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妖艶なる吸血

淫らな吸血鬼と倒錯した男女の織りなす、妖しいお伽噺・・・

いちずな妻

2017年04月17日(Mon) 08:03:21

「ねえ、どうしてもあたし一人というわけにいかないの?」
妻の真悠子はいちずな顔つきになって、相手の男に話しかけていた。
男は真悠子から吸い取った血を、まだ口許にしたたらせていて、それを指先でもてあそんでいた。

夫婦ながらこの男に襲われたのが、ひと月ほど前のこと。
さいしょに咬まれた俺は、意識をもうろうとさせながら、いちぶしじゅうを見届ける羽目になっていた。
妻は俺の時と同じように首すじを咬まれ、キャッと叫び声をあげ、クラッと目まいを起こしてその場にひざを突いていた。
じゅうたんに伸びた脚を包んでいた肌色のストッキングが、男の好色な唇にくまなく舐め尽されたうえ、みるかげもなく咬み破かれてゆくのを、俺は歯噛みをしながら見つめるばかり。
妻は身体じゅうの血を舐め尽されたうえ、俺の目の前で犯されていった。

それ以来。
のぼせあがってしまった妻は、すっかり吸血鬼の虜になっていた。
呼び出されるままに夜中に出かけていって、公園の片隅で抱きすくめられ、
よそ行きのスーツを草切れだらけにさせ、ブラウスを惜しげもなく血浸しにして、
ことのついでにスカートの奥は、半透明の粘液で、これまた惜しげもなく浸していったのだ。
帰宅した妻に息荒く迫って、愛人相手のセックスにまだ火照った身体を抱いてしまったとき、
俺は無言でふたりの関係を認めたことになってしまっていた。

妻は嫉妬深い女。
俺がなんどかしかけた浮気は、いずれも血みどろの修羅場で幕切れになった。
そんな妻のことだから、吸血鬼が夜ごとに相手を変えて夜の街をさまようことに、我慢がならなかった。
けれども、吸血鬼に毎晩抱かれてしまったりしたら、そこに待つのは死――
そう、ひとりの身体にめぐる血液の量では、彼らを救うことはできないのだ。
奥さんに逢うのは三日にいちどにする。
そんなヌケヌケとした宣告だけは、俺自身も納得して受け止めていた。
しかし、理屈では納得した妻は、やはり納得し切ってはいなかったのだ。

ひとつだけ、方法がある。あんたが吸血鬼になることだ。
男は怖ろしいことを提案した。
周りの人間どもの血を吸って、その血で自らの身体を満たすがよい。
わしはお前を毎晩抱いて、お前の身体だけから血を啜り取る。
「いいわ、それ、すごく、いい」
妻は声をはずませて俺のほうをふり返ると、伸びた犬歯をガーッとむき出しにした。
・・・・・・。
・・・・・・。
俺の体内の血液は、最愛の妻によって一滴残らず吸い尽された。

「よかったじゃない。あなたもよりどりみどりで」
自分が吸血鬼になることで、吸血鬼を独占することに成功した妻は、今夜もニッと笑って白い犬歯をむき出しにする。
妻が自宅に引き入れるのは、男。
そしてその数日後、なにも知らないその男の妻が、憤然として玄関に立ちはだかる。
そちらの面倒を見るのが、俺の仕事。
夫の浮気相手の女に面会を求める人妻は、そろいもそろってこぎれいなスーツでばっちりとキメていた。
どこか釈然としないものを感じながらも、
うつ伏せに倒れたスーツ姿のふくらはぎに這い寄って、ストッキングに包まれた脚に唇を吸いつけるときには、すべてを納得してしまっている。
人の女房を寝取った亭主はその見返りに、目のまえでの夫婦交換を強要されて、自身も妻の牙で、理性を喪ってゆく――
「こんな生活も悪くはないわね」
妻はそううそぶきながら、次の獲物の物色を始めていた。
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