淫らな吸血鬼と倒錯した男女の織りなす、妖しいお伽噺・・・
輪廻 ~ある家族の年代記~
2017年05月30日(Tue) 07:34:11
吸血鬼に初めて抱かれたとき、そのひとはまだ二十代。
都会から転居してきたばかりの人妻だった。
先に血を吸った夫の理性を、まず狂わせて。
伴ってきた彼の若妻の貞操をゲットする権利をまんまとせしめた直後のこと。
身体をカチカチにこわばらせて、整った目鼻立ちを終始引きつらせていた。
ストッキングを片方脱がされて、スカートの奥を侵された瞬間、
キュッと眉を引きつらせ、涙ぐんでいた。
そしてすすり泣きをくり返しながら、奪われつづけていった。
「いらっしゃい。喉渇いていらっしゃるの?」
十年後。
女はミセスの余裕たっぷりに微笑んで見せ、主人は今夜戻らないのよと教えてくれた。
それは先刻彼女の夫から聞かされていたことだったけれど、
そんなそぶりは見せないで、わざとにんまり微笑みかえしてやる。
「エッチ」
女は吸血鬼の頬を思い切りつねると、自分の感情を押し隠して、
「息子はもう寝(やす)んでいます」
とだけ、いった。
早くもくつろげかけたブラウスのえり首からは、肉づき豊かな胸が熟した血色をたたえている。
「視ちゃったのか。しょうがないやつだな」
照れ笑いする青年のまえ。
吸血鬼は彼の母親から吸い取ったばかりの血潮を、まだ口許にあやしたままだった。
ここは二階の勉強部屋。
彼の母さんはまだ、リビングの真ん中で大の字になって、へろへろになってしまっている。
訪問着のスカートの裏地を、人妻が決して受け入れてはならないはずのあの生温かい粘液でびっしょり濡らしたままだった。
「じゃあ、おいしくいただこうかな」
吸血鬼が威圧的に、牙を光らせた。
青年はウキウキとした目で、さっきまで母親を冒していたその牙に見入っていた。
「おいしくいただいてくださいね」
目を瞑った青年の足許ににじり寄り、足首を抑えつけると、
吸血鬼は青年のふくらはぎを、ハイソックスのうえから強く吸った。
自分の身体をめぐる血潮を吸い取られるチュウチュウという音にウットリと聞きほれながら、
青年はゆっくりと、姿勢を崩していった。
気がつくと、半ズボンを脱がされていて。
鎌首をもたげた男の股間が、自分の秘部に迫っていた。
ギュッと歯を食いしばって、こらえる痛み――
その苦痛は一瞬で、あとは言い知れない快楽が、じわじわと身体じゅうにしみ込んでくる。
初めて血を吸われたときといっしょだ、と、青年は思った。
男は青年の思惑などつゆ知らず、というていで、なん度もなん度も青年の股間を抉っていった。
母さんが堕ちるのも、無理ないや。
青年は心からそう思い、母と吸血鬼との仲を取り持った父に、ひそかな称賛を送る。
「中條家の長女の貴代さん、知っているな?」
夫婦のベッドで、夫人をたっぷり可愛がったあと。
ゆっくりと身を起こしながら、吸血鬼はいった。
「京太のクラスの子でしょう?」
美奈代はけだるげな表情のまま、さぐるような視線を吸血鬼に投げた。
「そのお嬢さんを、先月堕とした」
「処女を奪ったの?」
「まあ、そんなところだ」
「まあ、珍しい」
「ほかにあてができたのでね」
フッフッと吸血鬼が笑う。
「アラ、捨てられちゃうなんてかわいそうね」
「そのかわいそうなお嬢さんを、拾って欲しい」
「どういうこと」
「あんたの息子の嫁にどうか?と訊いているのだ」
「あなたにお嫁入りした子を、うちの嫁として引き取れ・・・と?」
かなり屈辱的な条件の縁談なのに、母親は面白そうに目を輝かせる。
「私だって、主人がさいしょの男だったのよ」
暗に吸血鬼の目論見を軽く非難してみせたあと、
女は血を吸い尽された後のうつろな目を、天井にさ迷わせる。
「あー、でも・・・」
男は女が言葉を継ぐのを待っている。
「私、さいしょに抱かれるのも貴男だったらよかったなぁ。私の一番いいところ、全部あなたに差し上げたかった」
女は自分の言いぐさのなかにある答えに、初めて気づいたように顔をあげた。
「私の願望を、うちの嫁で実現するというのね?」
悪びれもせず頷く吸血鬼に、女は「エッチ」といって、情夫の頬を強くつねった。
この邸に彼女を連れてくるようになって、もう何回目になるだろう?
京太は血の抜けた身体をけだるげに横たえて、
貴代を伴って吸血鬼が消えた別室のほうを見やっていた。
この街では、まだ学生のころに、婚約を済ませるという。
親たちのすすめでお見合いをさせられたのは、まだセーラー服姿の同級生。
ずっと三年間を過ごした顔なじみのその少女は、特に仲が良くも悪くもなく、気心だけは知れていた。
親の決めた縁談に、否やはなかった。
彼はその縁談を、受け容れた。
すでに吸血鬼から直接すべてを聞かされたのに、巧みに言い含められてしまっていた。
吸血鬼が純潔を散らした少女を、未来の花嫁として受け容れる。
そんな立場に、マゾヒスティックな歓びさえ、感じていたから。
京太といっしょに邸を訪問するときは。
貴代は夏ものの制服の下、いつも黒のストッキングを履いていた。
それが嫁入り前に得た情夫を愉しませる装いなのだと、容易に察しがついたけれど。
京太は「似合うね」とだけ、言ってやった。
そう――きみと小父様は、似合いの不倫カップルだよね。
「気が向けば、覗いても良い」
仲良しの小父さんは、そんなことまで教えてくれた。
いままでは、覗く勇気がなかったけれど――
今初めて芽ばえた、どす黒い衝動が。
青年のなかでむくむくと、鎌首をもたげていった。
手の震えを抑えながら、ふすまの取っ手に手をかけて。
恐る恐る細目に開いたふすまの向こう――
黒のストッキングを片方だけ脱いだ少女は、
はだけた制服からピンク色の乳首を覗かせて、
ひそめた眉に甘い媚びをたたえながら、
未来の夫を裏切りつづけている。
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