互いを ~地方赴任者たちの、お愉しみパーティー~
2017年02月12日(Sun) 07:19:02
きょうは、新規に転入してきた社員夫婦を招いての、ホームパーティー。
つきあいの良い事務所長宅は地元の旧家を改造した広大なお邸で、
こういう集まりにはうってつけだ。
招かれた夫婦は、わたしよりも10歳くらい後輩の、三十代後半。
娘が一人いて、いまは転入したばかりの私立中学で、授業を受けている時分だろう。
集まったのは総勢、十数人もいるだろうか。
一同親し気に笑いさざめいてはいるものの――
なかなかどうして、この宴には裏がある。
そもそもこんなパーティーを企画するようになったのは、いつのころからか。
じつは転入者のだれもがくぐり抜ける通過儀礼なのだとわかるのは、すべてが終わったあとのこと。
げんに半年前の、わたしのときがそうだった。
この街の人たちね、吸血鬼と共存しているんですよ。
ここに来る以前から顔見知りだった同僚が、ふとそう囁くと。
一同は一瞬押し黙り、突然部屋の明かりが薄暗くなった。
首のつけ根に鈍痛を感じ、眩暈を起こして。
振り返ると隣にいた見慣れない地元の老人が、吸い取ったばかりのわたしの血を、口許にしたたらせていた。
次は妻の番だった。
失血に眩暈を起こしたわたしは、その場に尻もちを突いて、動けなくなっていた。
老人は猿(ましら)のようなすばしこさで、向かいに座っていた妻に襲いかかった。
キャッと叫んで飛びのこうとした妻は、
あろうことか左右にいたわたしの同僚二人に抑えつけられて、
わたしと同じ経緯で老人に頭を掴まれ、首すじをがぶりとやられてしまっていた。
半死半生になったわたしは、ただ抜け殻同然となってソファに横たわり、
脚を吸われた妻がストッキングを咬み破かれながら、むざむざと血を吸い取られてゆくのを、見守っているよりなかった。
そのあとは――落花狼藉である。
わたしたち夫婦を堕落させることに協力した同僚たちは、てんでに妻の上に群がって、欲望を成就させていったのだった。
相手がわたしの同僚と知った妻はけんめいに抗ったが、だれもが隙だらけの装いのなかに指を差し入れていって、かわるがわる、想いを遂げていった。
「けっこう手こずったね」
みんなは顔を見合わせて笑った。
お互いの健闘をたたえ合うような、妻の頑強さを賞賛するような、たぶん両方の意味でのくったくのない笑い。
「そう悔しがるなって。つぎに転入者が来たときには、あんたもいい想いできるんだから」
同僚の慰めは、共犯者の誘惑だった。
さいごはわたし自身が妻に覆いかぶさって、妖しく昂った熱情を、いままでになく激しく突き入れていた。
そうすることで目のまえの落花狼藉を認めてしまったわたしは、
留守宅に交代で妻を訪ねてくる同僚たちをそれ以上咎めることもなく、
夢中になってしまったことを全身で告白してしまった妻は、
わたしの態度をいいことに、それまでの貞淑妻の仮面をかなぐりすてて、日がな情痴に耽るのだった。
笑いさざめく口、口、口――
それらの口はどれもが、妻の素肌を這った口。
彼らの妻たちも数人、顔を並べていたが、それはきょうのヒロインが凌辱されている間手持無沙汰な順番待ちの解消要員。
そのなかにはむろん、妻の姿も含まれている。
一座の男たち全員の奴隷に堕ちた妻がいる。
同僚の妻たちも皆、同席している男性すべてを識っていた。わたしのことも、よく識っていた。
この街がまだ山間の寒村だったころ、夜這いの風習があったという。
だから、吸血鬼がなじみやすかったのさ。
だれかがそんなことを言っていたが、きっとそうなのだろう。
彼ら地元の者たちは彼ら同士で、互いの妻と親睦を深め合っているという。
わたしたちが同じ風習を平和裏に真似て、何が悪いというのだろう?
きょうの主賓は、地元の長老格のひとりだった。
彼は、ストッキングを穿いた都会育ちの女たちの脚を好んで辱めようとする。
その場に居合わせる都会妻たちの、ひとりを除く全員が、彼にストッキングを咬み破かれていた。
一座の男性の、やはりひとりを除く大半は、妻を最初の餌食に献上する羽目になっていたし、
あの日わたしの隣に腰かけたのも、この男だった。
彼の唇はいままでになん度、わたしたち夫婦の血をあやしたのだろう?
いまとなっては、そんな勘定は意味をなさないくらい、彼の唇はわたしたち一家の血潮をなじませてしまっている。――娘を含めて。
あの晩の出来事は、わたしたち夫婦のなかでも塗り替えられて、
わたしのほうからあの男に、妻の貞操を奪って欲しいと懇願したことになっていた。
なにも知らない初顔の奥さんは、亭主に言われるままによそ行きのスーツをきっちりと着込んできていて。
ライトイエローのタイトスカートの下からは、白のストッキングに透けたふくらはぎを、
それとは意識することなく、ジューシーに見せびらかしている。
部屋の照明を照り返してじんわりと光沢を滲ませているストッキングが、
あと数刻でむざんに咬み破られるなど、
きっと、夢にも思っていないはず。
笑いさざめく口、口、口――
それらの口がほんの一瞬、いっせいに閉ざさるとき。
あの老人は亭主にひと言囁いて・・・
そして部屋の灯りが突然、薄暗くなった。
追記
ひと月ほど前に創作、今朝改稿。
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