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妖艶なる吸血

淫らな吸血鬼と倒錯した男女の織りなす、妖しいお伽噺・・・

奥さん、よくもつな。

2017年05月22日(Mon) 07:38:09

「奥さん、よくもつな」
同僚にふと声をかけられて。
そんなものかと思ってしまう。

妻がこの街に棲む吸血鬼に襲われて、はやひと月になる。
この街に転居してきたのがひと月半ほどまえのことだから、
たったの2週間で襲われたことになる。
もう――真人間として暮らすより、長い時間を過ごしてしまったことになる。

セックス経験のある女性を相手にするとき、吸血鬼はきまって肉体関係まで迫ってくるという。
「お願い。それだけはしないで」
妻の懇願を容れてくれたというのは、当地ではかなり珍しいことらしい。
「うちのやつなんか、ぼくのいる目の前でヤられちゃったんですよ」
若い社員のひとりはそんなことを、いともあっけらかんと口にする。
そう。
吸血鬼に妻を姦(や)られるという事態がふつうに存在するこの街では。
妻や娘を吸血鬼に犯されることは、必ずしも不名誉なことと見なされていない。

さいごまで気丈に振る舞った妻。
献血には理解を示し、相手の渇きを見定めると、過不足なく自分の血を与えるようになっていた。
「たまには、あなたに言わないで出かけることもあるけど、心配しないで」
吸血鬼と2人きりで逢っても吸い殺されることはない。
それはお互いが暗黙の裡に交わした、信頼感の賜物なのか。

相手の男は妻を襲った翌日、わびを入れにわが家を訪れ、
自分から首すじを与えて、妻の味わった貧血をわたしも味わってしまうと、
妻がこの男に狂わされた理由をすぐに察して、
貧血がさほどでもないことを良いことに、ほんの少しの間だけ、家を空けてやったのだった。
帰宅したとき、妻のスカートは透明な粘液に彩られ、裏地まで浸されていたけれど。
「そこから奥には入り込んでいないから」という説明を、わたしは全面的に信用することにした。

「奥さん、よくもつな」
そんなことがあってからひと月たって、言われた言葉。
そう――妻はいまだに、吸血鬼に身体を許していない。
貞淑ぶりを発揮した妻は、いまでは羨望と畏敬の念で、わたしの職場で語られる。

つい先週、2人きりで逢ったとき。
奮発して、インポートもののストッキングを穿いて出かけた妻。
ひざ小僧までまる見えになるほど咬み剥がれたストッキングもそのままに帰宅した妻は、
「いつものやつでも十分嬉しいって言われた」と、
ちょっと嬉しそうにそういった。
「ストッキング代くらい、わたしが稼いであげるから」
わたしがそう耳もとで囁くのを、まるで恋人同士だったころのように、ウットリと頷き返す妻。
嫉妬は昂ぶりを生むものなのか。
そのあと二人の身体がバランスを崩していったのは、理の当然というものだろう。

「ストッキングを破る行為は、セックスの代わりらしいね」
村の長老の老いらくの恋を好意的にかなえてやったという上役は、
おだやかな声色でそういった。
「だから奥さん、奮発して高いストッキング穿いて行ったんじゃないかな」
そうかもしれませんね、と相槌を打つわたし。
いまでは、妻の貞操をなんとしても守り抜こうとは、必ずしも思っていない。
なりゆき次第で、妻を犯されてしまっても。
彼はわたしのもとから妻を奪い去ろうとまではしないことも、
妻が彼に従って家を去ったりもしないことも、
十分に伝わってくるから。

必要とする血の量が、かせとなって。
ひとりの女だけを追い求めることのできない身。
それは男としても悲しいことだと彼はいう。
でも――そうした宿命だから、あんたから奥さんを奪えずにいて、
あんたの幸せをすべて壊してしまうことがないんだろうな。
いつだか彼は、そういっていた。

ある晩わたしは、出かけてゆく妻の耳もとで、そっと囁く。

好きにしていいんだよ。

妻ははっとしてわたしを見返ると、しんけんなまなざしをこめて、いった。
じゃああなた、今夜私についていらして。
初めて犯されるところ――夫として見届ける義務があるわ。

ジャケットを通すのにひどくまごついているわたしを見て、
「うろたえないで」と、たしなめるきみ。
そう、きみは今夜、最愛の夫の見守るまえで、二度目の恋を成就させる。


あとがき
コチラのお話と、ちょっとだぶっているかも。
「間もない同士」
http://aoi18.blog37.fc2.com/blog-entry-3467.html
ストッキングを奮発するくだりが、どうも頭に残っていて。
このお話を描いてすぐ、こんなメモをとっていました。
「奥さん、よくもつな」
「奮発して、高いストッキングを穿いて行った」
「セックスの代わりになっている?」

たった3行のメモから作ったお話です。
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