淫らな吸血鬼と倒錯した男女の織りなす、妖しいお伽噺・・・
OLたちと吸血鬼 ~妹とその親友~
2018年02月12日(Mon) 13:18:30
勤め帰りのOLを狙う凶悪事件が、続発していた。
そのほとんどは闇に葬られたが、数人のOLが被害を届け出たことから発覚し、
オフィス街ではOLの残業を禁止する企業まで出るほどだった。
襲われたOLは深夜、ビルの警備員に発見された。
帰宅途中現れた男にいきなり首を咬まれ、そのあとのことは憶えていないという。
気絶して間もなかったらしく、幸い着衣の乱れはなかったものの、
咬まれたのは首すじだけではなく、両脚も咬まれていた。
被害は貧血とストッキングが破けただけで、本人の希望もあって大事には至らなかった。
そのような事件がすでに、知られているだけでも三度、発生していた――
夜10時。
銀行員の中平直子は勤め帰りの道を急いでいた。グレーのスーツ姿が、明るい街灯の下に照らし出される。
ひざ丈のスカートのすそから覗くふくらはぎはうっとりするほど絶妙な曲線を誇っていて、
本人の意思とはかかわりなく、なにかを引き寄せてしまいそうだった。
事実――
「ひっ」
直子はひと声悲鳴を呑み込んで、前に立ちはだかった黒い影を凝視する。
「あなた・・・だれ・・・?」
「怖がらないでください」
「私、怖がらないわ」
勝気な直子はそう答えた。
だが、そのあとのことはもう、まったく憶えていない。
気がついたら首を咬まれ、倒れたところをベンチのうえに抱きあげられて、こんどは脚を咬まれていた。
ストッキングのうえをすべる舌がもの欲しげに這いまわり、唾液で濡らされるのをわずかに自覚した。
こいつ、いやらしい。
直子は直感的に相手の卑猥な意図を察知し、脚をばたつかせようとしたが、強い力で抑えつけられてびくともしなかった。
彼女は悔しげに歯噛みをしたが、失血で頭が痺れ、身体に思うように力が入らない。
そうこうするうちに、抵抗できないままにストッキングを咬み破られて血を吸われた。
男はご丁寧にも両方の脚にかわるがわるそのけしからぬ悪戯をくり返すと、やっと直子を放した。
身体から力の抜けてしまった直子は、男の思うままに吸血行為を許してしまった。
「それがね、そいつったら私のこと、タクシーに乗せて家の近くまで送ってくれたの。ずっとこうやって手を握ってね、すまなかった、ありがとう、助かったよって、しつこいくらい何度もくり返すのよ。私、もう、うるさくなっちゃって、“少し黙って。運転手さんに聞こえるわ”って言っちゃった。そしたらさ、そいつおっかしいくらいにぴたりと黙るの。私は貧血でふらふらだったけど、そうじゃなかったら笑ってたと思う。家まで突き止められるのはマズイと思ったから、近くでおろしてくれって言ったら、大人しく言うことを聞いてくれたわ。案外義理堅くて親切なやつだった。事件が表ざたにならないのは、そのせいかもね」
親友で同期の本条沙代里が出勤してくると、直子は待ってましたとばかり沙代里を給湯室まで引っ張っていって、吸血鬼に襲われてから解放されるまでのてんまつを、一気にまくしたてた。
「え~、怖くなかったの?」
賢明で慎重な性格の沙代里は、嫌悪と恐怖に口許に手を当てながら直子の話を聞き、夕べは貧血だったという親友を気づかった。
「で、銀行には届けたの?」
「まさかぁ、そんなのやだよ。首すじを吸われただの、ストッキング穿いた脚をイタズラされただの、そんなこと男の上司に言える?ましてあたしが言うとしたらあのドスケベ中松だからね!」
「そっか」
沙代里はそういって、直子の言い分に半分賛成した。
沙代里は勤め帰りのスーツ姿のまま、いっしょに暮している兄の氷唆志(ひさし)を待っていた。
田舎から出てきた兄妹は、同じアパートに住んでいる。
氷唆志にも沙代里にも恋人はいなかったので、どうやら成り立っている共同生活だった。
いずれはどちらかが先に結婚してここから出ていくとしても、沙代里には兄との生活が楽しかったので、いまの生活が一日でも長く続くと良いと考えていた。
