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妖艶なる吸血

淫らな吸血鬼と倒錯した男女の織りなす、妖しいお伽噺・・・

きみはよくがんばった。

2017年05月27日(Sat) 07:33:22

放課後の学校の廊下をふらつきながら、直子はできるだけまっすぐ歩こうと努めていた。
すぐ傍らには、自分の親よりも年配の、男の吸血鬼。
それが直子の制服姿に抱きつかんばかりにしてまといつき、折々抱きすくめては、飢えた唇を首すじに吸いつけてくる。
そのたびごとに。
少女の素肌は蒼白く透きとおり、歯がみをする唇の奥は、キリキリと軋んだ。
「良い加減、観念したまえ」
諭すような囁きをいっさい拒否して、少女は決然とかぶりを振りつづけ、
ひと吸いされるたびに鈍くなる足取りを保とうと、懸命に足を踏ん張りつづける。

「きょうはきみの血を吸わせなさい。それから小父さんと、賭けをしよう。
 床におひざを突いたら、きみの履いているストッキングをイタズラさせていただくよ。
 さあ、きみは途中でおひざを突かずに、家まで戻ることができるかな」
すでになん人ものクラスメイトがその賭けに一方的に応じさせられて、
校門にすらたどり着くことができずに廊下にひざを突いてしまっていた。
賭けに勝つと、吸血鬼はそれ以上女の子を責めたりせずに、「お姫さま抱っこ」をして空き教室に連れ込むと、
黒のストッキングに透きとおる足許に息荒く唇を近寄せていって、
あげくの果てには、ひざ小僧がまる見えになるまで、むざんに咬み剥いでしまうのだった。

直子は今週になって二度、彼女のクラスメイトが連れ込まれるのを耳にした。
ふたりきりの教室は、立ち入り禁止の札が教師によって降ろされていて、少女たちにはどうすることもできなかった。
しばらく経つと、吸血鬼だけがひとり教室から出てきて、
相手の女子生徒の脚から抜き取ったストッキングをぶら提げて、ほくほくとした顔つきで立ち去ってゆき、
直子は息の細くなったクラスメイトをほかの生徒たちと一緒に抱えるようにして、保健室に連れていったのだ。
それが、月曜と水曜のことだった。
一日おき・・・
そしてきょう、金曜には、直子自身の番がまわってきてしまったのだ。

いやだ・・・いやだ・・・そんなふうにもてあそばれたくないっ。
逃げるのよ。応じないのよ。相手にしないのよ。
なんとしても、せめて校門までは、たどり着いてみせるから・・・
意地になって歩みを止めない少女に、吸血鬼はなおもしつようにまとわりついて、
首すじを吸われるたびに、強い眩暈を感じながらも、献血にだけは応じないわけにはいかなかった。
この学校は吸血鬼を密かに受け容れていて、生徒たちの献血行為をむしろ後押ししているくらいだったから。

けれども、喪われた血液の量がかさむにつれ、直子の歩みは目に見えて鈍くなって、
この放課後の遅い時間――早く帰ろうとしたのに、教師が直子に自習を命じて、意図的に遅くまで残らせたのだ――人通りもまれな廊下を舞台に、絶対に不利な賭けをつづけるのは、困難をきわめていた。
「きみはよくがんばった。ほんとうにえらかった。でも、あきらめも肝心だよ」
男はしたり顔を近寄せて、直子をいたぶるようにそんなことを囁きかけてくる。

くっ・・・悔しい・・っ!どうして私なのよっ。
少女は歯噛みをして、泣きべそを掻いて、それでもとうとう一歩も歩けなくなっていた。
「さあ、約束どおりだ。薄地の黒のストッキング、たっぷりと愉しませていただくぞ」
「お願いやめて!」
少女の願いも空しく、男は卑猥な唇を、ひざ丈のプリーツスカートの下に吸いつけてゆく。
スカートの下に身に着けた黒のストッキングが、不埒な唇を這わされて、いびつな弛みを走らせた。
「イヤだっ、イヤだっ、まだ歩くんだからっ。こんなことじゃ、お嫁に行けなくなっちゃうっ」
少女は泣き叫びながら、意識を彼方に持っていかれて、引きずり込まれるように姿勢を崩していった。
男のなまの唇が、なにかのご褒美にありつくように、それは嬉し気に、ストッキングを履いたふくらはぎを撫でまわす。
その忌まわしい感覚に打ち震えながら、直子の意識は遠くなっていった。


ふと目が覚めると、直子は自分がひどく不安定な姿勢でいることに気がついた。
身を横たえて、脚をぶらぶらさせている。
いったいどういうこと?
状況を理解するのに、数秒かかった。
直子はさっきまで彼女の血を吸い取っていた吸血鬼の腕に抱かれて、「お姫さま抱っこ」されていたのだ。
「ちょ、ちょっと!どういうこと!?恥ずかしいわ・・・ここ、街の商店街じゃないのっ!!」
うろたえる直子を、男はたったひと言で黙らせている。
「声をたてるとみんな振り返るぞ」

