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妖艶なる吸血

淫らな吸血鬼と倒錯した男女の織りなす、妖しいお伽噺・・・

ホテルに消えてゆく、婚約者の後ろ姿。

2017年02月23日(Thu) 06:59:42

来月結婚するはずだった瑠美子さんが、ぼく以外の男といっしょに、ホテルのなかへと消えてゆく。
セミロングの黒髪をかすかに揺らし、淑やかな雰囲気のロングスカートを風にたなびかせて、
肌色のストッキングと白のパンプスで装った足取りは、意外なくらいまっすぐに、
ホテルのなかへと消えてゆく。
相手の男は、ぼくが幼いころから慣れ親しんだ、吸血鬼の小父さん。
「すまない、瑠美子さんの血を吸ってしまった」
絶句するぼくの前。
羞ずかしそうにうつむく瑠美子さんの前。
小父さんもちょっぴりだけすまなさそうに、表情を翳らせた。
「私は別れたくないけど・・・いまでもあなたのこと愛してるけど・・・タカシさんが厭だったら私と別れて」
そんなこと。結納も済んだ後に言われて、どう振る舞えばよいのだろう?

瑠美子さんがぼくと一生添い遂げる覚悟をしていることに変わりがないのを確かめたうえで、
ぼくは式の日取りを三か月だけ、引き伸ばすことにした。
――小父さんに少しでも長く、瑠美子さんが処女のまま血を吸わせてあげるために。

人目を忍ぶ逢瀬とはいえ、意味はふつうの男女のそれと違っている。
真っ昼間の公園で、若い娘が吸血鬼に首すじを咬まれて血を流していたら、
だれでもびっくりしてしまうだろう。
それに――小父さんは処女の生き血を最も、好んでいた。
もっとも、既婚の女性の生き血を吸うことも、ぼくははっきりと知っている――母の記憶を通して・・・

2時間後。
瑠美子さんは小父さんに伴われて、ホテルのロビーから姿を現す。
悪びれることなく、いつも淑やかな彼女らしくない、おおらかな笑いを泛べて、
活き活きとした足取りで、ぼくのほうへと歩み寄って来る。
「お待たせ。行こ」
セミロングの黒髪をふさふさと揺らし、白い歯までみせて、
瑠美子さんは何事もなかったように、ぼくに朗らかな声を向ける。
ぼくは小父さんに見せびらかすように彼女と腕を組み、
小父さんとはひと言も言葉を交わさずに、きびすを返してゆく。
朗らかに笑う瑠美子さんの横顔は、いつもと変わらないみずみずしさをたたえていたけれど。
首すじにつけられた咬み痕に浮いたかすかな血潮と、
ふくらはぎの上、ストッキングにひと筋太く走る裂け目とが、
交々に、ぼくの網膜を悩ませた。

式を挙げてしまったあと。
「きみたちには小さな子が要りようだから」
そう言い残して、小父さんはぼく達新婚夫婦のまえから姿を消した。
それから十数年、当たり障りのない日々を経て――
目許にすこしだけ小じわが浮いた瑠美子さんは、昔と変わらない黒い瞳を輝かせて、
整った目鼻だち、淑やかな振る舞いも若い日のままに、
若作りかも知れないけれどよく似合うピンクのブラウスにロングスカート。
足許を染める、グレーのストッキング。
「じゃあね」
と、いつもの無邪気な声色を残して、
初々しい装いのまま、小父さんに伴われて、ホテルのロビーへと消えてゆく。

密室のなかでくり広げられるのは、
週に2~3回はくり返される、当家と彼との間の懇親の儀式。
良妻賢母のかがみのような、一家の主婦が。
そのときだけは、娼婦に変わる。

ホテルのなかで起きたことが、夫婦の間で話題になることは、決してない。
彼について瑠美子さんが声を開くのは、
年ごろになった娘を、いつ小父さまに逢わせるか――
「真奈美の初体験は、あのひとにあげたいな。私の代わりに」
そんなことをさりげなく口にして、
どきりとして固まったぼくから、さりげなく目線をはずしてゆく。
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