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妖艶なる吸血

淫らな吸血鬼と倒錯した男女の織りなす、妖しいお伽噺・・・

季節はずれの花火

2017年11月13日(Mon) 07:45:38

ひどい眩暈がぐるぐると、俺の頭のなかを渦巻いている。
闇夜でいきなり羽交い絞めにされて、首すじに尖った異物を刺し込まれて・・・
それが吸血鬼の牙だとわかったときにはもう、抵抗もできないほどに、血を抜かれてしまっていた。
その場でへたり込んだ俺のまえで。
連れだって歩いていた真由美までもが、襲われた。
「やだー!助けてー!」
悲鳴をあげて逃げ惑う真由美もすぐつかまえられて、俺と同じように首すじを咬まれてしまった。
ゴクゴクと露骨に喉を鳴らして、男は真由美の血をもの欲しげに啜りつづけた。
黒のワンピースを血しぶきに濡らしながら、じょじょに姿勢を崩してゆく真由美の姿が、薄らいだ意識の向こうへと埋没していった――
うつ伏せに倒れたまゆみの脚に、吸血鬼の老いさらばえた唇がもの欲しげに吸いついて、
ストッキングをパリパリと破りながら血を吸い上げる光景が、俺の記憶を狂おしく染めた。

気がつくと、傍らで真由美がべそをかきながら、俺の顔を覗き込んでいる。
どうやら俺のほうが、重症だったらしい。
あたりはまだ暗く、でも俺たちを襲った忌まわしい翳は、とうにその気配をかき消していた。
「血・・・吸われちゃった・・・へへ・・・」
真由美が下手な照れ笑いを作りながら、目じりの涙を拭っている。
片方だけ脚を通したストッキングは見る影もなく裂け、それだけではなく、
ワンピースのすそはめくれあがって、白い太ももが眩しく俺の目を射た。
どうやら血を吸われただけでは、すまなかったらしい。
けれども真由美は吸血鬼に犯されたことをあからさまに口にはしなかったし、
俺もそんなことを訊くことはできなかった。
話題を択ぼうとして目線をさ迷わせた真由美が、ふと自分の胸元に目を止めた。
気に入りの黒のワンピースに撥ねた血潮が折からの月の光を浴びて、チロチロと毒々しい輝きを放っている。
「花火みたい・・・だね――季節はずれだけど・・・」
放射状に伸びた血潮の痕を目でたどりながら、真由美は独りごとのように呟いた。
こんなに可愛い恋人を守り切れなかったのか――そんな無力感と敗北感にさいなまれそうになった。
そのうち沈んだ空気を追い払うように、真由美がいった。
「ねえ、もういちど、してもらお」
びっくりするほどハッキリとした、いつもの真由美らしいあっけらかんとした声色だった。

え・・・なにを・・・?
戸惑う俺に、真由美はいった。
「あの人言ってたの。週1でだれかの血を吸わないと、灰になっちゃうんだって。だから、感謝するって言ってたよ。また夜道であっても絶対死なせたりしないから、仲良くしよう、また吸わせてほしいって」
そんなバカな・・・言いかけた俺を、真由美は押しとどめた。
「ウフフ。あたしが吸われてるのを見ていて、洩らしちゃったくせにぃ~」
俺の股間に手を差し伸べて、ズボンのうえからイタズラっぽく撫で撫でをする細い指が、半透明の粘液に濡れていた――


「うわ・・・わッ!何するんだッ!?」
いきなりの襲撃にうろたえた声をあげる俺。
でもその声は、すぐに突き入れられた強烈な食いつきに、断ち切れてしまう。
「あんたの首は咬み応えがエエ」
男はそういいながら、なおも深々と、俺の首すじを抉ってゆく。
「くそ・・・く・・・そっ・・・」
歯ぎしりしながら相手を罵りつづける声は声にならず、ただ相手を愉しませるばかり。
俺の生き血がみすみす相手の栄養源になって、その力を得て真由美を犯す気だ――
そんな魂胆を知りながら、もうどうすることもできなかった。
そのうち、くらあっ・・・・とした眩暈が俺を襲い、俺はだらしなくその場に尻もちをついてしまう。
「きゃーっ!ユウくん、ユウくんっ、助けてえッ!」
真由美のあげる悲鳴はどことなく芝居じみていて、わざとらしくて。
逃げ足も遅く、ただバタバタと大げさに、かっこうの良い脚をうろうろさせている。
いくらヒールの高いパンプスを穿いていたとしても、もう少し早く逃げられそうなものだ。
これじゃあ俺の視界にいるうちに、咬まれちまうだろうが。
そんなことを薄ぼんやりと考えながら尻もちを突いたままの俺のまえ、
吸血鬼は真由美のことをつかまえて、不必要に弄ぶように振り回し、
俺によく見えるように真由美の首を締めあげて、白い首すじにガブリ!と食いついた。
「きゃあーッ!」
かん高い絶叫が、夜空にこだました。
愛しい恋人がムザムザと生き血を吸い取られるありさまを、
俺ははじめからおわりまで、たんのう――いや、見せつけられる羽目になったのだ。

「ううん・・・ううん・・・だめ・・・だめえッ・・・」
真由美の拒絶は甘えがちな声色になって、
迫って来る男をはねつけようとしているのか、そそりたてようとしているのか、わからないくらいだった。
卑猥な唇を足許に近寄せてくる吸血鬼のまえ、黒のストッキングになまめかしく染めた脚をくねらせながら、真由美はひたすらお慈悲を乞うている。
もちろんそんなものが認められるはずもなく、
吸血鬼は真由美の脚にストッキングのうえから舌を這わせ唇をふるいつけて、
むざんな裂け目をメリメリと拡げてゆく。
「ああーッ、いやぁ~ッ!ユウくーんッ!」
真由美がまたも、俺の名を呼んだ。

わざとなのだ。
すべてわざとなのだ。
襲われ始めたところから、すべては俺たちのお芝居。
吸血鬼に襲われるカップルを熱演したご褒美に、俺たちは若い血をたっぷりと吸い取られて、
あげくの果てに真由美はストッキングを剥ぎおろされて、
股間に深々と、もうひとつの牙を埋め込まれていき、
俺は俺で、恋人が吸血鬼に姦られるハードなベッドシーンを、心行くまでたんのうさせられる。
真由美はわざと、ユウくん、ユウくんと俺の名を呼びつづけて、俺のなかで覚醒してしまったマゾヒズムを、強引なまでに掻き立ててゆく。
いつもベッドのうえで、俺を無理やりその気にさせるときと、同じようにして――

「花火・・・」
貧血を起こして助け起こされた真由美が、吸血鬼の腕に抱かれたまま、
今夜のために着てきた純白のブラウスの胸に視線を落とす。
撥ねた血潮が放射状に散って、たしかに花火のように見えなくもなかった。
それ以上に真由美の脳裏には、もうひとつの花火が散っている。
恋人のまえで犯されて、ありのままの本能をさらけ出して悶え狂ってしまう――そんな衝動が昏(くら)い閃光となって、真由美の脳裏を狂おしく染めていた。
そして俺も――
植えつけられたマゾヒズムが妖しい触手を拡げ、心の奥を侵蝕し、塗り替えてゆく。
支配され飼い慣らされてゆく恋人を目の当たりにする悦びに、
今夜も不覚にも、激しい射精をくり返してしまっている。

花火は夏だけとは、かぎらない。
恋人の足どりが薄黒いストッキングに妖しく映える秋。
欲情に満ちた吸血鬼の目が次にとらえるのは、貴男の恋人の足許かも知れない――
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