お姫さま抱っこの状態は、直子の家の前までつづけられた。
けれども貧血がよほどこたえたのか、いちど黙ってしまうともう、直子は口を開く気力もなく、ただ男の腕に身をゆだねて、脚をぶらぶらさせつづけているしかなくなっていた。
ようやくおろしてもらえたのは、玄関の前。
意外にも。
直子のストッキングは、裂け目ひとつ走らせてはいなかった。
「あんまり嘆き悲しむんでね、気がそがれた」
吸血鬼はむしろ、迷惑そうな顔をした。
「迷惑なのは、私のほうです」
直子は自分の血を吸った相手のことをまともに見つめ、そう詰った。
「わかっている。感謝している。ありがとな」
意外なくらいにすらすらと吐かれた感謝の言葉にどう答えていいかわからずに、直子が口ごもっていると。
吸血鬼は直子に背を向けて――あっという間に姿を消してしまっていた。
「来週も賭けをしような」
耳の奥にそんな囁きが、こびりついている。


「私の番は金曜って、決まっているのかな?」
ちょっぴり皮肉を交えて投げた言葉を、吸血鬼はごくまじめに受け止める。
「火曜と木曜は塾。予習と復習が大変なんだよな?」
いちおう、こちらの都合は勘定に入れてくれているらしい。
「毎日、お友だちと帰ることにしてるのよ」
「きょうは、だれもいないようだな」
そう――いつも帰りがいっしょの京子も里美も、何やかやと用事をかこつけて、先に帰ってしまっていた。
「きっと、気を利かせてくれたんだな」
「あなたの差し金ね、ひどい!」
直子は懸命な声で相手を詰ったが、手を引かれるままにいつの間にか、空き教室に引き入れられてしまっている。

教室でふたりきりになると、男の目つきが獣のそれに変わっていた。
激しく抱きつかれ、おとがいを仰のけられて、つぎの瞬間ガブリとやられてしまっていた。
アッ!
声をあげるいとまもなく、直子の血はゴクゴクと音をたてて飲まれ始める。
幸い、制服のえり首に血は撥ねていないようだった。
手近な椅子に腰を落とし、その椅子にも座りつづけかねて、いつしかひざ小僧が床すれすれになっていた。

ハッと気づいて体勢を立て直し、薄地のナイロンに包まれたひざ小僧が床に突くのを回避する。
けれども、男の吸血は、以前にもましてしつようだった。
目が眩み、身体の力が抜け、知らず知らずひざを突きそうになる。
逃げられる見込みは皆無――もうどうしようもない。
直子は悔し気に唇を歪め、教室の床にひざ小僧を突いていた。

一時間後。
窓の外は、薄暗くなりかけていた。
吸血鬼は仰向けになった直子のうえになおものしかかり、首すじに着けた傷口にあやされた血潮を、意地汚く舐め取っている。
なん度も気を喪いかけたけれど、そのたびに男は手かげんをしてくれて。
時にはひと休みをしながら、すこしでも少女のしなやかな身体からうら若い血液をむしり取ろうとしてか、
なん度もなん度も唇を吸いつけてくる。
意外にも。
男は、直子のストッキングを咬み破ろうとしなかった。

初めてひざ小僧を突いてしまったときには、ほんとうに観念した。
じじつ、男はすんなり伸びた直子のふくらはぎに唇を吸いつけてきて、ストッキングの上からふくらはぎをチュウチュウといたぶり始めた。
無作法なやり口に直子は悔しそうに歯がみをしたけれど、
ストッキングを破かれるのを嫌がるのを察してか、男が舐めるだけに終始しているのに気がつくと、
口では相手を罵り、露骨に嫌がりながらも、ストッキングを履いたままの脚を、くまなく舐めさせてしまっていた。
やがて男は落ち着きを取り戻し、ふたりのあいだのつかの間の静寂が訪れた。

直子がおずおずと口を開いた。
「ストッキング、破かないでくれたのね」
「あんまりあんたが、嫌がるんでな」
「少しは見直した」
「それは嬉しいね」
あの・・・直子はもっとおずおずと、口を開いた。
「他の子のときには、いつも破ってるの?」
吸血鬼はウフフ・・・と、思い出し笑いを泛べた。
質の悪そうな含み笑いだったが、いままでほど怖くは感じないと、直子は思った。
「きのうは京子、おとついは里美が破かせてくれた」
「えっ」
ふたりとは、大の仲良しだった。
「仲良し三人娘を三人ながらモノにしたくてね、あんたのクラスの担任に頼み込んだんだ。なんとか仲良くなりたいって」
「ふーん、じゃあ、京子とも里美とも、仲いいんだ」
「そうだね。もう2~3足破らせてくれてるくらいだからね」
直子はちょっとの間だけ、押し黙った。
そして、いままでよりはちょっとだけ強い口調で、いった。
「こんどからあたしのも、破っていいから」

う、ふ、ふ、ふ、ふ。
有頂天な含み笑いが、少女の耳の奥に、忌まわしく満ちた。
男の術中にまんまとはまって、気前よくストッキングを破らせるはめになりながら。
相手の下品なやり口に、精いっぱいの罵り文句を思い浮かべながら。
それでも少女は、脚を引っ込めようとはもうしなかった。
皮膚の奥まで突き入れられてくる牙が、むしょうに小気味よい。
なよなよとした薄地のストッキングを容赦なく咬み剥いでいかれて、皮膚が外気にふれてすーすーするのさえ、不思議な解放感になっていた。
堕落させられた。でも、それも悪くない・・・か。
直子は不覚にもへらへら笑いながら、足許をなまめかしく染めていた黒のストッキングがいびつによじれてゆく有様を、面白そうに見つめ続けていた。
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