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妖艶なる吸血

淫らな吸血鬼と倒錯した男女の織りなす、妖しいお伽噺・・・

博愛。3

2017年05月27日(Sat) 06:38:46

「最終的には僕、塔子さんを奪(と)られてしまうんだよね・・・?」
タカシはいつものようにハイソックスを履いたふくらはぎを吸血鬼に咬ませながら、訊いた。
声がここひと月かそこらで、ひどく虚ろになっている。
自分自身の生命力さえ吸い尽されかねなかったのに、彼が気にしているのはもっぱら、同級生との行く末だった。
「きみが僕の血を吸い尽して、僕の代わりに塔子さんをモノにする・・・そういうことなんだよね・・・?」
「きょうは、やけにこだわるね」
老吸血鬼は少年の足許から牙を引き抜くと、自分を見おろしてくる視線と正対した。
まだ拭われていない口許には、吸い取ったばかりの血潮がチラチラと輝いている。
「若ぇひとの血は、旨めぇ」
男は下世話な口調になって、吸い残したタカシの血を、手の甲で無造作に拭った。
「盗(と)りはするが、奪(と)りはせぬ」
男の言いぐさがタカシに通じなかったのは、もっともなことだった。
「そんなことよりもお前、塔子にひどいことを言ったそうだな」
陰にこもった声色に、少年はどきりと胸を衝(つ)かれた。

「きみはいつから、そんなにふしだらになったんだ?」
投げつけた言葉は意外に深く、塔子の胸に突き刺さったらしい。

少年が訪れる少し前、塔子は独りこの邸を訪れて、
「好きなようにしてください!」と、言ったそうだ。
好きなように・・・しちゃったんです・・・か・・・?
少年は恐る恐る、怖い答えの待ち受けていそうな問いを口にする。

阿呆。
吸血鬼はうそぶいた。
「きょうのあの子の血は、不味かった」
「どういうことですか」
少年はやや憤然として、訊いた。
恐怖心をなだめすかして一人この邸を訪問し、
苦痛をこらえてせっかく血液を提供したのに、その言いぐさはないだろう、と、少年の顔が言っている。
「不味さの原因を作ったのは、お前だ」
なぜだかわかるな?――これ以上言わせるなと言わんばかりに、吸血鬼は少年を睨んだ。

「お仕置きだ。あの子から摂れなかったぶんの血も、あんたからいただく」
チュウチュウと音をたてて吸い取られる血液が傷口を通り抜けてゆくむず痒さに、少年は歯噛みをくり返した。
それでも彼は、いつも以上に気前よく、美味いと褒められた若い血液を提供し続けている。
どうやら塔子にとって、自分は必要な存在らしい、ということだけは伝わったから。

嫉妬は血の味を不味くする。失望や不安もまた、血の味を不味くする。
どうせなら、吸い取る血が美味な状態にわが身を保て。
お前はあの子と結婚する。
そのあとでわしに――
みなまで言わせずに、少年はただ、強くかぶりを振りつづけた。

十年後。
華燭の典をあげたふたりのまえから、吸血鬼は姿を消した。
処女のうちは犯すことなく血を吸いつづける吸血鬼は、セックス経験を持った婦人には容赦なく襲いかかり、肉体関係まで遂げてしまうという。
その機会が訪れる前に、彼は乙女ではなくなった女と、嫉妬深いその夫の前から立ち去ったのだった。


あとがき
さいごは、「博愛」ではなくなったような。。 (^^ゞ
処女のあいだは犯されることなくその生き血を吸われつづけたとしても、
結婚後初めて逢ったときには、犯されてしまう運命――
吸血鬼はもちろん、少女も少年も、そうなることは察していたはず。
ふたりの愛を壊すことになりかねない立場を知った吸血鬼は、自ら身を引きます。
このお話が「博愛」として完結するためには、やや時間が必要なみたいです。
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きみはよくがんばった。
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今月は。

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