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妖艶なる吸血

淫らな吸血鬼と倒錯した男女の織りなす、妖しいお伽噺・・・

あいさつ

2017年08月01日(Tue) 06:39:16

まだ、引越しのあいさつがないね。いちど奥さん連れて、うちに来なさい。
あんたにも、いい地酒を飲ませてあげる。

隣に住むそのごま塩頭の男は、そういってわたしたち夫婦を誘った。
田舎の人間が「あいさつがない」と言い出すと、
どこか頑なで横柄なものをイメージするかもしれないけれど、
彼の場合はごくおだやかで、
「ここのしきたりを、まだよくはわかっていないのだね。教えといてあげるよ」
と言いたげな親切心さえ感じられた。
男に言われたことを、帰ってすぐに妻に告げると、
「アラ、そうでしたわねぇ。でも、何も持っていくものがないわ」といった。
男はそうした妻の困惑にさえ気持ちが行き届いていて、
「そんなものは要らんから、身ひとつでお越しになってください」とまで、いってくれていたのだった。

翌日の晩、わたしたち夫婦は、彼の屋敷を訪ねた。
隣家といったが、彼の家は大きな古屋敷だった。
実際、周りの人間のあいだでも、彼の家は「古屋敷」という呼び名で通っていた。
男はその家に、独りで棲んでいるようだった。
古びてどす黒く汚れた床に、淡い色のストッキングを穿いた妻の脚が、寒々と映えた。

男は「さ、さ、奥へどうぞ」といって、わたしたちをいざない、
迷路みたいに曲がりくねった廊下を通り抜けて、中庭に面した和室へと案内してくれた。
なにもない座敷だったが、真ん中のちゃぶ台のうえには、待ってましたとばかりに一升瓶が置かれていた。
酒を嗜まない妻のためには、冷えたジュースが用意されていた。

どこから来なさった?
不景気で離職、借金・・・それは大変だったねえ。
それであの会社の社長さんと知り合って、ここに赴任した。そうかね、そうかね。
わたしたちはもっぱら、この田舎に流れてくるまでの過去について話し、
男はもっぱら聞き役になって、わたしたちの話しに同情に満ちた相づちを打って来る。
わたしたち・・・といっても、妻は時折言葉をはさむ程度だったが、
その控えめな態度に、男は明らかに好意を持ったようだった。
すすんでお酌をしたのも、男の心証をよくしたのかもしれない。
妻は地味な性格で落ち着いていたが、そういうところはしっかりしていた。

酒がまわってきた。それも出し抜けといえるほど、急激に――
そしてわたしは身体をふたつに折るようにしてその場に突っ伏し、
同時に男は、傍らに控える妻の細い肩へと手を伸ばした。
「あっ、何をなさるんです!?」
妻の叫び声がした。
どたばたと抗う物音もした。
けれどももう、わたしの身体は痺れたように動かなくなっていて・・・
男のいった「あいさつ」の本当の意味を、理解するはめになっていた。
田舎のみすぼらしい家屋には不似合いなくらい、妻の身なりは洗練されていた。
そんな都会育ちの衣装を揉みしだかれて、はだけたブラウスから覗く乳首を口に含まれて、
千鳥格子のタイトスカートを、腰までたくし上げられて、
ツヤツヤとした光沢を帯びた肌色のストッキングを、むざんに剥ぎおろされて、
身動きできないわたしのまえで、妻は恥知らずな凌辱に素肌をさらしていった――


「今夜も、ごあいさつに伺いましょうよ」
「明日も、お勤め帰りにごあいさつに伺いましょうよ」
「あたし・・・きょうは一人でごあいさつに伺ったの」
妻は罪のない大きな瞳を輝かせて、きょうも「ごあいさつ」を口にする。
「アラ、あなたお隣で振る舞われたお酒、お口に合うって仰ったじゃないの」
けげんそうに言いかえしてくる妻の言うとおり、たしかにあの家の酒は美味だった。
美味な地酒と妻の貞操を交換することに、いつか嫌悪感を忘れかけてしまっていた。
男はわたしたちの頻繁な訪問を悦んで、いつも慇懃に奥の間に通してくれて。
そこでわたしは貴重な古酒を振る舞われ、
足腰立たなくなってしまってから、男は妻に襲いかかる。
妻は男から受ける凌辱を予期しながらも、いつも都会ふうに着飾って、男の家を訪れる。
古くさくみすぼらしい屋敷のたたずまいに不似合いなくらい洗練された衣装は、
男の節くれだった指にむしり取られ、裂き散らされてゆく。
乱れ果てた衣装のすき間から覗く、白い裸体――
そんな情景にわたしは不覚にも昂奮を覚え、
男はそんなわたしの恥ずべき嗜好をあらかじめ知っていたかのように、
都会育ちの人妻然として着飾った妻に、我が物顔でのしかかってゆく。

古屋敷にごあいさつに伺う。
それは、周囲でも公然となっている、地元の風習。
わたしたち夫婦だけではなく、
古くから男を識っているものも。
つい数年まえに転入してきた都会の夫婦も。
定期異動で不運(幸運?)にも当地に赴任してきた教諭夫妻も。
必ず夫婦連れだって、ごあいさつに来るという。
当地に赴任して一年が過ぎた頃、都会の本社から、赴任を継続するかどうかの意向伺いがきた。
妻は大きな瞳でわたしを見つめ、わたしが黙って肯くと、
自分でペンを取って、「可」の欄に大きくマルを書き加えていった。
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