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妖艶なる吸血

淫らな吸血鬼と倒錯した男女の織りなす、妖しいお伽噺・・・

間もない同士

2017年05月18日(Thu) 07:53:26

2人が初めて出会ったのは、夜の公園。
女は人妻で、夫の転職をきっかけにこの街に来たばかりだった。
男は吸血鬼で、自分たちに寛容と伝え聞いたこの街に、やはり来たばかりだった。
2人は出会った瞬間、狩りをするオオカミと狩られるウサギの関係になった。

ハイヒールの足ではほとんど逃げ切ることなど不可能で、
女はすぐに追い詰められて、
けんめいにいやいやをくり返しながら、
首すじをガブリとやられてしまった。

ちゅう~っと音をたてて生き血を吸いあげられたすぐあとに。
牙を引き抜いた男と合わせた視線と視線。
2人はすぐに恋に落ちた・・・となるはずもなく、
女は怯えに怯えきっていた。
それでも女はけんめいに言葉を放ちつづけていた。
相手と会話をすることが、自分の命綱でもあるかのように。
――全部吸い尽したりしないんですよね?死んじゃったりしないんですよね?
――献血だと思うことにしますから。ですから手かげんしてくださいね。
――あの・・・あの・・・それ以上は見逃して。主人を裏切るのは気が進まないの。

この街では、吸血鬼に出遭った女は無条件に首すじを許すことになっていて、
相手がセックス経験のある女なら、ほぼ例外なく犯すことになっていた。
けれども2人はこの街に来て間がなくて、その習慣に慣れ切ってはいなかった。
男は貧血になるまで女の生き血を吸いつづけ、
それでも女の願いを容れて、犯すことなく見逃してやった。

ベンチの上で貧血にあえぐ女のため、女が歩けるようになるまで付き添って、
立ち去らないでいる彼に恐怖の視線をおずおずと向けてくる女に、
自分の意図さえ伝えていた。
女を家まで送って行くと、家にいた夫はびっくりしたように2人を見、
自分の妻がなにをされたか、なにをされなかったかを、すぐにさとっていた。
夫もまた、この街に来て間もなかったので、この街の習慣に慣れ切ってはいなかった。
「どうぞ、すぐにお引き取り下さい」
そういって男を家にあげずに追い出すのが、精いっぱいだった。

夫婦だけになると妻は、この街がどういう街だかすぐに思い出していた。
もともと――ふつうの街ではやっていけない立場になって、
逃げるようにしてここに流れてきた夫婦だった。
「あの言い方はないわよね」と、妻は夫をたしなめた。
「どうすればよかったんだ」と惑う夫に、「私に任せて」と妻は言い、
「この街でよかったのよね?」ともういちど、夫に訊いた。
夫の応えしだいでは、窮死するまでいっしょでいるほどの気持ちを秘めて。

三日後の晩。
女は初めて襲われた公園の隅に独り佇んで、
案の定、血に飢えた吸血鬼が再び、目の前に佇んでいた。

二度目の逢瀬は、最初のときほど荒れ狂ったものにはならなかった。
2人とも大人だったから、言葉と態度で境界線を引いていて、
一定の節度を保った逢瀬になった。
けれども――素肌に擦りつけられてくる唇のただならぬ熱っぽさに、
女はなにかを感じずにはいられなかった。

「ストッキングを変えましたね」
ベンチに腰かけた女の足許から顔をあげると、男はいった。
もう、なん度めの逢瀬になるだろうか?
男が決まって、ストッキングを穿いた女の脚を好んでいたぶることに気がついて。
女はいつも男に逢う時には、真新しいストッキングを脚に通して出かけていった。
破れたストッキングの足許を見せまいと、夫の帰宅時間より早く家に戻るため、
まだ暗がりが拡がり切らないころから、男を待って公園に佇むようになっていた。
いつも穿いていた安物のストッキングでは申し訳なくなって、
たまには高級品をと奮発したら、敏感な反応がかえってきた。
「奥さんの心遣いには、いつも感謝しています。無理のないようになさってください。
 いままでのやつも、とても気に入っているのですよ」
所帯持ちの良い主婦でもある女にとって、いろいろな意味で優しい言葉だった。
「どうぞお好きなように」
差し伸べられた脚に加えられる凌辱を、女はいつもより居心地よく、耐え忍んだ。

「ご主人にあいさつをしたい。許してもらえるだろうか?」
そんな問いを持ち帰り、おずおずと夫に問いかけたとき。
「礼儀正しい方のようだね。向こうが会いたいというのなら、来てもらってもかまわない」
夫は意外にも饒舌だった。
いまの職場では、ほとんどの社員が妻を吸血鬼に襲われていて、
だれもが2人の関係を黙認したり、
妻の相手をすすんで家庭内に迎え入れたりしているのだという。
「この街に来ちゃった以上、わたしも寛大にならないとね」
これからは、逢うときには夕食を外で済ませてきても良い――そこまで言ってくれていた。
貧血を我慢しながら夕食の用意をする妻のことを、少しは見かねてくれていたらしい。
たまには外食できるくらいにはなったから――好転した経済状態が夫をそう仕向けてくれたのか。
この種の話題を意識的に避けていた夫婦のあいだに、黙契が生まれ始めていた。

お酒の入った男性2人の会話は、女の入っていけないところがかなりあった。
しかしそれだけ夫が相手に打ち解けてくれているのだと、女はそんなふうに思うことにした。
この街に棲み着いた吸血鬼は、すでに女以外にもなん人もの人妻を襲っているらしい。
吸血鬼同士の仲間内で紹介された、だれにでも献血する心優しい人妻もいれば、
女と同じように見ず知らず同士でいきなり出会った関係のものもいるという。
そのすべてとセックスをして愉しんでいる・・・そう訊いたとき、夫はいった。
――あんた、もしかしてうちの妻のことを本気で好きになったんじゃないのか?
男はまだ、女に懇願されるままに、女を辱める体験を持っていないと告げていた。
三人三様に、押し黙ってしまっていた。

やがて夫は立ち上がり、「ちょっと夜風に当たって来る」といった。
吸血鬼もそれに続いて立ち上がり、「今夜は寒いですよ」といった。
夫の後ろ姿に吸血鬼の影が重なって、女が受け入れたのと同じ牙が、夫の首すじに突き刺さった。
夫は薄ぼんやりとした目をさ迷わせながら、自分の意思で招いた客人が妻を相手に初夜を遂げるのを、見守りつづけていた――

「今夜も残業?」
「きみのストッキング代くらいにはなるだろう」
毎朝のように交わされる、夫婦の会話。
夕刻から真夜中まで、相手の望む刻限は。
自分の妻が吸血鬼夫人になることを許容してから、夫はなぜか、明るくなった。
ひところ途絶えがちだった夫婦の交情も、新婚のころのように復活していた。
喪われたもの――いや、許し与えたもの――の見返りに、
いちどすべてを失った男は、以前持っていたものよりも多くを、得たらしい。


あとがき
既存のルールにまだ慣れていない女と男が、
お互いに対する好意を織り交ぜながら、ひとつになっていく。
そんな風景を描いてみました。
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