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妖艶なる吸血

淫らな吸血鬼と倒錯した男女の織りなす、妖しいお伽噺・・・

気丈な姑 10  ~偽装される日常 解放される週末~

2017年05月11日(Thu) 08:27:04

帰宅した悠子は、ほとんど始終むっつりとしていて、無言を貫き通していた。
出迎えた夫は、顔色のよくないのを心配してくれたけれど、
「彼、私の血も気に入ったみたい」
と告げただけだった。
嫁をかばって身代わりに血を吸われた。
そんな意味を言外に含めたつもりだったが、果たして夫にどこまで通じたものか。

こちらの機嫌のよくないときには、努めて距離をおこうとする夫。
そんな夫婦の習慣が、じつにきまりのわるい苦境から、悠子を救っていた。

一刻も早くわれに返るために、悠子は家事のルーテンに戻っていった。
リビングでいつものように黙然と新聞を読んでいる夫をよそに、
晩ご飯の下ごしらえをし、お風呂の支度をし、洗濯機を回す。
あの咬み破かれたストッキングも、他の洗濯物のなかにまぎれ込ませるのを忘れずに――


一週間が過ぎた。
あの日したたかに味わわれることで喪われた血液は、とっくに回復していた。
土曜日曜がめぐってくるのが、久しぶりのような気がした。
昼下がりの息子からの電話が、夫婦の静穏な日常を破るまで。

「母さん?じつはあのひとが今、うちに来ているんだ。
 夫婦の寝室で、美那子とふたりきりになってる。
 様子、見に来るかい?」
話の内容の深刻さとはうらはらな、あっけらかんとしたのどかな口調に、悠子はあきれた。

ま あ っ !
なんてこと!
あなた!もっとしっかりなさいっ!
いま母さんも、そっち行くから!!
母親の顔に戻った悠子は、夢中になって受話器の向こうにありったけの言葉を流し込むと。
夫のほうに向きなおって、いった。
「あのひと、また美那子さんと逢っているらしいの。私説教してくるわ」
夫の眼を見返すいとまさえ惜しんでそそくさとそう言い捨てると、
悠子は部屋に戻って着替えを始めた。

よそ行きのキリッとしたスーツに、真新しいナチュラルカラーのストッキング。
サッとなでつけただけの髪を、こんどは鏡に向かって念入りに梳く。
気づいてみたら、口紅もいつもより濃いめに刷いていた。
そんな様子を、夫は遠くから注意深く眺めていたけれど。
ひとの顔色を読むのは夫の癖――と、割り切った。


息子の家までは、ごくわずかの距離だった。
気色ばんでピンポンを押し、出てきたのが美那子ではなく息子自身であることに、昔気質な悠子は憤然とする。
来客の応対をするのは、妻の役割ではなかったか。
主婦の役割をおざなりにして、あろうことか家に男を引き入れて情事に耽るとは何事か。
「ちょっと!美那子さんどこ!?」

気色ばんだ突進は、そこまでだった。
リビングに出てきたふたりを前に、悠子の威勢の良さは、みごとにぴたりと止まっていた。
美那子はともかく、ひとの魂まで引き入れてしまいそうな吸血鬼の瞳の奥深い輝きが、悠子をとらえた。
母親の変化に気づいてか気づかずにか、貴志は場の雰囲気を変えようとして、
「お茶淹れようか?」
とのたまわった。
気を利かせたつもりが、逆効果だ。お茶を淹れるのは、古風な近田家のしきたりでは、本来主人のやることではない。
それは嫁の役目!と、ふたたび悠子が怒りを盛り返すことを予期してか、
「それ、私やるから」と、美那子がなだらかに引き取ってゆく。
台所に立ってゆく美那子の後ろ姿は、どこか着崩れしていたし、露骨な乱れ髪ですらあったのだが、
貴志はそれについてなにも言わなかったし、悠子もあえて口にしなかった。
「お義母さん、こちらへ」
吸血鬼は悠子の目線を巧みにとらえると、さっきまで嫁と2人でいた夫婦の寝室とは別の奥の部屋へと、彼女を促した。

ドアを閉める時。
こちらを気づかわし気に見送っているらしい息子に、彼は抜け目なく声を投げる。
「貴志さん、入らないでね。美那子にもそう言っておいて」
うちの嫁をなれなれしく呼び捨てにして――そこだけが、悠子の気に食わなかったが。
背後から両肩に手を置かれ、その手が形相を変えて悠子を羽交い絞めにしたときに。
悠子の態度は、はっきりと変わっていた。
あ――
気がついたら姿勢を真向いに向きかえられて、唇で唇を、ふさがれていた。
「こうして息子さんに連絡させれば、きっと来てくれると思ってね」
男はにんまりと笑いかけ、悠子はそれにぎこちなく、こたえていった。

二度、三度とディープ・キッスを重ねたあと。
悠子は男から身を離して、足許に落ちたハンドバックを拾った。
そして男との約束どおり、丁寧に折りたたんだ薄地のナイロン製の衣類を、無言で手渡してゆく。
約束を守る律義さは、血を吸い取られて堕とされたあとも変わらない。
吸血鬼の眼に、この年配の主婦の横顔が、ひどく好ましく映った。
気丈で落ち着いたたたずまいに、落ち着きを知らない自分の魂を支えてくれるなにかを感じた。