このごろ兄は帰りが遅い。
勤めを終えて帰宅した沙代里が作ったせっかくの心づくしの夕食も、手をつけずじまいの日が何日か続いていた。
ちょうどオフィス街で吸血事件が相次ぎ始めたころだったので、帰宅の遅い兄のことを沙代里は本気で心配し始めていた。
玄関先でドアを開ける音がした。
さよりはちゃぶ台の前から起って、兄を迎えた。
氷唆志の顔色は、真っ蒼だった。
「どうしたの?お兄ちゃん」
気づかう沙代里の声も耳に入らないように、氷唆志はその場にうずくまると、「ちょっと離れていてくれ」とだけ、いった。
そうはいわれても・・・心配じゃないの。
沙代里は苦しむ兄のそばを立ち去りかねて、ちょっとのあいだ逡巡した。
それがいけなかった。
ふと顔をあげようとした氷唆志の目のまえに、ストッキングを穿いた沙代里の脚が佇んでいた。
気分の悪い兄を気づかう妹の、頼りなげな足許――
しかし、氷唆志の目はすでに、鬼の様相を帯びていた。
肌色のストッキングに包まれたふくらはぎは、若々しい生気に満ちていて、飢えた男の目にはジューシーな血色を感じさせた。
氷唆志は素早く妹の足許ににじり寄ると、足首を抑えつけ、ふくらはぎに唇を吸いつけてしまった。
本人の意思を越えたなにかが氷唆志を動かしているような、ひどく敏捷な動きだった。
「エッ?お兄ちゃんッ!?」
沙代里は目を丸くして立ちすくみ、不覚にも兄の望むままにふくらはぎを吸わせてしまっていた。
両方の脚を代わる代わる、いとおしむようにその唇で撫でさするように舐められて、
「ちょっと・・・お兄ちゃん、なにイタズラしてるの?やらしいよ」
沙代里は兄がふざけているのだと思って、兄の大人げない行為をたしなめた。
まるで子供のころに戻ったみたい――遠い昔兄妹で吸血鬼ごっこに興じたことを沙代里は思い出した。
――じゃ、お兄ちゃんが吸血鬼になるから、沙代里は逃げるんだよ。でも最後にはつかまえられて、お兄ちゃんに血を吸われちゃうんだ。
足許に唇を這わせてくる兄の行為をさえぎろうとして、沙代里は身をかがめる。
肩までかかる黒髪がユサッと揺れて、二の腕に流れた。
遠い記憶をたぐる沙代里の想いとは裏腹に、スーツ姿のまま黒髪を揺らすOLは、なまめかしい大人の体臭を滲ませてゆく。
「ちょっと・・・ちょっと・・・やめなさいよ・・・」
兄の悪戯を制止しようとした沙代里の声が、とぎれた。
氷唆志の唇から覗いた牙が、ストッキングを破り沙代里のふくらはぎに深々と刺し込まれたのだ。
ちゅ~っ・・・
ちゅ~っ・・・
素肌から抜き取られてゆく血液が、兄の唇に経口的に含まれてゆくのを目の当たりに、
沙代里は正気を失い白目になって、身体のバランスを崩した。
アパートのほの暗い照明の下、不気味な吸血の音が、間歇的につづいた。
「ねえ聞いて。総務のサトコなんだけど、ご執心なんだって」
「・・・え?」
耳よりの話を持ちかけてきた直子に、沙代里は眠そうな声でこたえた。
「あらー、寝不足?沙代里にしては珍しいわね。夕べ彼氏とデートだったとか?」
「そ、そんなんじゃないよ」
「あつ、そうか。沙代里はお兄さんとラブラブなんだもんねー」
直子はもちろん、沙代里が兄と暮らしていることを知っていたし、どうやら沙代里に彼氏ができないのは、お兄ちゃんのことが好きだかららしいことも、おおよそ察しをつけている。
「で、サトコがどうしたのよ」
沙代里は直子の挑発をやり過ごして、話の先を促した。
「例の吸血鬼事件、サトコも被害者だったのよ。でもサトコったら銀行にも届け出ないで、それ以来定期的に相手の吸血鬼と逢っているらしいの。こないだ私、まだ残業になっちゃって、通りかかった公園でサトコがあいつに咬まれているの見ちゃったんだ」
「えー、そうなの?」
“じゃあどうしてそのとき教えてくれなかったのよ“という沙代里の表情を察して、ナオコが続けた。
