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妖艶なる吸血

淫らな吸血鬼と倒錯した男女の織りなす、妖しいお伽噺・・・

気丈な姑 9  ~堕落の刻 続~

2017年05月10日(Wed) 08:19:48

どれほどの時間。
男相手の淫靡な舞踏をつづけたことだろう?
度重なる情交に、ふと倦怠感と疲労感を覚えた悠子は、見つめ合った目にわれ知らず目くばせをしていた。
男はそれでも許してくれず、「もういちど」とねだり、
ねだれれた悠子は「はい」と小さな声でこたえると、
ふたたび身体を開いていった。

自分から。
男を受け容れてしまっている。
そんな自覚におののきながら。
悠子は交し合う情交がもたらす昂ぶりを、いつか抑えきれなくなっていた。
「いちど」の約束が、なん度にもなった。
けれども悠子はもう、相手を咎めようとはしなかった。
むしろすすんで身体を重ね、脚をからめていった。
脚に通したストッキングがみるかげもなく咬み破かれて、外気がじかに触れてすーすーするのを感じながら。

ひとしきり、愛の交歓が終わると。男はいった。
「身づくろいなさると良い。送ってあげる」
すばやい囁きを残してサッと身を離すと、男はもう隣室へと消えていた。
はだけたブラウス。
腰までたくし上げられたスカート。
みるかげもなく咬み破られたストッキング。
それらの衣装に身を包んだ自分だけが、その場に残された。
その情けないありさまをまじまじと見つめようとしなかったのは、「武士の情け」とでも、いうべきなのだろうか。

女は立ち直りが速いもの。
鏡に向かって紅をひき直しながら、悠子は自分の思い切りの良さを、浅ましく感じた。
浅ましく感じながらも、このあとどういう顔で夫と顔を合わせ、どんな言葉を交わしたものか・・・と、
このあとの展開を、したたかに計算しはじめていた。
ハンドバックから取り出した真新しいストッキングを脚に通して、破かれたほうのはくずかごに捨てた。
けれどもすぐに思い返して、それをくずかごから取り出すと、ハンドバックの中に収めた。
男の戦利品としてせしめられるのが、忍びなかったのだ。


悠子がリビングに出ていくと、吸血鬼は嫁を相手にお愉しみの真っ最中だった。
もはや咎めることさえできずにそのようすから目を背けていると、
ほどよいところで吸血鬼は美那子の身体を離し、「きょうはこれでおひらき」と、告げた。
「嫁姑の味比べ?趣味が悪いわね」
美那子がそういって毒づいたが、声色は言葉の意味を裏切って、ひどく嬉しげだった。
「下品なことを言いなさんな。お義母さんがお気の毒だ」
吸血鬼はあくまでも、ニューフェイスの姑をたてた。
美那子はそれ以上、逆らおうとしなかった。

嫁に弱みを握られて、どれほどつけあがられてもおかしくはなく、
実際美那子も露骨なくらい、そう振る舞おうとしていたのに、
男はたったひと言で、諍いが起こりそうな雰囲気を封じ込めてしまった。
美那子が男に対して従順なのは、それだけ支配されてしまっていることを意味していたけれど、
悠子はむしろ、美那子に示した影響力を頼もしいと感じた。
そんなこと、感じちゃいけないのに。
だって私、このひとの手で、夫に対して顔向けのできない身体にされちゃったんだから。
しきりに自戒を重ねながらも、知らず知らず悠子は、男のそばに寄り添っている。

「俺はお義母さんを送って行く。あんた独りで帰れるな?」
吸血鬼が美那子に投げたまなざしは、まさしく情婦に向けられた支配者の目。
吸血鬼が嫁を見返る視線をそんなふうに受け取った悠子は、ちょっとだけ眉をしかめ、すぐにその顔つきを平静に戻した。
ほかのふたりは悠子の表情の変化に気づいていたが、なにもいわなかった。
「お義母さまを送って行くの?」
美那子はちょっと咎めるような口調になったが、すぐに思い返したように妙な作り笑いを泛べると、それ以上抗議をしようとはしなかった。
「わかっているんだろうな?」
男は美那子に念を押した。
「わかっているわよ、だれにも言いやしないんだから」
「それならばよい」
男女二人の交わされる言葉が、たぶん自分に対する保険なのだろうと、悠子は漠然と感じた。
「じゃあ、お義母さま、またね♪」
美那子はわざとくだけた口調のあいさつを、さっきまで謹厳だった義母に投げると、
すぐに人が変わったように神妙な顔を作り、
「長々、お邪魔いたしました」
と、どちらへともなく深々と一礼した。

2人きりになると男はいった。
「おねだりがあるんだ」
「なあに?」
「破けたストッキング、記念に頂戴できないかな?」
無言でかぶりを振る悠子に、男はなおも囁いた。
「家に持ち帰って洗ったら、今度お土産に持ってきていただく」
有無を言わせない口調だった。
そんな羞ずかしいこと、できるわけがない。
心のなかでそう呟く一方で。
夫の目を盗んで破けたストッキングを洗濯機のなかに投げ入れている自分の姿を想像していた。


家路をたどる道々、男はなにも言わなかった。
通りすがりの人たちのなかは、悠子の顔見知りもいた。
彼らはいちように好奇の視線を一瞬投げるものの、男の目をはばかるようにして、すぐに視線を外してゆく。
そのまま家に着くと、彼は玄関のまえに悠子を置き去りにした。
「わしがいないほうが、良いだろう?」
悠子は無言でいたが、無言のうちに肯定をしていた。
「ダンナの顔を見たら、不機嫌そうに黙りこくっていることだ」
それが賢明な妻のする振る舞い・・・といわんばかりだったが、悠子もそれはもっともだ、と、思った。
いずれにしても。
ここから先は、妻としての自分が問われるところ。
一人きりの勝負になるのだ、と、悠子は改めて自覚した。
まだなにも知らない夫が憩うているはずのドアの向こうを、悠子は睨むように凝視する。


その時の悠子は、まだ知らなかった。
吸血鬼に見送られて家路をたどるということは、吸血鬼の女になったことを、周囲の人に伝えてしまう行為なのだと。
なにも知らない悠子は、自身が女の操を喪ったという事実を、じつにおおっぴらに触れ回ってしまったのだ。


あとがき
昨日時間切れであっぷできなかった後編です。
読み直して、よかった♪
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