淫らな吸血鬼と倒錯した男女の織りなす、妖しいお伽噺・・・
あんた、糖尿だね?
2017年04月09日(Sun) 09:53:23
「あんた、糖尿だね?」
貧血を起こしてぶっ倒れたわたしの顔をのぞき込んで、やつは言った。
自宅に侵入した吸血鬼に手もなく首を咬まれたわたしは、ものの数分間でギブアップして、
リビングのじゅうたんの上に、寝そべってしまったのだ。
「血を吸わせてもらったお礼に、ちょっと毒素を抜いておいた。
あしたの人間ドックの結果、ちっとはよくなっているかもな」
自分の血を吸った相手に、わざわざお礼を言うのも変だな・・・と思っていると、
物音を聞きつけて、妻が入ってきた。
「どうしたんですか?えっ!?どなたですか!?」
あわてる妻もまた、わたしとまったく同じようにしてやつの猿臂に巻かれ、首すじを咬まれてしまった。
四十路女の熟れた血潮を、たっぷりとたんのうさせていただいた――あとで聞かされた、やつの言いぐさ。
たしかにやつは、妻の生き血を見るからに美味そうに、呑み耽っていった。
妻の場合は、それだけではすまなかった。
生き血を恵んでくれたご婦人とは、やたらと仲良くなりたがる・・・
巷のうわさをわたしは、直接見る羽目になっていた。
なにしろ、ひどい貧血で、身じろぎひとつできないでいたのだから。
そのあいだ妻はずうっと恥じらいつづけ、「あなた視ないで」と、苛立たしそうに言いつづけていた。
ワンピースのすそを腰までたくし上げられたまま、妻はなん度もイカされていった。
やつは欲望を果たしてしまうと、はだけたワンピースから覗いた胸の谷間から顔をあげて、
「ご主人すまないね」とわたしに向かってわびながらも、もういちど妻の首すじに唇を吸いつけて、咬みついていった。
妻はまだ、意識があった。
咬まれてゆくふくらはぎを見おろしながら、
穿いていたストッキングを舌でいたぶられ、チリチリに咬み破かれてしまうのを、妻は悔しそうに見守っていたが、
股間に荒々しく手を入れられて、破けたストッキングをつま先までずり降ろされて、ポケットのなかへとせしめられてしまうを、
もう無抵抗で受け容れてしまっている。
「ありがとう。時々吸わせてくだされや」
リビングであお向けになったままのわたしたちに、吸血鬼はねぎらうような声色で言い捨てて、忽然と姿を消した。
今夜も妻は、きちんとした服装に着替えると、やつの棲み処へと出かけてゆく。
「いいの。自分の役割わかっているから」
一本気で勝気な妻は、きょうもわたしの制止を振り切って、面と向かった化粧台から振り向こうとはしなかった。
しょせん私たちは、栄養源。それでもいいの。
家庭を壊したくはないし、彼もそれは望んでいない。あくまでご主人の顔を立てたいっていうの。
私もちょっとの貧血なら耐えられるし、なによりも――血をあげればその見返りに、愛してくれるから。
慰みものにされて咬み破かれてしまうと知りながら、ストッキングはいつも真新しいものを脚に通して。
「履き古しなんかだったら、恥かくから」
さいしょに襲われたとき、たまたま履き古したストッキングだったことを、彼女はまだ悔やんでいるらしい。
初めて咬み破いたストッキングは宝物なのだといって、恥じて回収したがる妻の求めに、やつは応じてくれないのだという。
そんなたわけた話まで聞かされながら、わたしもまた首すじの咬み痕を日々新たにし続ける日常。
しょせんわたしのほうは、栄養源なんだろう?ほんとうの目当ては、家内だろう?
問い詰めるわたしをまえにやつは、夫婦ながら血を吸うのが趣味なのだとしゃあしゃあと応えたものだ。
そういえば。
人間ドックの数値は、年々改善のきざしをみせて、担当医がいぶかるほどになっている。
考えてみれば。
すっかりご無沙汰だった夫婦の営みは、
やつの来訪を機に復活し、特に妻がやつの棲み処から戻ったあとは、迷惑がられるほどに強くなってしまっていた。
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