「そのときはサトコが彼氏と抱き合ってるのかなって思ったんだけど、ちょっと気になったからそのへんでちょっと時間をつぶして待っていたの。そうしたらサトコのやつひとりで公園のほうからやってきて、あたし声かけたのに無視してすーっと地下鉄のほうに行っちゃったの。聞こえないわけないと思ったんだけどな。で、そのときね・・・」
直子はちょっとだけ声を潜めて、いった。
「サトコのストッキングが、破けてたの。それも両脚」
「それだけじゃ吸血鬼かどうか、わからないじゃない」
「ストッキングが破けて、血が滲んでいたんだよ。あと、ブラウスの襟首もちょっと、汚れていたな」
「あなたも観察魔ねぇ」
「それからね、あの子ったら毎日、光沢入りのストッキング穿いてくるようになったの。こないだ帰りの更衣室で一緒になって、別々に着替えていたんだけど、ロッカーの向こう側でストッキング穿き替えてるのがなんとなくわかって、私知らん顔していたんだけど、出ていく後ろ姿だけ見たら、ほら、このごろよくあるじゃない、テカテカに光る光沢タイプのストッキング。あれ穿いてるのよ――きのうは違ったけど――彼氏がいるって話も聞かないし、もしかして・・・あいつに愉しませるために穿き替えたの~?って」
直子は整った目鼻をひん曲げて、小意地が悪そうにもうクスクス笑っている。
「もう・・・吸血鬼なんてばかばかしい」
沙代里はそういって話を打ち切った。
直子に言われるまでもなく、吸血鬼に襲われながら銀行に届けを出さなかったOLが数人いることは、うわさで聞いている。
彼女たちは相性がよかったのかもしれない。
だから自分が襲われたことは表ざたにしないで、その後も“彼”と逢いつづけて、血液を与え、ストッキングを破らせているのだろう。
そんなOLが、このオフィス街に何人いるのだろう?
「そういえば夕べはノー残業デーだったからね、被害を受けた女の子もいなかったんじゃないかな」
立ち去りぎわ直子はそういってバイバイ・・・と沙代里に小手をかざして、自分の課のミーティングルームへと向かっていった。
閉店の業務が一段落した後は、4時からまた気の重いミーティングだ。
そろそろボーナス商戦が始まるから、話題はきっとそれだろう。
今夜は帰りが遅くなるかも――沙代里はふと、氷唆志のことを想った。
「な、なによいきなり急にっ」
背後にひっそりと佇んだ沙代里に気がついて、直子はびっくりして飛び上がった。
「また吸血鬼が出たかと思ったじゃない!」
「あ・・・ゴメン」
うっかり気配を消してしまっていたことに気がついて、沙代里は素直にわびた。
「いいんだけどさあ、きょうはあなた、ちょっと元気ないんじゃない?早く帰ったほうが良いわよ」
元気のないときに吸血鬼に狙われたら、貧血じゃすまなくなるじゃない・・・と続けたときにはもう、ジョークのきついふだんの直子に戻っていた。
「それでさ、よかったら明日、うちに来ない?兄を紹介してあげる」
「エッ!?ほんと?それはラッキー」
直子が快活な笑いをはじけさせた。
「明日はノー残業デーだから、直子も早く終わるよね」
沙代里は念押しをした。
賢明で慎重な同期の親友の、いつになく蒼ざめた目鼻立ちに、冷ややかな笑みがよぎるのを、いつも目ざといはずの直子はうっかり見逃していた。
翌日の夜――
ちゃぶ台には沙代里の作った手料理が、乗り切らないほどに並べられていた。
でもまだだれもそれらの食事には見向きもせず、もちろん手もつけられていない。
その料理の山を横目に見ながら、直子は氷唆志の寝室でうつ伏せに横たわり、氷唆志に脚を吸われていた。
ふつうの若い娘らしく、ちょっとだけ改まってしおらしい感じで「お邪魔します」と玄関をあがると、顔色がいちだんとわるくなった沙代里が「兄を紹介するわ」と、奥の部屋に案内をした。
だれもいない部屋の半ばまで入った時、直子の後を追うようにして入って来た男を視て、直子は絶句した。
「やっぱり知っていたのね、兄さんのこと」
沙代里は顔にわずかに嫉妬の色を泛べて、動揺の走る直子の横顔を冷ややかに見た。
回りくどい逢わせ方をしたのは退路を断つためだったのだということを、直子はすぐに自覚した。
男は無言で立ちすくむ直子に迫り、ブラウスの襟首から覗く白い首すじに牙を突き立てていった。
