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妖艶なる吸血

淫らな吸血鬼と倒錯した男女の織りなす、妖しいお伽噺・・・

お見合い相手。

2017年02月23日(Thu) 08:03:09

そのひとをひと目見て、
グッと引き込まれるような、引力を感じた。
若い女性と接することで、そういう気分になったのは、ぼくにとっては初めてのこと。
栗色のロングヘアに包まれた、かっちりとした輪郭の細面。
細いけれども秀でた眉の下、大きな瞳が魅力的に輝いていた。
けれどもぼくを一瞬にしてひき込んだのは、そういう表むきの美しさだけではなかった。
なにか得体のしれない、独特のかもし出す雰囲気が、
寄り添うほどの親近感をもって、しなやかに柔らかく、迫って来たのだ。
さいしょの数秒だけで、このひとと結婚しても良いかな?と思えたのは。
その場がお見合いの席で、その女性――里美さんが当のお見合い相手であった以上、
これほど幸せな瞬間はなかったことになる。

父の知人のえらい人という仲人夫婦も、先方のご両親も、
どうやら頭のあがらない相手らしい仲人に、終始気を使いつづけた両親も退席して、
ふたりきりになっている――と気づいたのは、話がはずんで二時間ほども経った頃のことだった。
「もういいでしょう、私の秘密をお話しますね」
しっとりと落ち着いた口調で、里美さんはそう切り出した。
その秘密とは、もしも結婚を考えてくれるのなら、そのまえに話さなければアンフェアになることで、
ふつうなら、じゅうぶん結婚の障害になり得ることでもあるという。
危うく里美さんにひと目惚れしかかったことが、彼女に通じたというのか。
いや、それだけでは、きっとないはず。
秘密というのは、自分にとって重要な存在になるかもしれない相手と認めて、初めて打ち明けるべきもののはず。

「私、トランスジェンダーなんです」
はっきりとした口調で、さりげなく綴られた告白。
気後れすることのない語調を吐いたそのひとは、まっすぐな瞳で、ぼくのことを見つめ返してくる。
トランスジェンダー。
かつてこの女(ひと)は、男性だったという事実――
「そんなふうには、とても見えません」
思わず口走ったぼくは、坂道を転げ落ちるように言いつのろうとした。
もしもあなたがそうだとしても、そんなことはなんの障害にもならないこと。
両親がどういうか、そこだけはちょっとだけ気がかりだったけれど、
何よりも自分たちがもってきた、ほぼ無理やりの縁談だったはず。
仮に反対があったとしても、押し切るつもりがあるということ。
そのうえ、なによりも・・・
ぼくの言いたいことを彼女はさえぎるように、さらに口調を強めていた。
「もうひとつあるんです」

吸血鬼の存在って、信じますか?
いえ、ムリにお信じにならなくてもいいんです。
私、吸血鬼に血をあげつづけているんです。
相手は親よりも年上の男性・・・私、そのひとのために、女になったんです。
でも彼は、おおぜいの女性を相手にしないと、生きのびられない。
そして私は、私をたった一人と思ってくれる男性と、添い遂げたいと望んでいる・・・
どうすればいいんでしょう?私。

言いたくないことを口にせざるを得なかった人のもつ、
寂しく、恥ずかしく、後ろめたい想いをめいっぱいよぎらせて、
里美さんは身をよじらせるほどに顔つきを翳らせ、うつむいた。

あの、ひとこといいですか・・・?
こんどはぼくが、打ち明ける番だった。

ぼく、女装趣味があるんです。
物心ついたころから、女のひとの服を身に着けたいという願望があって、
母のスカートを内緒で履いているところを見つかって、物凄く叱られて、それがトラウマになって。
それでも、女装することをやめられなくって。
思い詰めた両親は、ぼくを結婚させることで、そういう世界から断ち切ろうとしているんです。
でもたぶん、ぼくにはそれができない・・・

「わかりますよ」
里美さんはもとの落ち着いたほほ笑みを取り戻し、ぼくのことを見つめている。
そして彼女は、悪魔のような囁きを、ぼくの耳の奥にこびりつかせたのだ。

――もしもこんな私とご縁を続けてくださるつもりがあるのなら。もういちど、逢っていただけませんか?
・・・・・・こんどは女の服を着て。

「まあ、素敵」
長身の里美さんは、ぼくとさして変わらない高さの目線で、柔らかな瞳を輝かせた。
服の選択にはポリシーがあったけど、メイクにはあまり自信がないぼくのことを、包み込むような優しい視線。
「女どうしとしても、お友だちになれそう」
そういう彼女とは、服の好みも似ていたのかも。
楚々とした立ち姿の里美さんは、ワインからのボウタイブラウスに、紺のロングスカート。
人前に女装姿をさらすのが初めてのぼくは、純白のボウタイブラウスに、ライトイエローのタイトスカート。
申し合せたように脚に通した黒のストッキングのつま先を並べて、行く先は仲人夫妻のお邸だった。

案に相違して、仲人夫妻は不在だった。
代わりにその邸で待ち受けていたのは、里美さんの血を吸っているという吸血鬼――
案に相違して、ごく穏やかなジェントルマンだった。
「映画に出てくるような化け物を連想していましたか?」
ご期待に添えなくてすみません、と、老紳士は快活に笑った。

ぼくの女装姿は、あるべき女性の理想像だった。
じゅうたんのうえにあお向けになって。
首すじに、そのひとの唇を受け容れたとき。
ぼくの胸の奥に棲みつづけていた理想の女性は、彼のものになっていた。
そして、女としてのぼくを捧げることに、ぼくはぼくなりの歓びをひたひたと感じていて、
そんなぼくのようすを、里美さんは目を潤ませて見つめつづけていた――

彼女と結婚します。
婚約期間は、1年――
ちょっと長いかもしれませんが、理由はわかりますよね?
貴男に、里美さんの血を処女のまま、長く愉しませてあげたいから。
そしてぼく自身も、ぼくの婚約者が貴男と密会をつづけることを、愉しんでしまいたいから・・・

婚礼の席で。
母も、姉も、妹たちも、吸血鬼の小父さまの縁類たちに、淫らなお祝いをされていった。
そうなるまえに。
母も、姉も、妹たちも、順ぐりに。
里美さんをモノにした小父さまの毒牙にかかって征服され、堕とされていたから、
父も、妹の彼氏たちも、姉婿までもが。
その状況を受け容れて、ただの男として、愉しんでいた。

幸せのるつぼ。
婚礼の最初は、タキシードだったぼくは。
お召し替えのときに、里美さんとおなじ純白のウェディングドレスに着替えていて。
誓いのキスのあと、衆目の見つめる中、里美さんと代わる代わるに、小父さまの熱い唇を首すじに受け止めていったのだった。
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コメント

トランスジェンダーを理解し、女装趣味を理解できる関係って素敵。里美のお話が、ゆいにダブってきます^^
by yui
URL
2017-02-26 日 08:58:36
編集
> yuiさん
お互いをわかり合うのに、共通点は助けになるものですが、
その共通点が秘めるべきものであるとき、絆はいっそう深くなります。
これは、お互いが秘めるべきとされるものを抱えている同士での、最も幸せな出会いと言えるでしょう。

巻き込まれてしまったお母様や姉妹、姉婿さんまで歓びに目ざめてしまうのは、例によって出来すぎなお話ですが、そこはご容赦くださいませ。
by 柏木
URL
2017-02-27 月 07:51:31
編集

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