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妖艶なる吸血

淫らな吸血鬼と倒錯した男女の織りなす、妖しいお伽噺・・・

共感。

2017年03月08日(Wed) 06:27:25

ハイソックスを履いたぼくの脚をギュッと床に抑えつけて、
カツヤくんはぼくのふくらはぎを咬んでいた。
きつくつねられたみたいな痛みを帯びて、
カツヤくんの唇が、ぼくの血を吸いあげてゆく。
真新しい紺のハイソックスは、ぼくの血潮で生温かく染まっていった。

眩暈を感じても。
頭痛を訴えても。
カツヤくんはぼくの脚を放してくれようとはしなかった。
そのうち意識が遠くなって、ウットリしてきても。
それでもカツヤくんはぼくの脚に執着しつづけた。
ぼく、死んじゃうの?
放った質問の意味と、われながらシンとしたその言葉の響きとに、
ぼくは内心どきりとして、そしてなぜだかわくわくしていた。

なん度呼びかけても応えてくれないカツヤくんに、なん度めか。
われ知らず、ちがう質問を放っていた。
――ぼくの血が、おいしいの?
カツヤくんは初めて顔をあげ、口を開いた。
――ウン、おいしいね。
しんそこ嬉し気な声だった。
カツヤくんは口許に、ぼくから吸い取った血潮を、べっとりと光らせている。
ふだんだったら卒倒しそうなその光景をみて、ぼくは思わずつぶやいていた。
――きみの頬っぺたには、ぼくの血が似合うんだね。
カツヤくんはぼくに向けて、初めて笑いかけてきた。
――気に入ってくれて、よかった。
あり得ないやり取りを口にしながら、ぼくはなぜか満ち足りていた。
カツヤくんもとっても、満足そうだった。

きみのパパの血は、僕のママが。
きみのママの血は、僕のパパが。
いまごろたっぷりと、吸い取っているさ。
きっとそれぞれ、仲良くなって。
いまごろは、打ち解けた関係になっているはず。
そう――家族ぐるみで仲良くなるって、そういうことさ。
この街で暮らしていくにはそのほうが、居心地よく暮らせるんだから。
カツヤくんの言いぐさは、まだ子供だったぼくには、意味が半分しかわかっていなかったけれど。
そう・・・って、ごくしぜんに相づちを打ってしまっていた。

これから泊りがけで、都会に行ってくる。
先月まできみの住んでた、あの街に行って、
きみの彼女のこずえさんの血を吸ってくる。
どう?うらやましいだろ?
きみはまだだけど、ぼくは彼女の血が吸えるんだぜ。
きっと――なにも知らないこずえさんは、見ず知らずのカツヤくんに征服されてしまうのだ。
彼女を征服される。
そんなおぞましいはずの想像に、なぜかぼくはふたたび、胸をワクワク昂らせてしまっていた。
こずえさんのうら若い、温かな血潮が、いまのぼくと同じみたいに、カツヤくんに吸い取られてしまう。
カツヤくんのことをうらやましと思えるのは、なぜ?
血を吸ったこともないぼくが、自分自身がこずえさんの血を味わったような気分になっているのは、なぜ?
その問いに対する答えが与えられるのには、すこしだけ時間がかかった。

おはよう。
ぼくの家の玄関のまえ、いっしょに都会に住んでいた時と全く同じように、
こずえさんは制服の肩先に三つ編みおさげの黒髪を揺らして、いっしょに学校に行こうと声をかけてくる。
幼い頃から仲の良かった、こずえさん。
将来はいっしょに結婚するんだと、ごくしぜんにそう思い込んでいた。
それが、父さんの借金のおかげで、住み慣れた街を夜逃げどうぜんに出ていくはめになって、
お別れも言えない永遠の訣(わか)れに、ぼくは胸を暗く閉ざしていたものだ。
それなのに。
都会の制服からこの街の女学校の制服に衣替えしたこずえさんは、いまぼくの前にいる。
顔色をちょっとだけ蒼ざめさせてはいたけれど。
イタズラっぽく覗かせる白い歯の輝きは、ひと月まえまで見慣れていたそのままだった。

ぼくはカツヤくんに、週1回血を吸われる。
こずえさんもカツヤくんに、週1回血を吸われる。
カツヤくんはこずえさんの血を欲しがるときにはいつも、ぼくにエスコートを頼むことになっていた。
ママがカツヤくんのお父さんに呼び出されるときと、同じように。
ぼくはカツヤくんの家の閉ざされた玄関のドアのまえ、1時間ほども待ちぼうけを食わされて、
彼女が咬まれる光景を想像しながら、じりじりとした刻を過ごす。
そのじりじりが、なぜか愉しくて。
こずえさんが吸われる木曜日が、ひどく楽しみになっていた。

「ヘンなひと」
こずえさんはぼくの態度にちょっぴりあきれながらも、イタズラっぽく輝く白い歯を、隠そうとはしない。
咬まれた後の白いハイソックスに撥ねた血を街じゅうに見せびらかしながら、
ぼくにエスコートされて、古びた商店街をおっとり歩くのが、いつか彼女の習慣になっている。
きょうもこずえさんは、濃紺のプリーツスカートの下、
真新しい真っ白なハイソックスのふくらはぎを、初々しく輝かしている。
ぼくはぼくで、彼女と同じ色のの半ズボンの下、濃紺のハイソックスのリブをツヤツヤとさせて、彼女の前に立つ。
こずえさんがぼくにナイショで、ひとりきりでカツヤくんのおうちにお邪魔して、
ふたりきりで逢っているのは、お互い口にしないことにしている公然の秘密――
でもぼくは、なかば血のなくなりかけた身体じゅうに、淫らに走り抜ける快感のなかで。
カツヤくんがこずえさんの血を吸い取ることにたいする共感を、なんら違和感なく受け止めてしまっている。
――将来はきみも、こずえさんの血を吸える身体にしてあげる。
もしかしたら空手形かもしれないそんな彼のささやきに、
ぼくはウンウンと嬉しそうに、うなずき返してしまっていた。
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