「ゴメン直子、あまり大声立てないで。近所迷惑だから」
直子はなぜか沙代里の言いぐさに義理堅く応じて、貧血になってひざを崩してしまうまで、ひと声も立てずに血を吸い取られていった。
あとから直子は思ったのだ。
たぶん、あのぶきっちょで誠実な男になら、もう一度血をあげてもいい――心のなかでそう思っていたに違いなかったと。
姿勢を崩して畳のうえに倒れたとき、直子はストッキングを穿いた脚を狙われると自覚した。
血を喪う恐怖よりも、真新しいストッキングをおろしてきてよかった――などと思うことができたのは、沙代里の兄が自分のことを死なさずに血を愉しむつもりにちがいないと踏んだからだ。
果たして氷唆志は、その冷え切った唇を直子のふくらはぎにあてがって、初めてのときにそうしたように、念入りになぶり始めた。
氷唆志の口許から洩れてくる唾液は足許のナイロン生地をいやらしく濡らしたが、いやらしくぬめりつけられる舌に、かすかな好意が込められているのを直子は感じた。
その好意にすがるような気持ちで直子は男の卑猥ないたぶりを許し、彼がご丁寧に両脚とも唇を吸いつけて、ストッキングを破ってしまうのを、唯々諾々と許してしまった。
趣味のスポーツで鍛えた若い血が、ヒルのようにぬめりつく男の唇に吸い上げられてゆく。
直子はうっとりとした目つきになって、自分の血が吸い取られてゆくチュウチュウという音に、聞き入っていた。
「ありがとう。失礼なことをしてしまって、すまなかった」
貧血を起こして畳のうえに転がった直子のまえで、氷唆志は正座をして頭を垂れた。
卑屈そうな様子に、自分のしていることへの後ろめたさがにじみ出ていた。
「これからも兄に逢ってくれる?」
いつになく真剣な表情でひたと見すえてくる沙代里の目が、ちょっとだけ怖いなと思ったけれど――
直子は起き上がるとすぐに、いった。
「やだお兄さん!そんなにしゃちこばらなくたっていいじゃないですか!」
ほっとした兄妹が顔を見合わせるのをみて、直子はやっぱり兄妹って顔だちが似ているんだと思った。
「新しいストッキング穿いてきてよかったー、お兄さんの前で恥をかくとこだったわよ」
直子は沙代里にそういった。
お出かけ先のおしゃれに気を使い合う同性同士の口調だった。
「さっ、御飯にしよ。せっかくのお料理冷めちゃう」
直子は貧血をこらえて起ちあがると、率先してちゃぶ台についた。
兄はね、べつの吸血鬼に襲われて吸血鬼になったの。
その吸血鬼は私たち兄妹と同じ村の出身で、都会に出てきて吸う血にこと欠いて、兄を襲ったの。
今でも都会のあちこちを徘徊しているんだけど、あのオフィス街は兄のものって認めたらしいわ。
自分の血を全部与えることで、その権利を獲得したの。
兄は私がほかの吸血鬼に襲われて死んでしまうことを心配したらしいの。
でも、いまの生活を安穏に送るにはもうひとつ条件があって――今度その吸血鬼が戻ってきたときに、処女を二人捧げなければならないの。
それが、私とあなた――そう指さされても、直子は動じなかった。
「最愛の女性ふたりをモノにしてしまって、お兄さんを完全に支配してしまおうというわけね」
頭の良い直子は、呑み込みも早かった。
「お兄さんはそれでもいいの?妹と恋人が吸血鬼に抱かれてしまっても」
女ふたりは同時に氷唆志を見た。
「奪られてしまうのは嫌だけど・・・直子さんや沙代里が血を吸われるのを見たらちょっとゾクゾクしちゃいそうだな」
「その感覚、わかんない~」
女ふたりは声を合わせて、氷唆志に反論した。
「あなたが・・・兄を襲った吸血鬼・・・?」
勤め帰りの沙代里は息を詰めて、相手の男を見あげる。
その視線は催眠術にかけられたかのように虚ろで、本人の意思も吸い取られてしまったかのようだ。
「安心しなさい。死なせはしない。あんたはわしの親愛なる氷唆志の最愛の妹ごぢゃ。ほんの少ぅし、辱めを体験していただくことになるがな」
「わかりました。辱め、OKです」
沙代里は従順に目を瞑る。