「あちらは気にすることはない。私が用を済ませたあとは、ご夫婦で愉しむことにしているようだから」
男の言いぐさに、悠子はまたちょっとだけ腹を立てたが、なにもいわなかった。
そして、ふたたび重ねられてくる唇を、さっきよりは少しだけ優雅に受け容れる。
「よろしい。よくできました」
したり顔の男に、「何よ」と言いながら、女はネックレスをはずそうとした。
「いや、そのままに」
男は女が服を脱ぐのを制すると、耳元で囁いた。
「お姿のまま、愉しませてもらうから」
そういえば。
あの日も着衣のまま血を吸い取られ、抱かれたのだった。
「いけない趣味ですね」
わざと他人行儀に作った受け答えは、男の唇でまたもやふさがれる。
「正気じゃなくなりたい」
女はあえてそっぽを向いて、そうすることで首すじをあらわにする。
血を吸われて恍惚となってしまうことが、強いられた情事の免罪符になる。
女のずるい計算がそこにあった。
熱く湿った唇が、ヒルのように密着するのを感じ、女は柳眉をふるわせた。

スカートを大胆に腰までたくし上げられていきながら、
悠子はずっと、真っ赤なブラウスに撥ねた血を気にかけつづけた。
そうすることで、これから行われる悪事から、少しでもそっぽを向きたくて。
でも、そっぽを向こうと努めながら、ついふり返ってしまいそうな自分も、あきらかにいた。

男の唇が、スカートの下に這い込んだ。
さっきから。
しつように、それはしつように、這わされる舌は薄地のナイロン生地を、よだれでたっぷりと濡らしてゆく。
ストッキングの舌触りを愉しんでいるのだと、ありありとわかった。
けれども、やめさせることはもう、できなかった。
穿いてきたストッキングがおろしたてであることに、悠子は安堵を覚えた。
真新しいナイロン生地は、ふるいつけられてくる恥知らずな舌に愉しまれ、みるみるうちにいたぶり尽されていった。
気に入ってもらえて、うれしいわ――
悠子のささやきに吸血鬼は頷くと、鋭い牙を突き立てて、ブチブチと音をたてながら、女の装いを咬み破いてゆく。

無重力状態におちながらも。
ストッキングを片方だけ穿いた状態を、ひどくふしだらなものに感じたのは、きっと正しい感覚なのだろう。
けれども、冒された局部にびゅうびゅうと吐き散らされる熱い粘液の感覚は、悠子の理性をすでに大きく狂わせていた。
というよりも、気づいたらすでに娼婦になっていた というのが、正直なところだろう。
迫ってくる男の背中に腕を回し、夫のそれよりも逞しい胸板に、乳房を蹂躙し尽されていた。
はぁはぁというワイルドな息遣いは、さいしょ男だけのものだったはずなのに、
いまでは負けず劣らずのもの欲しげな呻きを、恥を忘れて重ね合わせてしまっている。
ふすまの向こうに息子の気配をありありと感じたのに、大胆な痴態に耽る女体を、もうどうすることもできなくなっていた。
「あなた・・・あなたぁ・・・」
と、夫に赦しを請う呟きは、
「もっと・・・もっとぉ・・・」
と、さらなる汚辱に焦がれる声になっていた。
もう、息子に聞かれたってかまわない。
そう、夫に聞かせてあげても、良いのかもしれない。
声をあからさまにあげることが、こんなにも快感だなんて。
どうやら息子夫婦が自分たちの寝室に引き上げたらしい気配まで敏感に感じ取りながら、
悠子はもっと汚して・・・と、はしたないおねだりをくり返していた。

まだ赤黒く猛り立っている一物がヌラヌラと光らせている精液を、スカートの裏地で拭き取る行為も。
ブラジャーをせしめられ乳首のかすかに透けた真っ赤なブラウスを、吸い取った血で濡らされる行為も。
破れ残ったストッキングに唇を当てられ、さらに凌辱し尽されてしまう行為も。
男の悦ぶことならなんでも応えてあげようという、女らしい寛大さで許しつづけていったのだ。


かえり道。
男に送られてたどる家路は、このあいだのそれよりも悠々と愉しむことができた。
さりげなく送られてくる好奇に満ちた盗み見の視線を、小気味よく受け流しながら。
穿き替えた真新しいストッキングに唾液をたっぷりとしみ込まされたのが、外気に触れてすーすーするのも、
ドキドキしながら、愉しんでしまっていた。

なにも知らない夫は、きょうもリビングで独り、新聞に読みふけっているのだろうか。
首すじにあからさまにつけられた咬み痕は、どうやらまだ咬まれていない人には見えないらしい。
いつか夫にも、見せつけてあげたい。
悠子は胸の奥に、密かに危険な焔(ほむら)をかきたてていた。
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コメント

焔という難しい言葉を初めて聞いたように思いますが、意味を調べてみました。
姑と言えどオンナはオンナ。最後の一行がこのお話の全てを語っていますね。
by ゆい
URL
2017-05-13 土 07:49:15
編集
ほむら
まあ、めったに使わない言葉ですよね。
「焔」と漢字で描いた字面が好きで、たまに使うんですよ。
なんか、めらめら、めらめらと燃え盛ってる感じがするでしょう?
執念とか、怨みとか、そういう強烈な感情がこもった炎のような気がします。

そうそう。
「女」も「オンナ」と描きますと、言葉の色あいが違ってきますよね。
ゆいさん、なかなかのセンスをお持ちでいらっしゃいます。
by 柏木
URL
2017-05-13 土 10:39:32
編集

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