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妖艶なる吸血

淫らな吸血鬼と倒錯した男女の織りなす、妖しいお伽噺・・・

寝取る男

2006年02月28日(Tue) 06:08:25

「お前、結婚する気はないかね?」
まるでどこかに遊びに行こうというような気軽さで話をもちかけてきたのは親友の亀次だった。
美雄はちょっとだけ不快そうに、顔をしかめた。
お互い、何から何まで知り尽くしている関係。
美雄が幼いころの病気で彼が性的不能になっていることも、性欲すらもめったに感じない体質であることも、亀次はよく心得ているはずである。

そうじゃなくってさ・・・
亀次はいいにくそうに、口ごもる。
ニヤニヤと照れるように笑いながらこちらの様子を窺っているのは、どうせけしからぬ企みを懐にいだいているときだと、気心知れた美雄には手に取るようにわかっている。
こんな風采のあがらない男がどうしてこうも手当たり次第に女をたらし込むことができるのだろう?
美雄とはあべこべにそんな亀次であるのだが。
まだお互いに、三十近くになるのに独り身でいるのだった。
どうしてかというと。
亀次がモノにする女はことごとく、人妻であったのだ。

「オレさぁ、ほかのやつの女房じゃないと燃えないんよ。それで、お前に結婚して欲しいというのはね・・・」
亀次が口にした計画は、じつにケシカラヌものだった。
  美雄が嫁をもらう。
  当然彼は夜のつとめができない。
  そんな寂しい嫁を、亀次が慰める。
そんな言い草ではあったけれども。要するに、
  美雄がもらった嫁を寝取りたい。
「そういうことなんだな?」
親友の悪戯を咎めるとき。
いつも美雄はニヤニヤと笑っている。

祝言をあげたのは、秋だった。
美雄がそういう体だということは村じゅうが知っていたのだが。
嫁にきた華代はたいそう気だてがよく、そのうえ美しかった。
  色の白い女が好みなのだろう?
祝言の夜、そうささやきかけてきた花婿に、亀次は滑稽なほど落ち着きをなくしていた。
初夜の床。
衣裳をといた花嫁に美雄はよく言い含めると、そっと部屋を抜け出した。
入れ替わりに閨に忍び込んできた亀次が、花嫁を犯した。
道ならぬことに悩乱しながら体を開かれていった花嫁は、雨戸ごしにこちらをうかがっている花婿の気配をおぼえて、硬くした体をいっそうこわばらせていた。
こわばった初々しい肢体のうえ。
無邪気なほどに昂ぶった男は、まるで初めて女を相手にするときのように熱っぽく、もどかしく、
ほてった膚を重ね合わせていった。

三日にあげず、亀次は新居を訪れる。
まるで自身が嫁をとったかのように、華代のもとに通いつづけた。
夫がいないときもあったし、やがて慣れてくると美雄が家にいるときでも臆面もなく亀次は現われて、美雄の新妻を犯してゆく。
まるで名義を貸したみたいだな・・・
花嫁を気に入った亀次を美雄そういって冷やかしていたけれど。
亀次を怨むようすは露ほどもなかった。
それは亀次がしんそこ美雄や華代を好いていたせいでもあり、
華代が思慮深い女で終始夫をたてて振る舞うせいでもあった。

半年もすぎたころ。
その晩も、亀次は忍んできていた。
ふすまのむこうから洩れてくる華代の声が、いつになく悩ましく耳に響いてきた。
それはまるで呪文のように美雄の鼓膜を疼かせた。
下腹部から熱い塊が突きあげてくるような気分がする。
嫁はきょうも寝乱れているのだろう。
昼間はしっとりと頭のうしろに結わえている黒髪をふり乱し、
淑やかに引き結ばれた薄い唇をふしだらにあけ拡げて、
悩ましくいやいやをしながらも、せきあげてくる衝動をもう抑えようもなく、道ならぬ愉しみに耽っているのだ。
真下にある親たちの部屋からは、今夜もことりとも音がしない。
表向きなにも知らないことになっていたけれど。
姑夫婦をはじめ、妹や使用人にいたるまで家じゅうのものたちが息をひそめて跡取り息子の嫁が情事に耽る有様に聞き入っている。
薄闇のなかでとぐろを巻いているなにかねっとりとしたものが美雄の首すじを撫で、胸ぐらにまとわりつく。
はじめは鬱陶しいばかりだったその感触は、そのうちにじりじりと焦がれるような衝動を美雄に与えてゆき、
美雄は思わず、ふすまを開け放っていた。

華代が息を呑んでこちらを向き、はだけた胸を隠そうとしている。
亀次はそんな華代のうえにのしかかっていて、まだ腰をあわせたままでいる。
さっきまでふたりがかぎりなく淫らな震動に身をゆだねていたのは、跳ね上げられた布団や波を打っているシーツがあらわに伝えていた。
こん畜生。
たれにも聞えない呟きを口に含んだまま、美雄は華代に襲いかかっていった。

「できたじゃないか」
意外にも、亀次はしんそこ悦ばしそうに笑んでいる。
妻の華代も、羞じらいを含んでうつむきながらも、みずからを襲った衝動の名残りに全身を満たしているようだった。
「こうなるのを、待っていたのさ」
幼馴染みは、病のあとを克服した親友が妻を抱ける体を取り戻したことを、心から喜んでくれている。
わざとだったのか?
いまさらそんな問いは愚かであろう。
深々と謝罪するように頭を垂れる妻を抱き寄せて、美雄は本来自らが占めるべき褥を取り戻していた。
「よかった、よかった。これで親御さんも喜ばれるよ」
どこまでも人のよい亀次だったが。
ひと言、そうっと囁きかけてきた。
  お礼、ねだってもいいかい?たまに、たまにでいいからさ・・・
ことさらひそめた声が聞えたのか、美雄の嫁までがくすぐったそうに、くすり、と忍び笑いをうかべている。
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コメント

懐かしい・・・
ふと目にした物語が、あの懐かしいお話だと気づきました。
あのときも、こうしていくつか語られたなかから目に止めてコメントをさせていただいたのですね。
何度読ませていただいても、同じ物語を選んでしまう。
なにがそうさせるのでしょうか。不思議ですね。
by 祥子
URL
2006-07-08 土 17:40:56
編集
ありがとうございます。
このお話を描いたのは、2月28日。
旧ブログ「吸血幻想」崩壊前夜のころのことでした。
気に入りのお話のひとつなのに。
なぜかいままで、秘めてしまっておりました。
「チャタレイ夫人の恋人」になぞらえてくださったあのときのお言葉は。
いまでも大切に、奥の宮に秘めております。
by 柏木
URL
2006-07-08 土 22:30:56
編集

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