真っ白なブラウスの襟首に、飢えた吸血鬼の牙が迫った。
妹に迫る危難を、氷唆志はただぼう然と見守っている。
氷唆志首すじからは血が流れ、さっきまで咬まれていた痕はジンジンと痺れるような疼きを帯びていた。
その疼きが、氷唆志の動きを封じてしまっていた。
吸血鬼はスーツ姿の沙代里の首すじを咬んで、沙代里は立ったまま相手への吸血に応じつづける。
ブラウスの胸元を結ぶ百合のようにふんわりとしたタイにぼたぼたと血潮がしたたって、
そのまま姿勢を崩して尻もちをついてしまった足許に、飢えた唇をなすりつけられて、
自宅のアパートで初めてそうしたときと同じように、勤め帰りのストッキングをチリチリになるまで咬み破られて・・・
沙代里が堕ちてゆくのを目の当たりに、氷唆志はそれでも、彼女の受難から視線をそらすことができなくなっている。
自分がしたときよりも、上手に破くんだな・・・やっぱり慣れてるヤツは、違うよな・・・
理性を失った氷唆志は、薄ぼんやりとそう感じた。
沙代里はブラウスをはだけられ、ブラジャーをはぎ取られ、あらわになった乳首を貪欲な唇に含まれむさぼられていった。
そして、兄の前で羞ずかしいことにスカートをたくし上げられてゆく。
肌色のストッキングの腰の部分の切り替えまでは、氷唆志も目にしたことがなかった。
もう1ダース以上も、妹のストッキングを咬み破って来たというのに。
いちど吸血鬼の腰を股間にうずめられてしまうと、沙代里は従順に相手の欲望に従いはじめてゆく。
戸惑いながら、ためらいながらも、身体を合わせ、ひとつになってゆくのだった。
そんなまぐわいが何度も何度もくり返されたが、男の振る舞いはどこか愛情に満ちていて、沙代里の身体をいつくしむようにして撫でつけ、まさぐり、舐めまわしてゆく。
氷唆志は激しい嫉妬とともに、沙代里の肉体を自らが属する吸血鬼に捧げたことや、愛する妹の肉体に吸血鬼が満足を覚えているようすであることに、えもいわれない充足感を感じていた。
すべてが果たされてしまった後、吸血鬼はいった。
明日はもういちど、お前の妹を凌辱する。そしてその翌日は、お前の恋人を抱かせるのだ――と。
氷唆志は口許をわなわなとさせながら、呟きで応じた。
「ハイ、あさって、直子を連れてきます。どうぞ直子の貞操も、心ゆくまでご賞味ください。未来の花嫁を、貴男と共有したいのです・・・」
痺れた唇がひとりでに動いているようだった。
直子は目を見開いて、吸血鬼と向かい合った。
黒い瞳もそうだが、白目も清らかに見える――氷唆志はそう思った。
その瞳はまるで催眠術にかかったように、意思が感じられなかった。
いつものあの勝気さも、饒舌さまでも失って、いま虚ろな目をしてわれとわが身をめぐる血潮を、吸血鬼の餌食にされようとしている。
未来の花嫁は、今や吸血鬼の腕のなか――けれども後悔はない。
自分の持っているすべてをあの人に捧げるのだ。そう氷唆志は思った。
「お兄ちゃんはそれでいいの?」
妹の沙代里はいった。
傍らの女二人は、自分の味方。いまもこれからも、無私の愛情を期待できる存在。
その二人を、吸血鬼の毒牙にかける。
それも、かつて自分の血を吸い尽した者の欲望のために。
氷唆志は身体じゅうの血管が震えるほどの昂奮を覚えていた。
「氷唆志さん、許してっ。許してねッ・・・」
いよいよ組み敷かれるとき、直子はそう叫んでこちらを見た。
だいじょうぶだから――という想いを込めて、氷唆志もその声に応じた。
ずぶり――
吸血鬼の牙が、直子の首すじを襲った。
あふれる血――うら若い熱情を秘めた血潮が直子のブラウスを浸し、男の唇を悦ばせる。
それがどんなに美味であるのか、体験し尽してしまった氷唆志だからこそ、相手の満足感も肌を接するほどに伝わってくる。
沙代里のとき以上の激しい歓びに、氷唆志は昂りにむせんだ。
貧血を起こした直子はその場に倒れ臥し、男は直子のふくらはぎにも、唇を吸いつける。
穿いていた肌色のストッキングが、パチパチとかすかな音を立ててはじけた。
