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妖艶なる吸血

淫らな吸血鬼と倒錯した男女の織りなす、妖しいお伽噺・・・

別離の朝

2006年07月04日(Tue) 07:17:16

きょうかぎり・・・なんだね?
ああ・・・
妻の上から身を起こした彼は、とても鬱した横顔を隠そうとしない。
夫婦のベッドのうえ。
明け方は、もうすぐだった。
私は二人の傍らで、大の字になって。
うなじにはまだ、じんじんと疼く傷痕―――。
散らされた血潮が、まだパジャマをぬらぬらとさせていた。

まず夫のうえに。
そして、その妻に。
順ぐりにのしかかって、生き血を啖う。
いつもの彼のやり口に、いつも口を尖らせながら。
夫ならぬ身に抱かれたまま、悩ましく悶える妻の横顔に、
ヤツの冷たい頬がそのまま重なるのを、
幾夜となく、見守ってきた。
淫ら絵を見初めた少年のころのように、ドキドキと胸はずませながら。
それがヤツのかけた魔法なのだと知りながら。
みすみす、すすんで、術中にはまりこんでいった。

遠くへ行く。
ただ、それだけ。
いつ、戻る?
さぁ、当分は・・・
ひそめた眉に映る寂しさに、思わず引き込まれてしまっていた。
仇敵どうしのはずなのに・・・

おれの「当分」は、貴方がたと違うのだ。
なん年、なん十年。幻のように。あっという間に過ぎてしまう。
もう、若いわたしたちに、逢うことはないのかね?
たぶん・・・
そう応えて。ヤツはとても心細げな目をしていた。

夫婦ながら、生き血を吸われて。
でも、ヤツのやり方はフェアだった。
辱めるのはやめてもらいたい。
ヤツが新妻に膚を迫らせたとき。
とっさに投げたひと言に。
ヤツはひどく忠実になってくれた。
あくまで、血を摂るだけの関係。
それでもガマンならなかったのか、
しばしば妻の身に着ける衣裳を要求された。
求められるままに貸し与えたネグリジェやスリップ、それにストッキング。
ほとんどは戻ってこなかったけれど。
いつのことか、悪戯心たっぷりな笑みを浮かべて返してくれたストッキングは、
みるかげもなく破れ、透明な粘液をからみつけられていた。

もうじき、夜明けだな。
ヤツは妻の上、ちょっとだけ身を起こして。
ただ、時間の経過という事実を確認する。
そんな乾いた口調で呟いた。
私はすっと身を起こした。
失血のわりに、我ながらかるがるとした身のこなし。
座をはずすよ。
え・・・?
見あげる彼に。
きみは、約束を守ってくれた。
だから、感謝のしるしに、私が一番大事にしている宝をゆだねよう。
しばしのあいだ、妻とふたり。
別れを惜しむがいい。
ふと我にかえった妻もまた。
彼の腕のなか、ウットリと笑みながら。
私のほうを見つめて深く頷いて。
悪戯っぽいウィンクを投げてくる。

ふたりと私を隔てて閉ざされた扉の彼方。
ぎしぎしときしむベッドのうえ、
ふたりは初めて、哀憐に身を焦がす。
切れ切れに洩れてくる、かすれた声―――。
妻は生涯、貞淑でありつづけるだろう。
己のため、私のためだけばかりでなく。
彼のためにも・・・


あとがき
「別れの・・・」とか、朝と名のつくものには別離を示すものが目だちます。
吸血鬼ものでも、朝は別離を意味します。
朝日を浴びるまでとどまれば、それこそ永遠の別離に・・・(笑)
たぶん。ですが。
夜の逢瀬の終りが朝であることが。
朝と別離とを、強く結びつけているのでは、と。
雨雲の彼方から洩れる一条の朝日をみながら、ふとそう感じました。
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コメント

考えちゃいます
 もし、他の人に抱かれるという事を
彼が知っていて、容認したら・・・。
きっと、大喧嘩になるだろうなぁ。
「あたしの身体に他の人が触っても平気なの!?」
やっぱり、浮気は内緒のほうがいいと思うさやかでした。
でも、彼が浮気したら、もう、朝日は拝ましてあげませんけど。
by さやか
URL
2006-07-04 火 10:06:52
編集
彼は・・・
どこへ行くのでしょうね。
時を経ても変わらない身体とどこまでも成熟してゆく心。
ただ、血を啜るには・・・柏木さんと由貴子さんに気持ちが移りすぎたせいでしょうか。
思い出の一夜をプレゼントしてくれた夫に
わたくしなら、彼が去ったあとでありがとうのキスをしてしまいそうです。
by 祥子
URL
2006-07-05 水 12:05:08
編集
>さやか様
抱かせた女がどうでもいい女なら、このお話にはなんの艶もありません。
かけがえのないただひとりの女(ひと)だから、せつじつな彩を添えるのだと思います。
けれどもそれを巧く伝える能力が、まだありません。
次回に期待しましょう。^^;

>朝日は拝ましてあげません
おお怖。
彼氏にはくれぐれも優しく・・・ね♪
by 柏木
URL
2006-07-06 木 04:20:30
編集
>祥子様
きっとすき間もないくらい。
ぴったりと寄り添って。
そのあとのひと刻を過ごすのだろうと思います。
喪われたものを、惜しみながら。
喪われた人をも、惜しみながら・・・
by 柏木
URL
2006-07-06 木 04:23:08
編集

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