やっぱり上手だ――氷唆志は胸を震わせて、恋人に加えられる凌辱を見守った。
妹のストッキングを咬み散らした牙が、いまは直子のストッキングまでもむざんに咬み剥いでゆく。
くたり、と首を垂れた直子が、四つん這いになり、やがてその姿勢を支えることもままらならず、うつ伏せになってゆく。
吸血鬼は直子のふくらはぎにもういちど取りつくと、チュウチュウと得意げな音を立てて、直子の血を吸いあげた。
じょじょにブラウスを脱がされてゆく直子の胸が、薄闇のなかであらわになった。
一昨夜の妹と、まったく同じ経緯だった。
吸血鬼は息荒く直子に迫り、まるでレイプのような荒々しさで、勤め帰りの直子のタイトスカートをめくりあげる。
直子が穿いていたのは、ガーターストッキングだった。
「あの晩のために、奮発したんだから」
あとで直子は沙代里に、妙な自慢をしたものだった。
ショーツをむしり取られた直子は、謝罪するように氷唆志を見、氷唆志はそれを受け容れるように、ゆっくりと肯きかえす。
むき出しになった浅黒い臀部が、開かれた白い太もものはざまに、ずず・・・っと、沈み込んだ。
ああ・・・
直子の顔が苦痛に歪み、口紅を鮮やかに刷いた小ぶりな唇から、白い歯が覗いた。
歯並びのよい歯だと、氷唆志は思った。
健全に育ってきた善意の若い女性が、いまやむざんに辱めを受けてゆく。
そんなありさまを、将来を誓いながらも許し、ただの男として愉しんでしまっている、もっと恥ずかしい自分――
けれども恥ずかしい歓びに目ざめてしまった氷唆志も、未来の夫のまえであられもない痴態をさらけ出してしまっている直子にも、後悔はなかった。
瞬間、吸血鬼は「え?」という顔で、直子のことをまともに見た。
「ウン、私――処女じゃない」
直子もまた、ぱっちりと目を見開いて、吸血鬼をまともに見た。
「貴様――」
吸血鬼の怒りは氷唆志に向いたが、本気で怒っているわけではなさそうだった。
「無理もないな、許す」
と、あっさり二人の関係を許していた。
「それでも、わしに花嫁を抱かれるのは、さぞやつらかっただろうな」
「とても悔しかったけれど・・・貴男はわたしよりも上手だし――でも、ちょっとだけ愉しんじゃいました」
エヘヘと笑う氷唆志は、沙代里の好きないままでの快活さを取り戻している。
「もう、エッチ!」
そういって恋人の背中をどやしつける直子もまた、自分を取り戻していた。
「時々なら、妹を抱きに来てくれていいんですよ。彼女はたぶん、結婚しませんから」
「それに、今度お目にかかるときには直子はぼくの妻となっていますが、好きな時に誘惑に来てくださいね。直子もきっと、ドキドキしながら貴男に抱かれるでしょうから」
「でもそういう夜にはきっと、沙代里がぼくのところに忍んできます。だからぼくは、寂しくはない」
「ひとつだけ果たされていない約束があるな――処女は2人」
吸血鬼はなおも貪欲だった。
「しつこいわね」
直子は白い歯をみせて、笑った。
「じゃ、私の妹を紹介してあげる。あの子独身主義なんだ。でも女が独りで生きていくのは、やっぱり大変だと思う。だからあなた、守ってあげて」
直子はどこまでも明るく、身勝手だった。
【付記】
このお話は5日の朝に、ほとんど完成していましたが、ちょっと直したかったのですぐにはあっぷしないでいました。
きょう、ようやく少し時間が取れたので見直しをして、あっぷしました。
細部は多少いじりましたが、おおすじはほとんど変わっていません。
モチーフとしては、バブル期のOLさんをイメージして描いてみました。
あのころのOLさんは、テカテカのパンストをよく穿いていましたっけ。
ビジネスな女性たちとオフィスな女性たちとが、装いひとつでは区別がつかなくなったのも、このころだったと思います。
「結婚するまで純潔を守る」という倫理観がおおっぴらにすたれてしまい、
女性たちが躊躇なく処女を捨てるようになったのも、このころだったかもしれません。
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